情報流通促進計画 by ヤメ記者弁護士(ヤメ蚊)日隅一雄

知らなきゃ判断できないじゃないか! ということで、情報流通を促進するために何ができるか考えていきましょう

弁護士増員も米国の押しつけ!、というか…米国に言わせる形にした?~年次改革要望書の闇は底知れない

2007-11-13 06:57:40 | 適正手続(裁判員・可視化など)
 弁護士増員による弊害について取り上げられることが増えてきた。そもそも、弁護士の数を確かな検証もなしに、増やし続けることには疑問を持っていた。なぜなら、弁護士の数を増やしたからといって、法的手段が身近になるとは限らないからである。弁護士へのアクセスとして問題なのは、①地方での弁護士の不足、②弁護士費用を用意できないケースの存在、の2点である。これらを解決するに当たって、弁護士の数をただ増やすだけで、何か問題が解決するだろうか?明らかに「否」である。それにもかかわらず、弁護士増が実現したのは…。

 まず、②について述べると、弁護士費用を用意できないケースには2種類がある。そもそも、収入が低く、弁護士費用が用意できないというケースと事件の請求額が小さいため、弁護士費用を支払うと割が合わなくなるケースである。

 これを解決するには、リーガルエイドしかない。現代社会においては、司法は民主主義(多数決)によって人権侵害された場合に個別に救済する役割を持っている。したがって、司法へのアクセスは万人に保障されていなければならない。そうでなければ、民主主義(多数決)によって、切り捨てられた者の人権はその者が多数の側に入らない限り~すなわち、ほぼ永遠に~回復されないことになる。

 そこで、収入が低くても、司法へのアクセスを実現する手段が必要になり、かつ、事件の請求額が低くてもそれを放置することが人権上問題になるケースについて司法へのアクセスを実現する手段が必要になるわけだ。

 果たして、弁護士を増やすことがそれらの解決につながるだろうか。収入が低い人や請求額の小さい事件の依頼者が弁護士にアクセスできるようにするには、弁護士費用を下げるしかないわけだが、弁護士を増やすことで弁護士費用が下がるだろうか。

 これは下がらない。もちろん、一定レベルまでは下がるかもしれないが、採算割れする線は残る。したがって、一定レベル以下のケースは、結局、切り捨てられることになる。

 これを解決するには、やはり、公的資金を投入し、司法へのアクセスを万人に保障するしかない。日本でのリーガルエイドの額は、極端に小さい。

 次に①の地方の弁護士不足への対応についても、弁護士を増やせば、いずれ地方に行くしかなくなり、地方の弁護士不足が解決するということだろうが、そのようになるだろうか。そもそも、どの程度、大都市の弁護士が増えたら、地方の弁護士不足が解消するのか、裏付けるための資料は存在しない。他方、弁護士になろうとする者はやはり都会志向が強い者が多い。そんな者が知り合いもいない地方で開業しようと思うだろうか…。

 結局、この点についても、公的資金を投入して、地方で弁護士が開業する場合の支援をすることの方がよほど効果的だ。大都市に住む者は、地方に住む者から搾取して生活をしているわけだから(大都市の企業の製品を地方に住む者が購入している)、公的資金によって地方の司法へのアクセスを高めることは、何ら、不公平ではない。

 
 こんなことは考えたらすぐ分かることだが、それにもかかわらず、なぜ、弁護士増員が実現されたのか。それは、今井敬彌弁護士の著作「私の体験的日本弁護士論序説 司法改革の王道を歩んで」によると、米国による圧力があったからだという。これは重要な指摘だ。

 悪名高い米国による日本に対する「年次改革要望書」の2001年版( ※1)には、法制度について、次のような要望が記載されている。

■■引用開始■■

II. 法制度改革

II-A. 司法制度改革審議会による意見書の実施

II-A-1. 法曹人口の拡大
同審議会による最も重要な要望の1つは、日本における法曹人口の大幅な増加の必要性に関するものである。米国は日本政府に対して、早急に司法試験合格者を最低でも年に1500人に増加させること、また、合格者を年に3000人に増加させるための計画を策定することを強く要望する。

■■引用終了(ただし、この続きは末尾で引用)■■


 明確に、【米国は日本政府に対して、早急に司法試験合格者を最低でも年に1500人に増加させること、また、合格者を年に3000人に増加させるための計画を策定することを強く要望する】と書かれている。

 そして、もう一つ重要なのは、日本の司法制度改革審議会の要望に乗った形をとっていることだ。今井弁護士の前記著作によれば、弁護士増員について、米国の年次改革要望書が触れたのは、1995年版からだという。そして、その1995年版が出る前に、行政改革委員会事務局から弁護士に対して「弁護士の大幅増員による競争原理の導入や司法試験合格者数を最低でも年1500人にすること」が要望されているという。

 この行政改革委員会からの要望に対し、日弁連は、当時、「法曹人口の増加は法律扶助制度をはじめ司法基盤の整備と共ともに、判、検事とバランスをとって行うべきで、1500人増員には実証的、科学的検討が加えられていない、と適切に回答した」という。

 今井弁護士は、その後も、日本の政財界の動きと年次改革要望書が一致することをとらえて、弁護士増員は、米国による高圧的な要求が原因だと判断している。確かにそういうことかもしれない。

 しかし、私は年次改革要望書の性格(日本政府が実現したいことを盛り込む)からすると、弁護士増員は、日本の財界が、弁護士を安く使いたい、弁護士を思うままにい使いたい(弁護士側がイニシアチブをとると不当な手段は避けようとする)という要望を実現するための手段だったように思う。論理では、日弁連の主張に勝てないため、米国の圧力という形で乗り越えようとしたのだと思う。

 なぜなら、例えば、末尾のとおり、2001年版年次改革要望書には、裁判官の増員、民事訴訟における裁判費用の軽減、司法手続きにおける透明性の拡大も挙げられているが、これらについては、まったく実現されていない。日本の政財界にとって必要なことはするが、じゃまになるようなものはまったく手をつけようとしていないのだ。このことは、弁護士増員が、米国の圧力という形をとってはいるが、実は日本の政財界の要望だということを裏付けているように思う。

 1994年に米国との間で、年次改革要望書が交わされるようになったにもかかわらず、大新聞がその内容を詳しく報じたことが一度もないこと…これもまた、不思議な話であり、何らかの圧力の存在を感じざるを得ない。年次改革要望書の闇は限りなく深い。


※1:http://japan.usembassy.gov/j/p/tpj-jp0025.html

■■年次改革要望書の続き、引用開始■■
II-A-2. 仲裁法の改革
米国は法務省に対して、司法制度改革審議会の意見書に基づき、日本の仲裁法である「公示催告手続及ビ仲裁手続ニ関スル法律」の改革のための要望を策定する諮問委員会を設置することを強く要望する。

II-A-3. 民事訴訟の迅速化と効率化の拡大
米国は日本政府に対して、以下の司法制度改革審議会の意見書を速やかに実施することを要望する。

II-A-3-a. 民事訴訟の審理期間を半減する。

II-A-3-b. 裁判官、裁判所職員ならびに弁護士数を大幅に増加する。

II-A-3-c. 訴訟のための公判および提訴前の証拠収集手続きを簡素化する。

II-A-3-d. 東京・大阪両地方裁判所における知的財産権部の強化、そして、証人、代弁者、裁判所調査官のような専門家導入を通じて、知的財産権関係訴訟手続きを改善する。

II-A-4. 司法の行政機関に対する監視機能の強化
行政の法的説明責任義務の拡大は、行政活動における公平性や行政に対する信頼度を高める。米国は日本政府に対し、司法制度改革審議会の意見書に従い、行政事件訴訟法の見直しを含む、裁判所を通した行政機関の説明責任の促進のための方策に関する完全な見直しに着手することを要望する。

II-A-5. 民事訴訟における裁判費用の軽減
米国は日本政府に対して、裁判を行う価値のある事件の提訴が回避されることがないように、固定訴訟費用制度、あるいは大幅に軽減されたスライド費用制度を創設することを要望する。

II-B. 日本における司法制度の改善

II-B-1. 証拠収集手続きの改善
証拠収集手続きを改善するため、米国は日本に対して以下の措置を取ることを要望する。

II-B-1-a. 民事訴訟法第163条に基づく照会に対する不適切な対応に対しては制裁を科す。

II-B-1-b. 民事訴訟法第220条に規定されるいわゆる「自己使用」の例外を制限する。

II-B-1-c. 訴訟当事者による施設調査権を整備する。

II-B-2. 裁判審理における企業秘密保護の拡大 
米国は日本政府に対して、公開審理の過程で企業秘密が公開される問題に対処するために包括的な解決策を講じることを要望する。企業秘密を含む証拠の「インカメラ」審理(非公開審理)を導入することも適切な方策となり得る。

II-B-3. 代理人・依頼人間の基本的権利の明確化 
米国は日本に対して、明確かつ法的根拠に基づく代理人・依頼人間の基本的権利を制定し、このような原則を完全に尊重することを確保することを要望する。

II-B-4. 司法による救済の実効性の強化 
米国は日本に対して、迅速かつ効果的な命令を発し、執行できる裁判所の権限を強化することを提案する。それは、行為差し止めによる救済を得ることができる民事訴訟の範囲を拡大すること、また、効果的と考えられる差し止め命令を策定する裁判所の権限を強化することなどの方策による。

II-B-5. 司法手続きにおける透明性の拡大 
米国は日本政府に対して、すべての人々に対して裁判記録および判決についてのより容易かつ時宜を得たアクセスを提供することにより、一般市民およびビジネス・コミュニティーにとって司法制度をより身近なものにすることを要望する。

■■引用終了■■
 
 




★「憎しみはダークサイドへの道、苦しみと痛みへの道なのじゃ」(マスター・ヨーダ)
★「政策を決めるのはその国の指導者です。そして,国民は,つねにその指導者のいいなりになるように仕向けられます。方法は簡単です。一般的な国民に向かっては,われわれは攻撃されかかっているのだと伝え,戦意を煽ります。平和主義者に対しては,愛国心が欠けていると非難すればいいのです。このやりかたはどんな国でも有効です」(ヒトラーの側近ヘルマン・ゲーリング。ナチスドイツを裁いたニュルンベルグ裁判にて)
★「News for the People in Japanを広めることこそ日本の民主化実現への有効な手段だ(笑)」(ヤメ蚊)
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-ネットカフェ難民諸君、自衛隊に入ろう!!-橋本勝の政治漫画再生計画第96回

2007-11-13 05:23:18 | 橋本勝の政治漫画再生計画
【橋本さんのコメント】
 “絶望”は人間の心闇に巣くう病であるが、また社会のかかえる矛盾や歪みがつくり出す病でもある。今年の『論座』1月号のなかの「希望は戦争。」という31歳のフリーターが書いたエッセーが話題になり論議を呼んだ。「戦争は貧しい者にこそ襲いかかる」、戦争に「行かされるのは社会的弱者」という識者のまっとうな反論をそうだと思うと同時に、「平和という幸せの不平等な社会より」「戦争という不幸が平等となる社会の方がいい」と書かざるを得ない彼の絶望の闇の深さが気にかかる。あえて挑発的なもの言いをしていると思うが、戦争にカタルシスを期待する人たちを現出させる日本の社会に充満する絶望とはなんだろう。絶望は人を「自殺」や「犯罪」という自己破壊にかりたてる。私としては「希望は戦争」という言い方に共感をすると同時に、違和感も覚える。だが、二つの思いの葛藤から、現在の日本が陥っている状況を切り開く何かが見つかるかもしれない。

【ヤメ蚊】
 超エリートは手が届かないから何をしていても気にならない。でも、手の届く正社員が高めのランチを食っているのは許せない…。民主主義の原則からは、超エリートから特権を奪うのは簡単なことなんだけど…。









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