~ それでも世界は希望の糸を紡ぐ ~

早川太海、人と自然から様々な教えを頂きながら
つまずきつつ・・迷いつつ・・
作曲の道を歩いております。

もうひとつの「バーナード領域」

2018-05-27 14:30:30 | 日常
南北に長きは日本列島。
皆様お住まいの地域におかれましては、
紫陽花の開花模様もそれぞれかと思います。

当地では

大小の花球が重たげに揺れ始めております。

折よくと申しましょうか・・・、
PCに放置したままのフォルダを開いてみたところ、
関東在住時に参拝した神社仏閣の境内に咲いていた
紫陽花の画像が出てきました。

こちらは3年ほど前。
東京都上野・弁天堂を浮かべる不忍池

その池畔に揺れていた紫陽花。
花の色から察するに、アルカリ性土壌でありましょうか?

ご承知置きの通り、
江戸幕府・草創期のブレーンであった天海僧正は、
西国の琵琶湖・宝厳寺・延暦寺・清水寺等を、
上野の不忍池・弁天堂・寛永寺・清水観音堂等として配し、
江戸の一角にコンパクトな京の都を立ち上げました。

以来、見立てられた古都の上に歳月の流れること四百有余年。
進取と伝統、粗暴と繊細、冷淡と人情、光と闇のそれぞれが、
渾然一体となり独特の精神風土を醸すに至った「東の京」。

かの地に在住時は、時に疎ましく感じたものが、
かの地を去った今、不思議と慕わしく想われます。

               

こちらは5年ほど前に参拝した際の
東京都日野市・高幡不動尊・金剛寺

その裏手に広がる紫陽花の苑


広大な境内に広がる裏山には

簡易的に巡ることの出来る、
四国八十八ヵ所霊場の巡拝路が設けられ、
各札所には石仏が奉安されていました。

               

宇宙空間には〈分子雲〉という星雲の一種があり、
星の誕生と形成が活発に行われることから、
「星のゆりかご」とも称されています。

おうし座の一角には全長10光年を超える分子雲があり、
「バーナード領域」として知られています。

紫陽花に顔を近づけ、耳を澄ましておりますと、

花球の中からは、星々の産声・歌声・さざめく声。

宇宙の一角と呼応して、路傍の紫陽花もまた星のゆりかご、
もうひとつの「バーナード領域」でありました。

皆さま、良き日々でありますように!



              









成田山・萬福院

2018-05-20 13:58:41 | 神社仏閣
こちらは、昨日参拝致しました覚王山・日泰寺

前夜からの風雨に洗われた大気に響く五層の賛歌。
「凍れる音楽」は、薬師寺に限ったものではありません

               

市川市に在住時、足繁く通いましたのは、
成田山・東京別院・深川不動堂。

総本山の成田山・新勝寺は、
千葉県成田の地に千年を超える歴史を刻む古刹であり、
全国には、その別院・分院が数多く存在します。
当地には、成田山・名古屋・栄(さかえ)分院の
〈萬福院〉があり、先日参拝してまいりました。


密教寺院らしい仄暗い堂内に端座し、
仏・法・僧に三礼したのち顔を上げますと、
そこには御本尊・不動明王の大きなお姿が。

ふと、
ある時は氷雨に打たれながら、ある時は猛暑に灼かれながら、
トボトボと歩んだ成田街道の懐かしい風景が脳裡に溢れ、
不思議に思いましたが、理由はすぐに分かりました。

総本山・新勝寺の境内には、
〈平和の大塔〉と呼ばれる浄域があり、その中には、
「青黒(しょうこく)」という色彩を超えた色彩を纏った
巨大な不動明王像が祀られています。

その青黒色の御尊像と、
名古屋・萬福院に祀られた同じく青黒色の御尊像とが
重なり合ったがゆえに、新勝寺に向かう道すがらの光景が、
記憶の海底から意識の水面に浮かんだのでありました。

               

萬福院の本殿・唐破風で結界を担う金龍

片手に宝珠を掴むのは龍の意匠として通例ですが、
もう片方の手に三鈷剣を握る姿は珍しいかと思います。

この剣は、不動明王が手に執る〈大智(だいち)の剣〉。
〈龍〉という存在が不動明王の眷属であることを、
ここでは龍自身が朗らかに唄っていました。

仏教では、
人間の中に渦巻く「むさぼり・いかり・おろかさ」を、
「貪(とん)瞋(じん)痴(ち)」の三毒と通称します。

不動明王が揮う大智の剣は、
これら三毒を一刀両断し、のみならず、

『 「どく」もまた 濁り除けば「とく」となる 』

と古歌に謳われるように、
〈毒〉を〈徳〉に変える法力に溢れているとされます。

『地球は、太陽の光が当たる面を「昼」、
 当たらない面を「夜」と呼ぶに過ぎず、
 自転に伴なって、それらは入れ替わり立ち変わる。
 毒といえども否定せずに活かせば徳となり、
 徳といえども一つ間違えば毒となる。
 正邪・善悪の捉われから離れた大きな宇宙観、
 これを「大智」と称す。』

その昔、京都・東山区の某寺院において伺った法話は、
今も心の奥に響き続けています。

とは言え、
何をどう知ったところで三毒まみれのワタクシめ、
日々、大智の剣を浴びながら、

トボトボと歩み続けるのみであります。


皆さま、良き日々でありますように!


              










映画「メッセージ」

2018-05-13 15:31:33 | 映画
本日は、路面を叩く雨音も猛々しい天候ですが、
昨日は、爽やかな皐月晴れでした。

五月の青空へ勢いよく伸びる松の新芽は

密教法具の三鈷杵を彷彿とさせます。

弘法大師・空海上人が留学先の中国から帰国する際、
明州・現在の寧波(ニンポー)から出航するにあたり、

「日本における伽藍建立の地を示したまえ」

と祈願されつつ、海岸から東の空の遥か彼方へ、
三鈷杵を投げられた・・・という伝説が偲ばれます。


青もみじの種は

赤い羽根を左右に広げ、自らを遠くへ運んでくれる、
五月の風を待っていました。

               

映画「メッセージ」(原題:Arrival)は、
世界公開時、大きな話題となった作品ですので、
レンタルを含め、御覧になった方も多いことと思います。

それゆえ今更にして何を書くということではなく、
只、ワタクシめ自身の備忘録に過ぎませんが、
しばしお付き合いの程、お願い申し上げます

               

飛来したのは、一見するとアボカドのような宇宙船。
船内にはダイオウイカに似たエイリアン。

この地球外生命体とのコミュニケーションを図るため、
言語学者:ルイーズ・バンクスが招集されます。
言語解析は難航するものの、ルイーズの努力と天才により、
エイリアン言語の特徴が次第に明らかとなり、
不完全な質問形ながらも、彼らの飛来目的を尋ねてみると、

「我々は、3000年後の地球人に助けられる。
 そのために今、あなた達に手渡すものがある・・・」

エイリアンが時間を往来する能力を持つ事が判明したものの、
「手渡すもの」という言葉の解釈を巡って意見が分かれ、
これを「武器」と誤解した大国の軍隊が攻撃準備に入ります。

一方、時制を超えたエイリアン言語に通じ始めたルイーズは、
「使用言語が、脳の在り方と思考形態を変化させる」という
〈サピア=ウォーフ仮説〉の影響を受け、その脳裏には、
未来の出来事が映像として浮かぶように・・・。

その予知能力のお陰で、
エイリアンとの軍事衝突が回避され、世界は救われますが、
彼女の予知能力は、彼女自身の未来に起きるであろう
耐え難い悲しみをも容赦なく映し出してゆきます。

自分の歩む道の先に、
想像を絶する苦しみや悲しみが待ち受けている・・・。
はっきりとそう知ってしまったルイーズは、
そこから未来に向け、果たしてどういう選択をするのか。

断ちがたく結び合う希望と絶望。
分かちがたく紡ぎ合う生と死。
人間として生きるとは、どういうことなのか。
運命とは、時間とは、言語とは、そして愛とは?

VFX映像、カメラワーク、音響効果、
ヨハン・ヨハンソン作曲のサウンドトラック、
ラストシーンに寄り添うマックス・リヒター作曲の弦楽曲。

観る度に、心の波打ち際を彷徨い、
聴く度に、想いの淵に佇みます。



              














原爆の残り火

2018-05-06 13:28:33 | 日常
十日ほど前に撮った写真ですが、
この季節にこうした房状の花序をつけるのは

おそらく「クヌギ」と思います。
間違っていたら申し訳ありません。


こちらは数日前、日本列島を駆け抜けたメイストーム明け

ヒラドツツジも、花期は終わりを迎えますが、
「ヒラドツツジ」と名付けられた命の全体は続きます。


路傍に咲く無数の曼陀羅・・・と思いきや

コデマリでした。


気ノ池の畔には、黄菖蒲の季節が巡り

五月は視界が華やぎます。

               =◯◯◯=

先日、伊勢市内の道路上において事故が起きました。
事故要因の一つが、道路脇に立ち並ぶ〈石灯籠〉。

高さは平均して2.5m程度

石灯籠は半世紀以上前、
伊勢で財を成した篤志家の方を中心とした民間団体が、
報恩感謝の想いで寄進したものなのだそうですが、
その老朽化による倒壊の危険性は、
かねてより伊勢市内外から指摘されていました。

定期的に安全性の調査や撤去は行われてきたそうですが、
数百基に及ぶ石灯籠の維持・修復には費用がかかること、
石灯籠の所有・管理における責任の所在が曖昧であること、
安全度の判定基準が不明確等々の諸理由により対策が遅れ、
ついには今回の事故が発生することに。

伊勢の風光に趣きと風情を添えていたものが、
負の遺産となってしまった今回の事故を受け、
現存する514基の石灯籠は全て撤去されます。

               =◯◯◯=

良かれと思って行い、また賞賛されもした行為が、
子々孫々の代においてはアダとなることもあれば、
自身で恥じ、また周りから非難されるような行いが、
歳月の彼方では多くの人々を救い潤すこともあります。

その時々の我が身の行いを、百年千年といった、
大きなスケールから俯瞰できれば良いのでしょうが、
神ならぬ人間の身には望むべくもありません。

               =◯◯◯=               

アルベルト・アインシュタイン博士(1879 ~ 1955)は、
原子爆弾の開発には関わっておられませんが、
当時の緊迫した世界情勢の中にあって、
原子核反応を利用した大型爆弾の可能性については、
科学者としての立場から意見を述べておられます。

戦後、在米中の湯川秀樹博士を訪ね、

「原爆で多くの日本人を傷つけてしまいました。
 ごめんなさい・・・」

と言葉を振り絞ったまま涙を流されたという逸話や、
亡くなる前年に、

「ヒロシマとナガサキへの原爆投下を予見していたなら、
 1900年代初頭に発見した公式は破棄していただろう」

と述懐されたという逸話等々には、
科学技術が、人間精神を超えてしまったことへの苦悩と、
技術の暴走を止められなかったことへの後悔とが滲んでいます。

               =◯◯◯=

名古屋港の一角に広がる商業施設・メイカーズピア敷地内。

レゴランド・ジャパンと隣接し大勢の人々が行き交う道、
その傍らに、ひとたりの炎が小さく揺れています。

24時間ガスが供給され、消えないよう保たれている火。

この火は、
広島に原爆が投下された後、地下壕でくすぶっていた火を、
現地で兵役に就いておられた、故 山本達雄さんが見つけ、
携帯カイロに移し、故郷の福岡県八女市(旧 星野村)に運び、
以降、火鉢やかまどで絶やすことなく燃やし続けられた火。

旧 星野村に建てられた「平和の塔」に移された後は、
不戦非戦を誓い、平和を祈る火として全国に「分け火」され、
名古屋港に灯る火は、その17ヵ所めの火なのだそうです。
       (参考・引用元:中日新聞/2017・8・31朝刊)

               =◯◯◯=

映画「ジャスティス・リーグ」の中で、
ガル・ガドット扮するワンダーウーマンが訴えます。

「正しい理由と《心》がなければ、
 科学は人類を破滅させる。」

「正しい理由」は、その時その時代によって変遷し、
なかなか一概にこうと言えない部分もありますが、
正しい理由と心は、畢竟《普遍的人道精神》かと思います。

科学に限らず、如何なる分野・業種においても、
技術が先行し〈道〉や〈精神〉がおろそかになれば、
個人においても、集団や組織という全体においても、
結局は滅ばざるを得ないのかも知れません。

とは言え、
〈道〉や〈精神〉ばかりが称揚される世の中は息苦しく、
また大変危うい社会でもあろうかと思います。

技術は、技(わざ)と術(じゅつ)。
「心ある者」が使えば多くの人々に幸せを運び、
「心ない者」が使えば多くの人に惨禍をもたらします。


〈原爆の残り火〉をよく見つめ、

出来れば「心ある者」となれるよう、
自らの内界に、その火を分けて頂きました。
けっして絶やしません。

至らぬながらも、モノ作りの光と闇を考え、
一音一灯のあるべき姿を想うものであります。

               =◯◯◯=

ゴールデンウイークも終わり、

悲喜交々の波が寄せては返す日常が始まります。


皆さま、良き日々でありますように!