国立劇場の「義経千本桜」です。「初代国立劇場さよなら公演」のトップをかざります。元々は令和2年3月に上演予定だったのがコロナのために中止になり、そのリベンジ公演でもあります。菊ちゃんが知盛・権太・忠信の主役三役をお勤めになりました。三役を全段通じて演じられたのは戦後では二代目松緑さん、三代目延若さん、三代目猿之助(現猿翁)さん、十二代目團十郎さん、五代目勘九郎(十八代目勘三郎)さん、エビサンの6人だそうです。孝夫さん
も吉右衛門さんもお勤めではないのですね。確かに、ちょっと“可愛らしい”忠信のイメージはないですが。それに菊ちゃんが挑まれました。知盛を吉右衛門さんに、権太と忠信を菊五郎さんにお習いになったそうです。私はいずれも初めて拝見します。
本編が始まる前に映像の解説がつきました。BGMはNHK大河ドラマの「源義経」でした。菊五郎さんへのリスペクトでしょうか。
Aプロが「鳥居前」「渡海屋」「大物浦」、Bプロが「木の実」「すし屋」、Cプロが「道行初音旅」「河連法眼館」という分け方でした。私はA→C→Bの順で見ました。
まずAからです。国立劇場は12時開演です。それに間に合うように家を出たつもりでしたが、品川の駅で山手線のホームを間違ってしまい(昨年9月に渋谷方面行はホームが変わってた。まだまだ田舎者のワタシです)、ギリギリの到着になりました。「鳥居前」はまだ菊ちゃんの忠信とマシュマロ米吉クンの静御前をしっかり見ました。米吉クンがすっきりと美しくなっていました。その後、休憩でがっつりお弁当を食べてしまい、それがいけません。「渡海屋」以降は少々怪しくなりました。義太夫が気持ち良くてねぇ~
。それでも、遠い意識の中で、梅枝さんの台詞だけは「はぁ~、すげぇ~」(語彙力不足)と思いながら聞いておりました。声も調子も安定しています。前々から同年代の中でも頭一つ抜きんでているとは言われておりましたが、納得しました。立女形の風格さえ感じられました。
菊ちゃんは見た目は美しくすっきりされてるし、台詞ももちろん安定していますが、“知盛と言えば孝夫さん
”と刷り込まれているせいか、つい「今年2月の“一世一代の知盛”見たかったようなぁ…。見られへんかったよなぁ、コロナのせいやんなぁ…」全然違うことを考えてしまって、見てるけど見てないような…。スミマセン。安徳天皇の丑之助さん、しっかりと「帝」になってました。吉右衛門さんも「ごいっしょに」って思ってらしたんでしょうね。
続いてCです。「四の切」はやはり人気がある演目のようで、三階席はほぼ埋まってました。10月は上京するかどうか決めかねていたので、発売初日には切符を取ってなくて、取ろうとしたときには当然のことながら通路側は埋まっており、できるだけ隣がいない席と思って真ん中の席を取ったのですが、行ってみたら前後左右全てにお客さんが座っていました。
こちらは最初から最後までちゃんと拝見できました。菊ちゃんのニンに一番合ってたような気がします。見た目の可愛らしさも重要なんでしょうね。菊ちゃん、とても身軽で“狐”になってました。義経は菊五郎さん、静御前は時蔵さんです。このお二人がテッパンでした。いつも劇団でごいっしょされているので、本当にお似合いのカップルなんです。菊五郎さんは「四の切」の義経役は初役だったそうですが、昔からの持ち役って感じでした。舞台面もとても引き締まります。音羽屋型なので、最後は宙乗りではなく、舞台上手側の木に登って見得を切られました。ちょっと新鮮でした。
最後はBです。こちらは土曜日でしたが、まあまあの入りで両隣は空席でした。「木の実」から出るのって、東京では珍しいそうです。孝夫さん
はお客様にわかりやすいようにと必ず「木の実」からつけられるので、ワタシなんかは「木の実」がなくて「すし屋」だけのほうが違和感を感じるのですが。
菊ちゃんなのでやはり江戸っ子の権太でした。歌舞伎的には何も破綻の無い完璧な権太なんでしょうけれど、ワタシ的には奈良の山奥のヤンキーが「それ、おかしいやん」って違和感ありまくりなんですけどね。言っても詮無いことなんですけどね。
お里が米吉クン、維盛が梅枝さんでした。米吉クン、うまくなりましたよね。声の出し方に緩急があってお里ちゃんのいじらしさ全開でした。玉ちゃん
が今の米吉クンをご覧になったら何とおっしゃるんでしょうかね。一度聞いてみたいものです。梅枝さんはここでもパーフェクトな維盛でした。使用人の弥助から維盛に変わる瞬間なんてゾクッとします。
母親おくらは橘太郎さんでした。橘太郎さん、何となく好きなので出て来られるとちょっとウレシイです。甘々のお母さんでした。菊ちゃんも甘えるのが上手なんです。ああいうふうに甘えられたら仕方ないよなって思ってしまいます。
吉弥さんが小せん、われらが吉太朗クンが若葉の内侍でご出演でした。小せんはどうしても秀太郎さんのことを思い出してしまいます。何ともいえない色気があって、孝夫さん
の権太ともラブラブでした。吉太朗クンも子持ちのお役をされるようになったんですね。12月の南座顔見世でも同じお役です。楽しみです。
こちらも“権太と言えば孝夫さん
”が刷り込まれているので、始終「これが孝夫さん
やったら…」と空想してしまっていた失礼な客はワタシです。孝夫さん
の権太見たいですね。「すし屋」はまだ一世一代とはおっしゃっていないので、なさってくださると期待しているのですが。ただ、小せんがねぇ~。タカタロさんが小せんで、千ちゃんがお里になるのかなぁ…。ちょっと違うような気がするのですが。
話がそれました。「義経千本桜」の通し上演って確か歌舞伎座でも見ているはずなんですが、今回菊ちゃんお一人で三役をお勤めになるのを拝見して、初めてストーリーがつながったような気がしました。「義経千本桜」は題名に義経とありながら、義経は常に脇役と言われていますが、今回通しで見て、大活躍はしないけれど義経が中心にいるなぁって感じました。そうそう、あと「鎌倉殿」っていう単語もこんなに登場してたんですね。それを聞くたびに大泉洋が目の前に出てくるんです
。「すし屋」のラストで「文覚のところへ行け」という台詞があって、そこでも亀ちゃんを思い出してしまい「いやいや文覚はあかんやろ」ってマスクの下でこっそり呟いてしまいました。大河ドラマの影響大です。困ったものです
。
またまた話がそれました。今回、思い切って上京してよかったです。非常に見応えのある「義経千本桜」の通し上演でした。国立劇場は来年10月をもって閉場、建て替え工事に入られます。それまでに歌舞伎公演も何度かあるんでしょうね。こういった大作の通し上演、楽しみに待ちたいと思います。
国立劇場でも緞帳ご紹介がありました。
三階の一番後ろに座ってました。
ロビーの「鏡獅子」です。どなたもいらっしゃらなかったので撮ってきました。