水持先生の顧問日誌

我が部の顧問、水持先生による日誌です。

「である」ことと「する」こと(2)

2017年04月16日 | 国語のお勉強(評論)

「である」ことと「する」こと 第二段落


近代社会における制度の考え方 ④~⑧

④ 〈 自由人 〉という言葉がしばしば用いられています。しかし自分は自由であると信じている人間はかえって、不断に自分の思考や行動を点検したり吟味したりすることを怠りがちになるために、実は自分自身の中に巣食う偏見から最も自由でないことがまれではないのです。逆に、自分が「とらわれている」ことを痛切に意識し、自分の「偏向性」をいつも見つめている者は、なんとかして、より自由に物事を認識し判断したいという努力をすることによって、相対的に自由になり得るチャンスに恵まれていることになります。制度についてもこれと似たような関係があります。
⑤ 民主主義というものは、人民が本来〈 制度の自己目的化 〉――物神化――を不断に警戒し、制度の現実のはたらき方をたえず監視し批判する姿勢によって、初めて〈 生きたもの 〉となり得るのです。それは民主主義という名の制度自体について何より当てはまる。つまり自由と同じように民主主義も、不断の民主化によって辛うじて民主主義であり得るような、そうした性格を本質的に持っています。民主主義的思考とは、定義や結論よりもプロセスを重視することだと言われることの、最も内奥の意味がそこにあるわけです。
⑥ このように見てくると、債権は行使することによって債権であり得るというロジックは、およそ近代社会の制度やモラル、ないしは物事の判断のしかたを深く規定している哲学にまで広げて考えられるでしょう。
⑦ 「プディングの味は食べてみなければわからない。」という有名な言葉がありますが、プディングの中に、いわばその「属性」として味が内在していると考えるか、それとも食べるという現実の行為を通じて、美味かどうかがその都度検証されると考えるかは、およそ社会組織や人間関係や制度の価値を判定する際の〈 二つの極 〉を形成する考え方だと思います。政治・経済・文化などいろいろな領域で「先天的」に通用していた権威に対して、現実的な機能と効用を「問う」近代精神のダイナミックスは、まさに右のような「である」論理・「である」価値から「する」論理・「する」価値への相対的な重点の移動によって生まれたものです。もしハムレット時代の人間にとって“to be or not to be”が最大の問題であったとするならば、近代社会の人間はむしろ“to do or not to do”という問いがますます大きな関心事になってきたと言えるでしょう。
⑧ もちろん「『である』こと」に基づく組織(たとえば血族関係とか、人種団体とか)や価値判断のしかたは将来とてもなくなるわけではないし、「『する』こと」の原則があらゆる領域で無差別に謳歌されてよいものでもありません。しかし、私たちはこういう二つの図式を想定することによって、そこから具体的な国の政治・経済そのほかさまざまの社会的領域での「民主化」の実質的な進展の程度とか、制度と思考習慣とのギャップとかいった事柄を測定する一つの基準を得ることができます。そればかりでなく、たとえばある面では甚だしく〈 非近代的 〉でありながら、ほかの面ではまたおそろしく〈 過近代的 〉でもある現代日本の問題を、反省する手がかりにもなるのではないでしょうか。


言葉の意味

「物神化」 … そのもの(こと)自体に崇拝するほどの価値をあるかのように考えること。

「内奥」(読み方:ないおう) … 内部の奥深いところ。

「民主主義」 … 国民一人一人の自由と平等が保障され、国民の利益のために政治は行われるとする考え方。


Q8「自由人」とはどういう人のことか。16字で抜き出せ。
A8 自分は自由であると信じている人間

Q9「自由人」と反対のタイプはどういう人か。40字で抜き出せ。
A9 自分が「捉われている」ことを痛切に意識し、自分の「偏向」性をいつも見つめている者


④自分は自由と信じる
    ↓
    思考や行動の点検・吟味を怠りがち
    ↓   
 自分自身の中の偏見から自由でなくなる
      ↑
      ↓
 自分の「偏向性」をいつも見つめる
    ↓
    より自由に物事を認識し判断したいと努力する
    ↓   
 相対的に自由になり得る

⑤民主主義
  ↓
  制度の自己目的化(物神化)
   ↑
   ↓
 民主主義
  ↓
  制度のはたらき方をたえず監視・批判 =  不断の民主化
  ↓
 生きたもの = 民主主義であり得る

  ☆ 民主主義的思考 … 定義や結論よりもプロセスを重視する


Q10 「制度の自己目的化」とはどういうことか。60字以内で説明せよ。
A10 制度とは何らかの目的を達成するための手段であるはずなのに、
   制度それ自体の維持が目的である状態になってしまうこと。

Q11 「制度の自己目的化」に陥らないためにはどういう姿勢が必要か。25字以内で抜き出せ。
A11 制度の現実のはたらき方をたえず監視し批判する姿勢

Q12 「生きたもの」とはどういうことか。50字以内で説明せよ。
A12 民主主義が、主権者である人民一人一人の利益を保障するための
   制度として機能している状態にあること。

Q13 「二つの極」とは何と何か。それぞれ15字以内で抜き出せ。
A13 「である」論理・「である」価値
   「する」論理・「する」価値

Q14 「非近代的」「過近代的」とはそれぞれどういうことか。
   「『する』論理」、「『である』論理」、「領域」という語を用いて説明せよ。
A14 非近代的 … 「する」論理に基づくはずの領域に「である」論理が残ったままであること。
   過近代的 … 「である」論理が意味をもつ領域にまで「する」論理が入ってしまっていること。


⑥債権 → 行使することで債権であり得る
          ∥
⑦プディング 
  「属性」として味が内在
         ↓
     食べるという行為でその都度検証
     ∥
 社会組織・人間関係・制度の価値
    「先天的」に通用していた権威
            ↓              
     現実的な機能と効用を「問う」
     ∥
 「である」論理・「である」価値
      ↓                   
 「する」論理・「する」価値 
     ∥
   近代精神のダイナミックス

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