水持先生の顧問日誌

我が部の顧問、水持先生による日誌です。

意思(2)

2022年10月01日 | 学年だよりなど
2学年だより「意思(2)」




 「お前が勉強できないのは、お前の頭が悪いんじゃない。単にお前が、自分の人生を生きていないだけだよ」――。
 そう語りかけてくれた柴田先生のことを、西岡は師匠とよぶようになる。
 「人間は誰でも、実は一本の線で囲まれている」と続けた。
 その名前がわかるか、と聞かれて、「わからない」と答えると、師匠は言った。
 「なれま線」だ。
 は? だじゃれ?
 「お前は小さい頃、いろんなものにあこがれてきたはずだ」と言われ、たしかにそのとおりだと思う。サッカー選手、宇宙飛行士、野球選手、会社の社長……




~「でも、小学校から中学校に上がって、どんどん『なれないもの』が増えてきた。サッカーがもっと上手い子がいてサッカー選手にはなれない。頭が悪いから宇宙飛行士にはなれない。野球選手にも、会社の社長にもなれない。そうやって、『なれないもの』がたくさん出てきた」
 そう、そうだ。その通りだ。だんだん、夢なんてなくなっていった。できないものが、なれないものが、どんどん増えてきたのだ。
「『なれないもの』が出てくると、本当はそんなものはなかったはずなのに、『線』ができてくる。ずっと遠くにあって、そんなものはないと思っていたはずなのに、大人になるにつれて『なれま線』が作られてくる。その線は、人1人を取り囲み、そして人間は、その線を飛び越えて何かをしようとすることはできなくなる」~




 「お前は、線がめちゃめちゃ近くにある人間だ」と師匠が言う。
 そうかもしれない。そのとき、自分はなぜこんなに息苦しいのか、その理由がわかった気がした。
 自分で勝手に線をひき、その狭い中に入り込んでいただけではないかと。




~「自分の意思がないから、何も変えられないと勘違いしている。本当はその線は飛び越えられる。それも、いとも簡単に。それなのにお前にだけはその線が見えて、越えられずにいる。お前は本当は変われるんだ。お前は自由だ。少なくとも俺は、そう信じているよ」
                (西岡壱誠『それでも僕は東大に合格したかった』新潮社)~




 自分でさえ諦めてしまっているこのおれを、師匠は信じると言う。
 思わず「変わりたいです」と声に出していた。
 「お前を変える方法がある。それは東大に行くことだ」
 のちに「ドラゴン桜」の監修に携わることになる西岡が、まさにリアル「ドラゴン桜」なことを言われた瞬間だった。

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