情報流通促進計画 by ヤメ記者弁護士(ヤメ蚊)日隅一雄

知らなきゃ判断できないじゃないか! ということで、情報流通を促進するために何ができるか考えていきましょう

中国人職質射殺事件で、宇都宮地裁が警官の予測能力を小学生以下と認定?

2009-04-26 20:06:15 | そのほか情報流通(ほかにこんな問題が)
 う~ん、普通、1対1で立ち向かっているときに、相手が一気に間合いを詰めてくる可能性は、常に念頭に置いておかないといけないと思うんだけど、警官はそうでなくてもいいのかな~。でも、そんなことすら予想できない人にけん銃を持たせてよいんだろうか…。

 ご報告が遅くなりましたが、【西方町真名子で二〇〇六年六月、鹿沼署真名子駐在所に勤務していた男性巡査が職務質問に抵抗するなどした中国籍の無職男性=当時(38)=に拳銃を発砲、死亡させた事件をめぐり、男性の妻子ら遺族が県(県警)に約五千万円の損害賠償を求めた訴訟の判決が二十三日、宇都宮地裁であり、今泉秀和裁判長は「発砲は必要性などの要件を満たし違法はない」などと原告側の請求を棄却した】(下野新聞 http://www.shimotsuke.co.jp/news/tochigi/local/news/20090423/139230)。

 私も担当しているこの裁判(判決当日は風邪で欠席)、下野新聞は、棄却の理由について、【争点だった発砲の適法性について「石の攻撃は生命身体の現実の危険が生じる。巡査が自己を防護するとともに男性の抵抗を抑止し逮捕するためには、拳銃使用が必要と認める相当な理由があった」とし、警棒の使用、威嚇射撃の必要性を訴えた原告側の主張を全面的に退けた。 】と伝えた。

 これだけでは、なぜ相当な理由があったといっているのか分からないと思うので、少し判決を引用しよう。ただし、原告側の主張は事実関係に関するものも入れれば、非常に多岐にわたるが、最も分かりやすいのは、なぜ、体に向けて発砲する前に威嚇射撃をしなかったのか、ということだと思うので、その点について触れてあるところを紹介する。

 そうそう、発砲は、冒頭の写真の次の場面でなされた。H巡査の証言によると、羅成さん(写真右)は右手に持っていた竹の棒を投げ捨て、両手で宝珠(石灯籠の一番上の部分。直径約20センチ)を構え、他方、巡査はけん銃を取り出して構えたまま、2mの距離で向かい合ったところ、しばらくして、羅さんが一気に突進してきたため、H巡査は身を守るために発砲、これが羅さんの腹に命中して羅さんはまもなく死亡した。

 では、判決の一部を紹介しよう。

 【原告らは、●●方庭内で威かく射撃をしても第三者に危害が及び可能性はなかったし、●●方庭内から本件発砲時までの間に威かく射撃をするいとまがなかったとはいえないにもかかわらず、威かく射撃をせずに行われた本件発砲は、事態に応じ合理的に必要と判断される限度を超えたものであると主張するところ】(原告らの主張)

 【確かに、羅成はH巡査がけん銃を構えて制止しても宝珠を振り上げたまま攻撃(ヤメ蚊注:攻撃といってもただ振り上げてじりじり近づいてきたというだけだが…)を止めなかったのであるから、H巡査において、本件規範(けん銃取扱規範)7条1項ないし3項(中略)に照らし、羅成及び第三者に直接又は跳弾により危害等を及ぼさないよう時機及び方向に注意した上で、必要最小限の回数、上空その他の安全な方向に向けて威かく射撃をすることができる場合に該当したし、●●方庭及び南道路付近は低層の住宅街であり付近に多くの人が集まっているという状況にもなかったから、羅成が突進してくる前までの間に少なくとも上空に向けて威かく射撃をすることができたというべきであり、これを行ういとまがなかったともいえないところである】。

 ここまでは普通の判断やね~。

 【しかしながら、羅成が突進し始める前までの間は、羅成の攻撃態様は、約2m前方から宝珠を振り上げたままじりじりと迫るというものにとどまり、宝珠を振り回したり、急に突進してくるというものではなかったり、H巡査は、上記攻撃態様及び距離に照らせば宝珠で殴りかかられても交わすことができるし逃げ出されても追いつくことができる、じきに応援も到着すると考えて、上記距離を保ちながら羅成に向けてけん銃を構え警告を続けるという対応をとっていたのであるから、H巡査において威かく射撃を行わなければならない状況にあったとまではいえないし、それまでと異なり宝珠を振り下ろして殴りかかろうとして一気に向かってくるという羅成の行動により事態が急変し、宝珠による打撃を避ける余裕がなかったことを考慮すると、H巡査が羅成の突進前に威かく射撃をしなかったことを、本件発砲が比例原則の要件を充たすものか否かを検討するに当たり重視すべきということはできない】と結論づけた。

 ここは、ど~う考えても変でしょう。

 だって、宝珠を頭上に構えて向かい合っているわけですよ。逃げようとして必死になっているわけですよ。命がけでこっちに向かってくる可能性がある、なんてことはおそらく小学生でも分かることだ。

 ところが、裁判所は、「宝珠を振り下ろして殴りかかろうとして一気に向かってくるという羅成の行動により事態が急変し、宝珠による打撃を避ける余裕がなかった」とまるで、そのような予測ができなくても当たり前のように述べている。

 これは怖いことですよ、皆さん。だって警察官が小学生以下の予測力で物事に立ち向かい、その結果、けん銃を発砲しなければならない羽目に陥った場合でも、どんどん発砲してよいことになる。危険きわまりない。警察官を見たら、逃げろってことだ。

 もちろん、普通の警察官なら、いろいろな場面を想定して適切な行動をとってくれることでしょうから、そんな心配はないはず。しかし、この宇都宮地裁の判決に従うなら、そういうことになる…。

 また、H巡査は、尋問の中で、威嚇射撃をすれば、攻撃を防ぐことができる、有効に働くかもしれないと考えたが、人に危害を加える危険があったから威嚇射撃をしなかったとはっきり答えている。つまり、H巡査は、周りが田畑の農村地帯での上空への発砲を危険だという非常に誤った判断をしたために、威嚇射撃を躊躇したのである。このようなH巡査の判断を基にして、急に突進してきたから仕方ないなんて…。

 原告らはすでに控訴した。舞台は、東京高裁に移る。東京高裁がまともな判断をすることを望む。


 
 



 



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