情報流通促進計画 by ヤメ記者弁護士(ヤメ蚊)日隅一雄

知らなきゃ判断できないじゃないか! ということで、情報流通を促進するために何ができるか考えていきましょう

速記録は見られないけれど、大丈夫?…裁判員が参照できる証言はDVDなどのみ

2008-05-04 01:44:14 | 適正手続(裁判員・可視化など)
 一つ前の記事「裁判員は証言をどのような記録にして確認するべきでしょうか…裁判記録に関する弁護士アンケート発表」(※1)へのコメントありがとうございました。多くの方が指摘されるとおり、①DVDなど音声や映像をそのまま記録したものと②速記録と両方があった方がよいですよね。

 ①は、表情など含め発言内容や状況を正確に振り返るために必要だし、②は、いちいち、全員の議論をとめて毎回DVDなどを見返すよう求めることはプレッシャーなので、簡単かつ正確に発言内容を振り返ることができる資料が手元にあった方がよいですよね。

 たとえば、ある殺人事件で正当防衛の成否が問題になったとする。複数の目撃者(Aさん、Bさん、Cさん)が死亡した人の攻撃状況などについて異なる証言をした場合、評議がAさんの話を中心としてなされているときに、●裁判員はBさんの証言内容を確認したいと思い、×裁判員はCさんの証言内容を確認したいと思ったとする。

 このとき手元に速記録があれば、●裁判員は、Bさんの証言記録を見ながら、Aさんの証言に実は矛盾している部分があることを発見するかもしれない。×裁判員はCさんの証言を確認し、Aさんの証言を支える部分があることを発見するかもしれない。

 そうすれば、●裁判員や×裁判員は、自らの見解を発表することができ、全員でBさんやCさんの発言を速記録で確認し、さらに必要があれば、DVDなどで確認できる。

 では、裁判所が経費節減のために速記録の作成を行わなかったら、どうなるでしょうか…。

 Aさんの証言に関する議論がされている際、●裁判員は「Bさんの発言に確か気になるところがあったな…。あの発言はどのあたりだったかな…。」と疑問に思う。しかし、他方で、「でも、どこで発言したかはっきりしないし、正確な発言内容も覚えていないから、ちょっと、みんなでDVDを見ようという発言をする勇気はないな。間違っていたら、もう発言できなくなりそうな気もするし…」とBさんの証言を確認することをあきらめてしまうかもしれない。

 Cさんについても同じことがいえる。

 一人ひとりにDVDのコピーと再生機が手渡されたとしても、全体での評議が進む中、DVDを再生して発言箇所と発言内容を確認するのは容易ではない。みんながこれをやり始めたら収拾がつかなくなる。

 この点、速記録があれば、議論を聞きながらぱらぱらめくって証言を探すこともできる。

 そう、ここまでの流れからお分かりのように、裁判所は裁判員制度のもとで、証言記録は録音テープ、ビデオもしくはDVDで提供することしか考えておらず、速記録は提供しない予定らしい(「速記官制度を守る会ニュース」№27)。

 速記録がないと裁判員はいちいちDVDなどを確認するか、もしくは、自分のメモのみに頼って議論しなければならない。


 弁護団にとっても深刻だ。連日開廷ということは、午後5時までの公判を終え、それから事務所でその日のFAXや電話を処理してから、その日の公判での内容を確認し、次の日の準備をすることになるが、弁護団が各自の作業を終え、集合するのは、午後7時くらいにはなるだろう。

 その時間から、その日に行われた6時間くらいの尋問を速記録もなしに検討して翌日の公判に備えることができるだろうか…。それぞれがメモをしているとはいえ、考えながらメモするわけだから必ずしも全員のメモ内容が一致しない。したがって、どうしても、正確な証言内容を確認する必要があるが、いちいちDVDで該当箇所を探しながら議論をすすめるとあっという間に朝になってしまうだろう。せめて、速記録くらいはないと…。

 現在、速記録は速記官の工夫と努力で、発言とほぼ同時に文字化できるようになっている。したがって、速記録は証言後速やかに提供することが物理的には可能な状況だ。しかし、裁判所は、速記録の提供をすることは考えていないらしいのだ。

 この事実については、広く知られていない。

 下の円グラフは、「速記官制度を守る会」が、2007年12月、無作為で弁護士3000人にアンケートを送り、269人から返送された回答をまとめたものだ。一番上を見てほしい。






弁護士ですら、DVDなどのみが提供される予定であることを認識している者は、わずかに22.8%(3の13.1%+4の9.7%)しかいない。

 それに対し、音声認識システムで文字化した記録(10.6%)や速記録(21.0%)などの文字情報が提供されると考えている人は、合計31.6%もおり、誤解している者が多いことが分かる。


 他方、「連日開廷がされた際に、どのような裁判記録が必要か」という質問に対する回答が真ん中のグラフだ。

 速記録が52.5%、電子データ(ただちに文字化できるもの)が30.4%にも上る。DVDや録音テープを選択した人は圧倒的に少ない。


 さらに、「裁判員制度での審理・評議のためにはどのような記録が望ましいか」という質問に対する回答が一番下の円グラフだ。

 文字情報つきの影像が56.4%、速記録が40.9%で合計95.4%にも上るのに対し、DVDなどのみを選択した人は1.6%しかいない。

 以上のアンケート結果から、文字情報の必要性は明らかだ。

 自由回答欄にも「速記録がないと評議の際に、証言・供述を確認するのに非常に手間取ることになる」、「個々の関係者が自分で確認したい部分を確認するためには、速記録が圧倒的に便利。関係者は大量の記録を全部読むのではなく、見る必要とする部分を読み直すのであり、テープでは絶対不可能」、「紙の記録が迅速に入手できるということは裁判員裁判の弁護活動では絶対必要。短期決戦での弁護士は何を頼れというのか」という悲鳴のような声が寄せられている…。

 そもそも、速記官を将来的に廃止することは、裁判員制度の導入が決定される前に決まったことで、公判が2週間から3週間ごとに行われることを前提に音声データを外注して文字化することで対応する予定だったという。そのうち、音声を文字化するソフトが飛躍的に進化することも裁判所の念頭にあったらしい。

 ところが、その後に裁判員制度の導入が決まったために、混乱が生じたというのが実態らしい。

 連日開廷という新たなシステムが導入される以上、裁判官制度の将来についても再度見直す必要があるのではないだろうか。

 裁判員となる市民のためにも、再考してほしいところだ。 


※1:http://blog.goo.ne.jp/tokyodo-2005/e/43d7ec6d5eb1ebbf86185523bfbe6b5f









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7 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
Unknown (真実)
2008-05-04 02:22:42
この記事の内容は裁判員になる市民のためにというよりも弁護士の仕事手間のためにといった印象を強く受けますよ…
まぁ気持ちに正直でいいとは思いますがね(笑)
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御免なさい、悪かったよう。 (田仁)
2008-05-04 14:36:00
自分は、第一次情報が好きなんです。
ソレだけで、他意はありません。
理由は、挑発されて、或いは先に脅しを受けてて、不自然な表情とか浮かべてても、その奥を読むのが割かしに得意だから。
でもコレが余り一般的でないパーソナリティーなのは承知してます。
読み込むのには、勿論文字情報の方が良いです。
(個人的にはあんまり最近、根気が続かないけど…。)
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転載のお願い (Kimi)
2008-05-11 01:30:58
ヤメ蚊さま
メールアドレスが分からないので,こちらで転載のお願いをさせてください。

電子速記研究会の機関紙「はやとくん通信NO.40」に,ヤメ蚊さんのアンケート記事2つを転載させていただけますようにお願いします。

「はやとくん通信」は,下のアドレスにあるようなものです。
http://kimi-koni.cocolog-nifty.com/blog/2008/02/no39_868f.html

Kimi
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転載、引用大歓迎です (ヤメ蚊)
2008-05-11 11:59:02
引用、転載元を明らかにしていただければ、引用、転載はフリーです。掲載されたら、お知らせいただければハッピーです。
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マイ・ブログへの紹介許可願い (花子)
2008-05-11 14:38:10
ヤメ蚊さま
 一つ前コメントのkimiさんと姉妹分の花子と申します。弁護士アンケート結果への迫力ある分析、ぜひ「速記官制度を守る会」ブログでも、アドレスを掲載する形で紹介させていただきたいと思います。(5月3日、4日付け)
よろしくお願いいたします。
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花子さん (ヤメ蚊)
2008-05-11 21:20:29
ぜひ、ご紹介ください。
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掲載しました (Kimi)
2008-05-28 02:42:31
「はやとくん通信No.40」に掲載させていただきました。→http://kimi-koni.cocolog-nifty.com/blog/2008/05/no40_92b8.html
ありがとうございました。
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