(前回からの続き)
さて、円安がこうしたわが国の輸出産業に一定のプラス効果を与えるのは間違いのないところと思います。
これを象徴的に表す言い方としてよく引き合いに出されるのは「自動車」でしょう。自動車業界は自動車メーカーをトップに数万点もの部品等を製造するメーカー群によって構成される裾野の広いセクターなので、円安で自動車が外国にたくさん売れるようになれば、それだけ多くの会社や従業員、そしてこれらの株主や投資家が潤う、といったことです(もっとも日本の自動車メーカーの海外生産台数比率はすでに5割をゆうに超えているので、こうした輸出増加によるプラス効果はかつてほど顕著には現れないという見方もできるかと思います)。自動車以外にも電機、精密機械、建機など、大手製造業の多くは円安の恩恵を受けることでしょう。
しかし、光差すところには必ず影ができるように、多くの人々が待ち望んでいたはずの「円安」・・・その円安のマイナス面にわたしたちはイヤでも目を向けざるを得なくなってきました。それが輸入品の価格上昇リスクです。
わが国は輸出大国であると同時に、じつは「輸入大国」でもあります。
先にご紹介した国際貿易投資研究所のデータによれば、2011年のわが国の輸入額は8500億ドルあまりで輸出額と同じく世界第4位です(この年は東日本大震災やタイ洪水などの影響で貿易収支は赤字となっている)。次に輸入上位10品目(輸入総額シェア)を見てみると、1位:原油・粗油(16.8%)、2位:LNG(7.0%)、4位:石炭(3.6%)、5位:石油製品(3.3%)、6位:非鉄金属(2.7%)、9位:鉄鉱石(2.5%)(以上、財務省統計)などと、ドル建てで取引される鉱物資源がずらりと輸入品目上位に並んでいます。今後もとりわけ石油、LNG、石炭といったエネルギー資源の輸入量・輸入額はともに高水準となるでしょう。わが国では原発の再稼動のめどが立たないからです。
というように、石油のような燃料類の輸入量が高止まりを続けるなか、昨今の円安ドル高でこれらの価格が急上昇する懸念があります。わずか2ヶ月ほどで10%以上円安ドル高が進んだということは、これらのドル建て価格に大きな変動が無くても円建ての価格は10%上がるということになります。もしこの円安が長引けば、このマイナスの影響は甚大です。
先に円安メリットが自動車をはじめとするわが国の輸出産業に広く及ぶと書きましたが、さすがに国民の100%に恩恵を与えるとは言い難いでしょう。事実、ご紹介したとおり日本のGDPに占める輸出の割合は14%程度にとどまっています。
一方、円安によって何らかの悪影響を受ける国民の割合はズバリ「100%」といえるのではないでしょうか。円安で値段が上昇する輸入必需品、とくに石油(そしてLNG)のお世話になっている人の割合が「100%」だからです。
(続く)