情報流通促進計画 by ヤメ記者弁護士(ヤメ蚊)日隅一雄

知らなきゃ判断できないじゃないか! ということで、情報流通を促進するために何ができるか考えていきましょう

警察情報を鵜呑みにする報道の一例~裁判員制度を前に報道の仕方徹底したはずでは?

2008-03-09 15:50:50 | メディア(知るための手段のあり方)
 上尾の河川敷で男性の死体が発見された事件を伝える新聞各紙のうち、いくつか、気になる報道をしているので、取り上げたい。警察の発表を事実と混同してはならないはずだし、裁判員制度実施を前に、マスメディアは報道のあり方について確認しているはず。それなのに、このような警察発表が事実であることを前提とする報道は、許し難い。

 まずは、毎日新聞(2008年3月8日付夕刊)。
 見出しを、
【供述通りに遺体 詐欺逮捕の男不明運転手か 上尾の河川敷】
としたうえ、
 本文を
【埼玉県上尾市谷津2のトラック運転手、河原塚建一さん(66)が2日から行方不明になっている事件で、県警は8日、市内の荒川河川敷で河原塚さんとみられる中年男性の遺体を発見した。県警が身元確認をしている。事件に絡み詐欺容疑で逮捕された無職の男(57)が「河原塚さんを殺害して捨てた」と供述し、県警が捜索していた。県警は殺人・死体遺棄事件とみて男を追及している。
 午前8時50分ごろ、同県上尾市畔吉の荒川左岸で、うつぶせに倒れている遺体をサイクリング中の男性が発見、110番通報した。遺体は河原塚さんと特徴が似ているという(以下略)】
としている。

 この記事では、【無職の男(57)が「河原塚さんを殺害して捨てた」と供述し、県警が捜索していた】という部分は明らかにフライングだ。この男性が供述したということ自体、警察の発表であり、事実かどうかは分からない。

 したがって、本来、【事件に絡み詐欺容疑で逮捕された無職の男(57)が「河原塚さんを殺害して捨てた」と供述し、県警が捜索していた】の部分は、【県警によると、事件に絡み詐欺容疑で逮捕された無職の男(57)が「河原塚さんを殺害して捨てた」と供述したため、県警が捜索していたという】とならなければならない。
 
 そのうえ、見出しも【供述通りに遺体】という表現では、供述したことが事実となってしまう。したがって、ここは表現を変えなければならない。
 
 ちなみに、電子版では、【埼玉遺体:不明の66歳男性?荒川左岸で発見 殺人事件か】という見出しになっており(http://mainichi.jp/select/today/news/20080308k0000e040058000c.html)、供述が事実であることを前提とすることは避けている。

 また、読売新聞電子版(http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20080308-00000026-yom-soci)も【不明のトラック運転手?荒川河川敷に遺体…供述通り発見】という見出しをたてると同時に、【男は「男性を殺して荒川河川敷に捨てた」と供述したため、7日から上尾市などの河川敷を捜索していた】と表現しており、毎日と同様の問題がある。

 新聞各紙は、3月8日付朝刊で、違法なおとり捜査をさせられたとする男性が、佐賀県警に対し、違法なおとり捜査と報道機関への虚偽発表を理由として損害賠償を請求する訴訟を提起したことを伝えている。

 毎日新聞(http://mainichi.jp/select/jiken/news/20080308k0000m040138000c.html)も
【佐賀県警に昨年7月に強盗予備の疑いで逮捕された後、起訴猶予となった佐賀市兵庫町渕の中古車販売業、原一弘さん(36)が7日、「捜査に協力したのに身柄を拘束され、虚偽の発表をされた」として、県に330万円の損害賠償を求めて佐賀地裁に提訴した。
 訴状などによると、原さんは07年7月21日、友人らが強盗を計画していることを知り、指示され目出し帽を購入した。しかし、犯行をやめさせようと同28日、佐賀署に計画を知らせた。
 捜査員は、原さんの話を聞くと「予定通り(計画を)進めてほしい」と要請。当時、原さんは強盗をしようと思っておらず、車からバールや目出し帽を降ろしていた。そのままでいいかを尋ねたところ、捜査員から「載せておいてくれないと困る」などと言われ、再び車に戻したという。
 原さんは同日午後、友人が狙っていた民家近くに車で行って他の3人と共に逮捕された。佐賀署は29日、強盗予備の疑いで原さんを含む5人を逮捕したと発表した】と報道している。
 
 毎日は、昨年末、文字を大きくしたばかりだが、掲載できる情報が減ったからといってこのような書き方が許されるはずもない。今後は十分に注意してほしい。

 ところで、3月8日付産経17面に、花田紀凱氏のコラムが掲載されており、その中で、同氏は、【事故当初から言っていたのだが、大きい船と小さい船が接近遭遇したら小さい船がよけるべきだ。小さい船の方が身軽で、舵も切りやすいし、スピードも落としやすいのだから】と暴論を述べている。

 確かに、先に小さい船がよけることが多いのかもしれない。しかし、いったん、事故が起きた場合にまでそのような小さい船の善意を持ち出すべきではない。

 海上衝突予防法第15条には、【2隻の動力船が互いに進路を横切る場合において衝突するおそれがあるときは、他の動力船を右げん側に見る動力船は、当該他の動力船の進路を避けなければならない。この場合において、他の動力船の進路を避けなければならない動力船は、やむを得ない場合を除き、当該他の動力船の船首方向を横切つてはならない】と明記してある。

 大きさには触れていない。したがって、大型船は、右舷から来る小型船が早期に明らかに避けてくれれば直進してもよいが、そうでない場合には、衝突を避ける義務があるわけだ。 

 しかも、漁船側については、同法第17条1項で【この法律の規定により2隻の船舶のうち1隻の船舶が他の船舶の進路を避けなければならない場合は、当該他の船舶は、その針路及び速力を保たなければならない】と規定されているうえ、同条2項で【前項の規定により針路及び速力を保たなければならない船舶(以下この条において「保持船」という。)は、避航船がこの法律の規定に基づく適切な動作をとつていないことが明らかになつた場合は、同項の規定にかかわらず、直ちに避航船との衝突を避けるための動作をとることができる。この場合において、これらの船舶について第15条第1項の規定の適用があるときは、保持船は、やむを得ない場合を除き、針路を左に転じてはならない】とされている。

 事故に遭った漁船は、衝突を避けるための基本的ルールを守ったのだ。もっと前に進路を変更すれば事故に遭わなかったのは事実だが、進路の変更を求めるべきは、法的な義務を負っているイージス艦側であることは間違いない。

 このような見解を掲載する産経は、法律無視を推奨しているようなもんだ。それとも自衛隊(軍隊)なら何をやってもいいということなのか…。



   

 
★「憎しみはダークサイドへの道、苦しみと痛みへの道なのじゃ」(マスター・ヨーダ)
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1月17日にはNPJ/PEOPLE’S PRESS設立記念集会を開催し、多くの方に来場いただきました。ありがとうございました。近く、生中継していただいたアワープラネットTVでオンデマンド放送される予定です(http://www.ourplanet-tv.org/whats/2008/20080117_17.html)。
 


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2 コメント

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産経の他にも…。 (田仁)
2008-03-09 20:44:32
同じく8日に自民の大前防衛政務官が、同様に「清徳丸にも非があった」との見解を公式に示してます。
軍法会議設置「焼け太り」以外に、「ミサイル防衛参画者にあらずんば人にあらず」とか考えてんじゃないですか?
驕る平家は久しからず!とか、思い出しちゃいますが。
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暴論も いいところだ! (imacoco)
2008-03-09 21:14:06
花田 某と云う人にしろ、産経から出てくる声は悉く無神経で荒っぽく低脳で、弱い立場に生きる人達を踏みつける、社会の進歩とは全く逆行する。

流石、アメリカや富裕層に手厚く、弱者には死ねと斬り捨て政治を布く自民党の太鼓持ちメディアだ。
こんな連中に舵取りを続けさせたら、必ずこの国は滅亡する!
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