集成・兵隊芸白兵

 平成21年開設の「兵隊芸白兵」というブログのリニューアル。
 旧ブログ同様、昔の話、兵隊の道の話を続行します!

霊魂の鐘を打つ人・杉田屋守伝(第46回 昭和4年夏・早大、優勝に向けて始動!)

2020-04-15 17:30:17 | 霊魂の鐘を打つ人・杉田屋守伝
 オッチャンが早大に入学してから入学から卒業までに参戦したリーグ戦は、のちに述べる「早大リーグ脱退騒動」のため不参加となった昭和7年春を除いて合計11回。
 ネタバレとなり恐縮ではありますが、このうちリーグ優勝を飾ったのはわずか1回であり、その1回こそが今回以降紹介する、昭和4年秋のリーグでした。
 では早速、オッチャンの野球人生に燦然と輝く「早大リーグ優勝」のシーズンを追っかけていきましょう。

 早大は春リーグ後の休暇や中等野球指導などを終え、7月に再参集。一軍は7月25日からまるまる1ヶ月間、北支・満鮮(天津・北京・大連・京城)遠征、二軍は31日から軽井沢での猛練習に身を投じます。
 オッチャンたち遠征メンバーはまず、天津・北京に駐屯していた米軍チームと6試合をこなします。いずれもボロ勝ちを収め、意気揚々と向かった次の目的地・大連では、当時わが国最強の実業団チームが手ぐすね引いて待ち構えていました。
 その2チームとは「大連満倶」「満倶」こと大連満洲倶楽部と、「大連実業」「実業」こと大連実業団です。

 「満倶」は南満州鉄道株式会社が、「実業」はそれ以外の会社や実業家が中心となって作られたチームですが、これがどちらもわが国トップクラスの実力を持っていました。
 なにしろ、この2チームのどちらかが都市対抗野球出場すれば必ず優勝する!
 「大連市」として出場したチームは第1回満倶、第2回実業、第3回再び満倶なのですが、どっちが出ても鎧袖一触。第1回決勝では全大阪、第2回決勝では東京倶楽部、第3回決勝は名古屋鉄道局…といった名だたる内地チームを蹴散らして三連覇。
 驚くべき実力です。

 それもそのはず、当時の満鮮経営は極めて好況であり、満鉄もそのほかの企業も、唸るほどのカネを持っていました。東京六大学を卒業した選手を恐ろしいほどの好待遇で引っ張り、それがまたその後輩を連れてくる…という流れがこのころ既に、出来上がっていたのです。
 父・叔父がいずれも大連実業団の選手だったというチャキチャキの「大連っ子」、元産経新聞カメラマン・安藤徹(昭和8年生まれ、大連一中在学)さんの回想。
「両チームとも大変なカネを積んで内地(日本)まで選手のスカウトに行っていたね。」

 両チームは都市対抗が始まるはるか以前から野球部を持ち、対抗戦を繰り返していました。
 大正2年に始まった満倶対実業の定期戦「実満戦」は大連の街を二分するほどの人気で、都市対抗野球の出場権を賭けて戦うようになってからは、さらにその熱狂度が増していきます。
 同じく前出の安藤徹さんの回想。
「街中も商店街から飲み屋まで真っ二つで、実満戦は観客が鈴なりでした。」
 
 早大は8月12日から19日にかけ、大連実業団と2試合、満倶と3試合を戦います。
 大連実業団には12-1、7-2と圧勝し、ここまでは「さすが早大」でしたが、この年の都市対抗代表・満倶との戦いは1勝2敗と苦杯を嘗めさせられます。
 このとき満倶は、まさに一軍を東京に派遣中の時期。その留守を預かっていた二軍が、当時のわが国ではトップレベルにあった早大をであしらったわけです。また東京派遣中の満倶一軍は平然と、都市対抗三連覇を果たしています。

 その後早大は朝鮮半島を南下、京城市(現・韓国ソウル特別市)において京城電気・朝鮮殖産の2チームと対戦します。これらのチームも後年「全京城」という名前で、戦前最後の都市対抗優勝を果たした強豪ですが、こちらはいずれも早大が快勝します。
 満鮮遠征における対戦成績は11勝2敗。たくさんの収穫を得た早大ナインが帰朝したのは8月25日のことでした。
 その後ミシガン州立大学や関西私学、高等商業などとの対抗戦で戦力の調整を行った早大。9月のリーグ戦に向け、万全の準備が整いました。

【第46回 参考文献】
・「早稲田大学野球部五十年史」飛田穂洲編
・「都市対抗野球六十年史」
・産経新聞web版「【満州文化物語(9)】花開いた野球 熱狂の「実満戦」 都市対抗で最強だった」(2014年2月17日付)
・毎日新聞WEB版「都市対抗野球 歴代の優勝・準優勝チーム」

2 コメント

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最高に面白いです! (まりぴょん)
2020-05-03 11:54:01
初めてコメントします。ネットサーフをしていましたら、たまたまヒットしました。杉田屋守さんに、岡村寿さんの野球人生を楽しく拝読させていただきました(全て読みましたよ!)。人生いろいろ、野球人生もいろいろですね。是非これからも野球史の新たな発見をお願いします。
初めましてm(__)m。 (周防平民珍山)
2020-05-03 18:43:25
 まりぴょんさま、初めまして。弊ページ管理人・周防平民珍山と申します。
 この度は「杉田屋守伝」と「黒獅子旗」を通読していただいただけでも嬉しいのに、過分なご評価を頂き、大変恐縮に存じます。ありがとうございますm(__)m。

 弊ページの他の投稿はだいたい武道・格闘技の話か、「社会の兵隊としてどう生きるか」みたいな話ばっかりで、つまんないので読む価値はないと思いますが(;^ω^)、もしよろしければ引き続き、「杉田屋守伝」お読みいただければ幸甚に存じます。
 書き始めたのはもう5年くらい前なのですが、調べれば調べるほど書きたいことが増え、なかなかおさまりがつかなくなっております(;^ω^)。
 でも、「大変」とか「シンドイ」と思ったことはなく、けっこう楽しんでやっています(;^ω^)。

 これからもよろしくお願いいたしますm(__)m。

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