情報流通促進計画 by ヤメ記者弁護士(ヤメ蚊)日隅一雄

知らなきゃ判断できないじゃないか! ということで、情報流通を促進するために何ができるか考えていきましょう

こんなふざけた答弁ができるのも情報の隠蔽を許しているからだ!~対米兵裁判権放棄問題パート2

2008-08-11 08:28:12 | メディア(知るための手段のあり方)
 一つ前のエントリー(http://blog.goo.ne.jp/tokyodo-2005/e/39e42e5f941390a2fe28e0ca6fb7a1dd)で紹介した「米兵に対する裁判権放棄の密約に関する文書を国会図書館が閲覧禁止とした件」については、まだまだ、怒りが冷めやらないが、裁判権放棄の密約について、国会議員の質問に対する答弁を読むとさらに怒りがふつふつと沸いてくる。市民を馬鹿にしたこのような答弁ができるのも、国会図書館に圧力をかけてまでも市民に対する情報開示を防ぐことを許しているからだ。もし、情報の恣意的な非公開を封じることができたら、自ずから答弁ももっと真剣なものにならざるをえない。「知らしむべからず」という「専制政治」が日本の政治の実態であることがこの一事からもよく分かる。

 まずは、前のエントリーで紹介した鈴木宗男議員の質問(5月30日)と答弁(6月10日)を確認しておく。

 質問の前文
 【本年五月十八日付の北海道新聞は、同月十七日までに機密解除された米国立公文書館の複数の文書(以下、「文書」という。)により、日本に駐留する米兵らの事件に関し、「重要な案件以外、日本側は裁判権を放棄する」との密約(以下、「密約」という。)に日米両国政府が一九五三年に合意し、その後約五年間に起きた事件の九十七%の第一次裁判権を放棄していたことがわかったと報じている。右の記事(以下、「道新記事」という。)を踏まえ、以下質問する】

 以下、分かりやすくするため、質問と回答を併記します。ちなみに回答は福田首相名でなされる。

 ◎質問
  一 「道新記事」を外務省は承知しているか。

 ▲回答
  外務省として、御指摘の記事については承知している。


 ◎質問
  二 「道新記事」によると、「文書」は一九五八年から一九六六年にかけて作成されたものであるとのことである。その中の一つに、「日米安全保障条約改定に応じるに際し、日本側から裁判権放棄について意思表示を取り付けるべきだ」とする、一九五八年十月二日付の当時のダレス国務長官が在日米国大使館あてに出した秘密公電も含まれているとのことであるが、外務省、または在米国日本国大使館は、これらの「文書」を直接確認しているか。

 ▲回答
  御指摘の「文書」については、具体的に何を指すのか明らかではないが、刑事裁判権に関し、我が国が一定の場合に、我が国の当局が有する裁判権を行使する第一次の権利(以下「第一次裁判権」という。)を放棄することについてアメリカ合衆国側との間で合意していたとの事実はなく、外務省として確認することは行っていない。


 ◎質問
  三 一九五四年から一九五九年の間に、日本駐留米兵が起こした刑事事件の件数並びに、そのうち起訴され、我が国の裁判にかけられた件数につき、それぞれ年ごとに明らかにされたい。

 ▲回答
  昭和二十九年から昭和三十四年までの間に、警察が検挙した米軍の構成員(以下「米軍人」という。)による警察庁の犯罪統計の区分における刑法犯及び特別法犯に係る検挙件数の合計数は、これらのうち警察庁の犯罪統計で確認のできるアメリカ国籍を有する者についてお答えすると、昭和二十九年は二千九百七十五件、昭和三十年は二千四百八十六件、昭和三十一年は二千百六十五件、昭和三十二年は千六百十五件、昭和三十三年は八百九十八件、昭和三十四年は五百四十件である。
  また、同期間の米軍人による犯罪に係る我が国の裁判所への起訴件数については、資料がなく、お答えすることは困難である。


 ◎質問
  四 「道新記事」によると、我が国は一九五三年以降の約五年間、日本駐留米兵が起こした事件のうち九十七%に対して第一次裁判権を放棄していたとのことであるが、右は事実か。

 ▲回答
  米軍人による犯罪について、我が国の当局が有する第一次裁判権を放棄したことはない。また、お尋ねの期間に我が国の当局が第一次裁判権を行使しないこととした米軍人による犯罪に係る事件の件数については、資料がなく、お答えすることは困難である。


 ◎質問
  五 「密約」は事実か。

 ▲回答
  刑事裁判権に関し、我が国が一定の場合に、我が国の当局が有する第一次裁判権を放棄することについてアメリカ合衆国側との間で合意していたとの事実はない。


 ◎質問
  六 当時「密約」が結ばれた理由を説明されたい。

 ▲回答
  刑事裁判権に関し、我が国が一定の場合に、我が国の当局が有する第一次裁判権を放棄することについてアメリカ合衆国側との間で合意していたとの事実はない。


 ◎質問
  七 過去十五年間の、日本駐留米兵が起こした刑事事件の件数並びに、そのうち起訴され、我が国の裁判にかけられた件数につき、それぞれ明らかにされたい。

 ▲回答
  平成五年から平成十九年までの間に、警察が検挙した米軍人による警察庁の犯罪統計の区分における刑法犯及び特別法犯に係る検挙件数の合計数は、平成五年は百九十一件、平成六年は百七十七件、平成七年は百四十二件、平成八年は六十八件、平成九年は九十三件、平成十年は六十件、平成十一年は七十件、平成十二年は百十二件、平成十三年は百六十六件、平成十四年は百件、平成十五年は百五十六件、平成十六年は百三十二件、平成十七年は百三件、平成十八年は八十七件、平成十九年は百三件である。
  また、我が国の当局が第一次裁判権を有する米軍人による犯罪に係る事件の受理人員数及び起訴人員数は、法務省の資料で確認のできる米軍人若しくは軍属又はそれらの家族による犯罪の受理人員及び起訴人員の各合計数を平成十三年から平成十九年までの間についてお答えすると、受理人員数は、平成十三年は六百三十二人、平成十四年は七百二十四人、平成十五年は九百二十九人、平成十六年は八百九十九人、平成十七年は八百三十九人、平成十八年は七百五十三人、平成十九年は七百二十二人であり、起訴人員数は、平成十三年は二百四十一人、平成十四年は二百八十一人、平成十五年は三百九十九人、平成十六年は四百人、平成十七年は三百五十五人、平成十八年は四百一人、平成十九年は三百五十一人である。


 ◎質問
  八 「密約」は現在も効力を有しているか。

 ▲回答
  刑事裁判権に関し、我が国が一定の場合に、我が国の当局が有する第一次裁判権を放棄することについてアメリカ合衆国側との間で合意していたとの事実はない。


 ◎質問
  九 一九九五年と本年の沖縄駐留米兵による少女暴行事件や、その他日本駐留米兵による種々の犯罪、そしてそれらの事件のうち多くが不起訴となり、我が国における裁判にかけられることがない現状を鑑みる時、日米地位協定の大幅な見直しが求められると考えるが、外務省の見解如何。

 ▲回答
  外務省としては、日本国とアメリカ合衆国との間の相互協力及び安全保障条約第六条に基づく施設及び区域並びに日本国における合衆国軍隊の地位に関する協定(昭和三十五年条約第七号)に基づき、我が国の当局が第一次裁判権を有する事案については、関係当局において、個別具体の事案に即して、我が国の法と証拠に基づき適切に対応してきているものと認識している。

 
 
 以上のとおり、政府は、密約の存在を否定していた。



 ところが、その後、この全面否定答弁に対し、密約を前提とする具体的な裁判権放棄の事実が詳しく報道された。6月16日付け東京新聞がそれだ。

■■東京新聞引用開始■■
 日本に駐留する米兵らの事件をめぐり、日米両政府が一九五六年の合同委員会で地位協定に基づき日本側に第一次裁判権がないとされる「公務中」の範囲を通勤や職場での飲酒にまで拡大し、米側に有利な運用で合意したことが、機密解除された米側公文書などで分かった。在日米軍関係者によると、合意内容は現在も適用されているという。

 地位協定は公務中の米兵犯罪について米側が第一次裁判権を有すると規定しているが公務の範囲を明記せず、これまで合意内容は明らかにされていなかった。米側が合意後「有利に処理することに成功した」と評価していたことも判明した。

 文書は日米関係史を研究する専門家の新原昭治氏が、米国立公文書館などで見つけた。

 在日米大使館が七〇年二月二十八日、当時フィリピン政府と地位協定締結に向け協議していた現地の米大使館にあてた「日米地位協定」と題した公電は、五四年から五五年にかけて兵庫県や福岡県などで日本人計四人が死傷した米兵らによる四件の交通事故に言及。

 四件はいずれも帰宅途中などで公務中に当たるかどうかをめぐって日米で議論になり、五六年三月の合同委で宿舎、住居と勤務地の往復や宿舎や勤務地で開かれる「公の催事」での飲酒も公務に含めると合意した。

 分科委員会で日本側は公の催事を狭く解釈するべきだとしながら、将校らが出席していれば公務と認め、事故原因とみなされなければ勤務中の飲酒も公務とすることに同意。通勤途中の「寄り道」を公務に含めるかどうかも「ケースごとに考究する」とした。

 その後、四件は公務中の事故として処理された。公務の範囲は、ほかの事件でも同様に解釈されているという。
■■東京新聞引用終了■■




 これを受けて、照屋寛徳議員がさらに質問主意書(6月17日付)を提出した。質問の内容は、上記東京新聞が報道した1953年密約を背景にした具体的な裁判権放棄の事例協議に関するものだ。

 質問前文
 【日米地位協定第十七条3(a)()は、日本に駐留する米軍人・軍属とその家族による犯罪について、公務中の場合、米側が第一次裁判権を有すると規定している。ところが、日米地位協定上の公務の範囲については明確にされておらず、公務の範囲に関する日米合同委員会の内容も、詳細は明らかにされてこなかった。
 この程、機密解除された米側公文書によると、日米地位協定に基づき、日本側に第一次裁判権がないとされる「公務中」の範囲を、通勤や米兵の職場における飲酒にまで拡大し、米側に有利な運用とする旨、日米合同委員会で合意していたことが判明した。このことが、二〇〇八年六月十六日の夕刊で報道されるや否や、沖縄県民から強い声が上がり、合同委員会合意への批判が集中した。
 以下、質問する。】


一 一九五五年十一月二十一日、米兵らによる交通事故の事件処理をめぐり、日米合同委員会刑事裁判権分科委員会が開催されたようであるが、開催場所、出席者、会議の目的を明らかにした上で、これらについての政府の見解を示されたい。

二 法務省刑事局長は、一九五六年四月、全国の検事正ら宛に通達を発出し、米軍人・軍属とその家族らの勤務地への往復時の交通事故を公務中として処理するよう指示したようである。法務省刑事局長が前記通達を発出した年月日、通達の表題、添付書類の有無とその表題、通達の宛先と内容の詳細を明らかにした上で、このような通達を発出した理由について、政府の見解を示されたい。

三 前記法務省刑事局長の通達には、一九五五年十一月二十一日に開催された日米合同委員会刑事裁判権分科委員会の議事録が添付されたようであるが、間違いないか。

四 一九五五年十一月二十一日に開催された日米合同委員会刑事裁判権分科委員会の公式議事録の要旨は、次の通りだと報道されている。

 米側 
 飲酒という用語は公の催事以外の場所で飲酒することを指すものと解釈する。軍隊の構成員らが勤務中に飲酒したとしても、必ずしも公務の性格を失うものではない。勤務地と宿舎の往復の間に事故を起こし、その際の飲酒が判断力を失わせる程度であった場合は公務外となる。

 日本側
 然り。公の催事は狭く解釈されるべきだ。数名が飲酒目的で集合しても該当しないが、社交上の慣行により、一定の将校または軍属の出席が要求される場合には、公務と認めることにやぶさかではない。

 米側 
 寄り道も公務として許されると考える。ガソリンスタンドやクリーニング工場に立ち寄る場合はどうか。慣習および慣行が考慮されるべきだ。

 日本側 
 住居と勤務地の往復のみに限定して考えるべきで、いかなる寄り道も認めたくない。しかし、個々のケースごとに考究することに同意する。

 政府は、前記分科委員会公式議事録の要旨が前記の通りであることを認めるか、違うというのであれば、異なる箇所を具体的に指摘されたい。また、政府において、前記公式議事録全文を公表すべきと考えるが、政府の見解を示されたい。

五 政府が前記公式議事録の全文を公表しないのであれば、その理由を明らかにされたい。
 

 以上の質問に対し、福田首相は6月24日付けで次の通り答弁した。

【一から五までについて
 日米合同委員会及びその下にある分科委員会の議事録は、我が国政府及び米国政府の合意なしには公表しないこととされているところ、お尋ねについては、御指摘の通達を発出したかどうかを含め、これを公にすることにより、米国政府との信頼関係が損なわれるおそれ及び公共の安全と秩序の維持に支障を及ぼすおそれがあることから、お答えすることは差し控えたい。】


 具体的な内容が報道されたため、全面否定はできないと判断し、米国政府との合意なしには公表できないという理由で、回答を拒否することにしたのだろう。

 そして、そのような回答ができたのは、「てえへんだ、てえへんだ…国会図書館が裁判権放棄を裏付ける文書を急きょ閲覧禁止に!」というエントリー(http://blog.goo.ne.jp/tokyodo-2005/e/39e42e5f941390a2fe28e0ca6fb7a1dd)で紹介したとおり、法務省刑事局長の通達が掲載された国会図書館の文書を閲覧禁止とできたためだ。もし、国会図書館での閲覧が維持されていたら、このような回答はできなかったはずだ。

 そもそも、法務省刑事局長の通達を発することとなった「1955年合意」の内容は、上記東京新聞6月16日付け夕刊のとおり、米国が開示した公文書から明らかとなっている。米国側が公文書を公開した時点で、内容を公表することの日米合意があったとみるべきであり、合意がないから答弁できないという口実を認めるわけにはいかない。

 日本の民主主義を見せかけだけのままにしてよいのか?この問題においては、政府側よりもむしろ私たち市民の側の民主主義を守るための気概が試されているように思える。

 多方面からの国会図書館、首相、法務省、法務大臣への抗議を!

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5 コメント

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TBありがとうございました。 (松本哲)
2008-08-12 19:54:39
いつもすばらしい記事を拝見して無断で転載していますが、このたびはTBありがとうございました。今後もよろしくお願いします。
返信する
Unknown (こみつ)
2008-08-12 21:25:35
初めまして、いつも読ませていただいています。

この事件は某地方紙で知りました。
メディアはもっと大々的にこの事件を扱って欲しいですね。

ところで一つ質問があります。
この場でこの質問をするのは相応しくないかもしれませんが。
野党への働きかけとかって、どうやればいいのでしょうか・・・。
返信する
野党へは (ヤメ蚊)
2008-08-12 23:23:17
この問題についてきちんと国会で取り上げるようにしてください、と電話をかけたり、FAXをかけたりするとよいでしょう。特に地元選出議員に対して、自分が選挙権者であることを告げて頼むとよいのではないでしょうか?運動の輪をできるだけ広げて下さい。

松本様、TBなどで今後も知るべき情報を知らせあいましょう!
返信する
Unknown (こみつ)
2008-08-14 14:46:22
回答ありがとうございます。

>自分が選挙権者であることを告げて

未成年でもいいのでしょうか。
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こみつさんへ (ヤメ蚊)
2008-08-16 09:31:48
 身近な投票権者を通じてでもいいし、将来の有権者としてご自分でされてもいいでしょう。声を上げ続けることが大切だと思います。
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