検証・電力システムに関する改革方針

「自然エネルギーですべての電力をまかなう町」の第2部です。

占部町に伝わる乙女伝説1  連載小説51

2012年07月14日 | 第2部-小説
  町営バスの話が終わると松本は「この占部には乙女伝説があるんですよ」といった。将太は話題豊富な人だと思い、町に愛着を持っている人だと思った。
 武田家臣は再興をめざしたが天下の移り変わりははやかった。勝頼亡きあと織田信長はその3カ月後、明智光秀に討たれ、豊臣秀吉の天下になった。最後のたたかいをした徳川家康も豊臣に恭順して群雄割拠の時代は終わった。占部にきて2年がすぎると武田家再興の夢はもはやだれも持っていなかった。
 町からとどく風の便りは昔と変わらぬ平穏な暮らしになったという。おちた家臣の者たちも以前のような緊張感は薄れ、親元や兄弟とひそかに会う者が目立つようになった。だがだれ一人、山を下りようとはいわなかった。
 腰抜け、卑怯者といわれるのを恐れ、誓いを自分から断つ勇気がなかった。だが、甲府盆地を眺めることができる見晴らし峠に立つ者の姿が増えた。

 そんな郷愁の気持ちが濃くただよう年だった。道端に黄色や紫の草花がいっせいに咲きほころんだ春の山道を旅姿で、下男を2人従えた商家の娘らしき者が登ってきた。時刻は10時頃だった。目をまっすぐ前に向けながらもどこか浮き浮きそわそわしている。
「まだ遠いの」と男に聞く。
「もうすぐです。お嬢様」
「・・・・・・」
 娘は黙ったままだ。両親を説き伏せ、「楓、一生のお願いです。繁蔵殿は私の婿殿のございます。いまや天下は安泰。なんで山に篭る理由がありましょうか。一目お会いして、山からお下り頂けるようお願いもうしあげます」と涙流して、繁蔵を迎えにいく許しを請うた。

 繁蔵は30騎を率いる足軽大将の2男坊だった。家督を相続することはないため、17歳の楓と婿養子の話がすすんだ。自宅座敷で見合った。初対面で声も交わしていないが一目見て、やさしい人だと思い。好きになった。ところが戦で話は頓挫してしまった。