『そぞろ歩き韓国』から『四季折々』に 

東京近郊を散歩した折々の写真とたまに俳句。

読書感想218  流

2017-08-20 23:36:17 | 小説(日本)

流

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読書感想218   流

著者       東山彰良

生年       1968年

出身地      台湾 台北市

来日~現在    9歳の時に日本に移る。現在、福岡県在住。

出版年月     2015年5月

出版社      (株)講談社

本書で第153回直木賞受賞

 

☆☆感想☆☆☆

 物語は中国の山東省の片田舎に建てられた碑文から始まる。そこには匪賊葉尊麟が無辜の民56名を惨殺し、中でも村長王克強の一家は皆殺しの憂き目にあったと記されている。それを見ていたのは、葉尊麟の孫である葉秋生。

 物語は葉秋生の回想に戻って行く。彼は台湾に逃げてきた葉尊麟の孫として台湾で生まれた。葉尊麟は中国にいた時にごろつきだったが国民党に従い抗日ゲリラとして活躍していたという。1975年、葉秋生が高校2年生のときに台湾と葉家にとって大激震が走った。蒋介石が亡くなり、祖父の葉尊麟が殺された。犯人はわからない。また一方、悪友にそそのかされて、入学試験の替え玉受験を引き受けたが、それが発覚して名門高校を退学。落ちこぼれを集めた高校に転校する。そして、そこでの喧嘩三昧の日をすごすようになる。

 暑い台北の下町の雰囲気があふれている。たまたまごろつきでその時の義理で国民党に入って逃げてきた老人たちのほらが混じった自慢話。祖父が寂れた商店街の中にお狐さまの祭壇を設け、お礼をしないと7代まで祟られるとお参りを欠かさない。殺害された幽霊を見て遺体を発見したり、家族の中に自活できない人がいてぶらぶらしているとか、葉秋生の目をとおして追体験できる。

 登場人物も多彩。葉家の家族では、祖父の二番目の妻の祖母、高校教師をしている父、女傑の母、大学出の編集者をしている叔母、借金まみれの怠け者の叔父、祖父の養子の腕っぷしの強い船乗りの叔父。葉尊麟の兄弟分の老人たち。幼馴染の2歳上のお姉さん、悪童の友達。

 国共合作から日中戦争、内戦、中国共産党の勝利と国民党の台湾への撤退といった中国の近代史に翻弄された一家の遍歴と台湾の土俗の的な風土がないまぜになって、さらにミステリーも加わって読み応えがあった。ただ、葉尊麟が殺害した親日派村長の王克強の妻が日本人というところがちょっと日本人の読者を意識したかなと思った。以前から読もう読もうと思っていて、決心がつかなかったが、やっと手にとった。直木賞をとってから2年もたっていて旬が過ぎたが、本書は色あせてはいなかった。数十年の年月を経て謎が解け、悪が糺されたので読後感はすっきりした。


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