天地わたる手帖

ほがらかに、おおらかに

20週俳句入門の申し子

2019-05-24 02:16:08 | 句会


5月22日に行った「KBJ俳句の集い」(第4回目)ははじめての句会となった。
出席者はぼくのほかに野崎和夫、木村弘子、喜多いさむ、喜多照子。出句数は36句、7句選。やはり俳句の集まりは句会がいちばん合理的である。俳句茶話会だとぼくと話していない人は退屈する。句会だと誰と話をしない時間も句を読んでいるから脳は活動している。
俳句は句会にかぎるのである。
36句7句選を即断したのは句を概観したとき思ったよりよかったからである。

白鷺や汀に跳ぬる稚魚の群 和夫
雉子鳴き令和の御代となりにけり 和夫
バイクに乗る夫の背中に緑さす 照子
老女には何も変わらぬ立夏なり 照子
夏立つや花舗に女と濡れ鋏 弘子
広がりて若布は桶に海を恋ひ 弘子

以上のように、そこそこみなさん頑張ったのであった。
句会を行うことを特に喜んでいたのが喜多いさむさんであった。彼からは句会後すぐ感想文が送られてきた。



◆寄稿===================================================================

されど俳句  

喜多いさむ

天地わたる先生に会ってしまったのは、春になりかけの今年3月29日のこと、イイノホール一階の客席中央部で隣同志になった時でした。
俳句は五七五音の語数と季語があることしか知らない私が、幕間に、先生に最初に聞いたのが、「季語の無い俳句もあるのですか」でした。
この時点で私は俳句に興味があったのではなく、生まれつきの好奇心からのことだけでした。
先生は「無季もありますが、なんといっても季語により句が引き締まります」……確かそう言われたと思います。この意味の深さは後に重たくなって帰ってくるのですが、当時の私には理解できないことでした。
次にぶしつけにもお聞きしたのが、「俳句で最も大切なことは何ですか」でした。
先生は少し間をおいて、多分、頭の中では「何ということを言うこの野郎は」と思ったのではないかと思いますが、丁寧に、そしてきっぱりと「作者は感情や思いは言わないで、物事や情景を詳細に描いて、読者の心を揺さぶることです」とおっしゃいました。
参りました。
まったくの素人が尋ねたことに、真正面から、素人にも分かる言葉で返されたことに驚いたのです。
柿くへば鐘が鳴るなり法隆寺 
やせ蛙負けるな一茶ここにあり 
古池や蛙飛び込む水の音 
不思議にも、このような句が脳裏を駆けめぐり、大きく頷かずにはおられない心境となってしまいました。

元来、読書と言えば、必要に迫られての実用書程度で、文学の意味は軽んじていましたし、最近はホンダの中型バイクのCBR400Rという赤いカウル付のレースタイプ車を購入したばかりで、趣味と言えばバイクでのツーリング、あるいは家にあってはナンバープレート(1~9を並べるゲーム)に凝る私が、先生にお会いして2か月で大きく急旋回を始めています。
バイクはバイクで、晴れた日は乗って楽しい、ナンバープレートも寝る前の半時間を「朝飯前」にこなしていますが、俳句に比べれば達成感や満足度の深さやスケールが違うような気分です。

ところが俳句は作りたいのに作れない。作りたいと気に掛かる。初心者だから作れないことぐらいわかっていても何とかしたいと悩む自分が、また嬉しい。
今日5月22日は、私にとって2回目のKBJ句会でした。顔なじみの方々も集まり、私にとって初めての「句会」を開催して頂いた。
夢中で作ったと言うか、苦しみの滲み出た自分の句の出来不出来の結果も気に成りつつ、先生の読みの深さに驚きました。自分がそこにいるだけで嬉しくもあり、辛くもあることに気付いてしまいました。6月は26日だ。また、新たなスタートです。

嬉しくも出てこない俳句は、一言と一言との組み合わせ選ぶことの出来る視点と修練を自分に課してくれる。新たな人生を自覚して今日・明日・今週・来週が楽しみになってきました。

結局、できなくても仕方ないと腹をくくって、やるしかない。それでも今は良い。この道も行かなければ知ることもできないに違いないと思えるようになっている自分が不思議。
覚悟はできています、先生。


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恋文のような文面に驚いてしまった。
なにゆえかくもぼくにほれ込んでくれたかよくわからない。胴上げされている監督がいきなり落とされる恐怖を思わないでもないが、お会いしてからのいさむさんは一言でいうと「俳句火の玉小僧」である。
小僧などとは呼べない76歳であるがぼくと同年齢としか思えない。少年の気に満ちている。俳句がおもしろくて楽しくてじっとしていられないという気分がぼくをえらく心地よくしてくれる。最近こんなに俳句が好きだという気持ちを体全体で表現する方に遭ったことがなく感動している。
「型が大事ですよ、型から入りたい」というので『20週俳句入門』をすすめた。ひと月、この句会に向けて徹底的に読み実践したのだという。
その成果は、
春眠や雲にまぎれつ鳥一羽 いさむ
正直いって驚いた。春眠というおぼろな概念に「雲にまぎれつ鳥一羽」という形象を取り合わせるなど初心者がそう簡単にできるものではない。藤田湘子の教えをたったひと月でここまでものにするとは……。また、湘子の教えの正しさをも再認識した。

春雨や道筋なりの白き線 いさむ
これはそう面白くない。道路に降っている雨では季語が近いから秋雨でも成立してしまう。季語を「つばくら」にすれば自在に動く軌道と白い直線とが妙に生動するのではないか。
そんな話をした。
76歳の火の玉がぼくに火をつけてくれた句会であった。



場を和やかにしてくれた喜多いさむ、照子夫妻

「KBJ俳句の集い」(KBJ句会)、次は6月26日(水)15時に開催します。