集成・兵隊芸白兵

 平成21年開設の「兵隊芸白兵」というブログのリニューアル。
 旧ブログ同様、昔の話、兵隊の道の話を続行します!

雑記・それは「反社」?いや、「反射」が理由です

2022-05-03 08:32:50 | 格闘技のお話
 4月以降、住むところも仕事の内容もコロっと変わり、新環境の変化に追従することにかまけていたため、「逮捕術の歴史」以降の投稿が滞っておりましたこと、お詫びいたします。
 今回以降しばらく、雑記をお送りします。

 わが国の武道・格闘技指導者のなかにはとんでもないヤツがけっこうな数存在しますが、特にワタクシが忌み嫌う「神秘系」「伝統系」のなかに多いのが「技術練習さえしていれば、他に何もいらん」と主張する一味です。
 これとは別に、これは組技格闘技系組織に多い「フィジカルを鍛えていれば、技がなくても何とかなる」という一味もおり、これはこれで非常に問題があります。
 前者については、弊ブログをご覧の皆様なら「ああ、あそことここと…」といった感じで、いくらでも思い当たる団体を列挙できると思いますが、後者についてはピンとこない方も多いかもしれませんので、後者の代表例を挙げますと、いわゆる「U系プロレス」や、一時期総合格闘技で「最強一族」を標榜していた、故・山本KID系の団体などがそれに当たります。

 ワタクシが弊ブログに於てしつこく「技術だけでも、フィジカルだけでもダメ」と主張している理由ですが、武道・格闘技というのは「命のやり取りがウンヌン、実戦がウンヌン」などというゴタクはさておき、いずれも精妙な身体操作が必要であり、それを理解するには「技術」あるいは「フィジカル」のうち、一方方向からのアプローチでは、気づかない・見えないものが多すぎるからです。

 一例を挙げます。
 「神秘系」「伝統系」がお好きないわゆる名人芸のほとんどは、人体にあらかじめ備わった「反応」や「反射」といったものの応用です。
 「反応」「反射」とは、コケそうになったら地面に手を付こうとしたり(パラシュート反応)、指をつついたら、反射的に指を握り込んでしまったり(手掌把握反射)、足の裏に力をかけると膝が伸びたり(支持反応)といった、人体にあらかじめ備わった瞬発的機能を指します。
 しかし、「反応」「反射」のうち、名人芸に特に必要とされる「伸長反射(筋肉が伸長されると、元に戻ろうとする反応)」については、技のレベルを上げようとすればするほど、フィジカルを鍛える必要が澎湃として湧き上がってくるのです。
 伸長反射を使った達人技としては、掌や拳を使ったもの(相手を触れるだけで吹っ飛ばすとか、掌が触れた状態から瓦を割るといった、いわゆる「寸勁」系の技)が代表的なのですが、伸張反射系の技を発現するためには「筋肉の緊張」が必ず付いて回ります。
 従いまして、伸張反射の技を成功させ、技のレベルをさらに上げるためには「筋肉に負荷をかけ、意識する」ということを、技の練習とはまったく切り離して別個に行い、筋肉と向き合う時間を作ることから逃れることはできないのです。
 ちなみになぜ「技練とは全く切り離せ」と言ってるかといいますと、これは以前の記事で書きましたが「技そのものの動き自体に負荷をかけると、動きがヘタクソになる」「30%1RM以上の負荷をかけると、技の習得に支障が出る」という理由からです。

 「沖縄空手流派研究事業 剛柔流解説書」(沖縄県文化観光スポーツ部空手振興課 編)によりますと、剛柔流の開祖・宮城朝順先生の日々のトレーニングの7割方は強烈なフィジカルトレであり、お弟子にもそれを求めたそうです。
 本物の名人は、「伸張反射がウンヌン」という言語や理論は知らずとも、技というものは「反射」「反応」を有効に呼び起こすこと、そのレベルアップにはフィジカルの鍛錬が不可欠だということを、鍛錬の過程から暗黙知として知っていたわけです。
 そして「空手の形は、正確に行うことが一番しんどく、難しい」「空手の形は古いものであればあるほど、役に立つ」という意味も、このあたりに込められていると思います。
(余談ですが、Youtubeによく転がっている武術解説系動画では、人体を棒人間化したイラストのみで捉え、「人体の軸を揃えたら、X軸とY軸がウンヌン」などということだけで技を解説していますが、これらの人々の解説は上記のような「反射」あるいはそれを発露させるためのフィジカルが完全に抜け落ちていることから、一顧だにする価値がないと断じます)
 
 翻って現代の「神秘系」と「フィジカルだけ」系を顧みますと、前者は技のかけ方だけを習って得々としているだけ、後者は筋量を増やしたり、筋力・筋持久力の伸びを弄んでいるだけという、実にお粗末な取り組みしかしていません。
 まあ、この界隈の方々とワタクシが交わることはないと思いますので、今回はとりあえず「名人技と反射」に関するお話をお送りいたしました。

【雑記の雑記】
※ 本稿における反射・反応に関する記載内容は「反射が生む達人の運動学」(中島賢人 BABジャパン)を参考としました。
 「『月刊秘●』をディスる記事が多い周防平民珍山が、BABジャパンの本を読むなんて!」とおっしゃる方もいるかもしれませんが(;^ω^)、ワタクシは「月刊●伝」自体をディスっているわけではなく、「どうしようもない記事が多いが、中には驚くようなスゴい記事もある」というふうに捉えているだけですので、BABジャパンの本であっても、役に立つものは躊躇なく購入してます。
 心底嫌いで、一切身辺に近づけないということじゃありませんので、この点ご理解よろしくお願いいたしますm(__)m。