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sigh of relief

くたくたな1日を今日も生き延びて
冷たいシャンパンとチーズと生ハム、
届いた本と手紙に気持ちが緩む、
感じ。

映画:オマールの壁

2016-05-21 | 映画


パレスチナの分離壁によって土地や自由を奪われた人の話かと思ってたら
特にそういうわけではなく、
分離壁は、この映画で描かれる悲劇を生む状況の象徴ではあるけど、
映画はむしろ、どちらかというとひとりの真面目で優しい若者の
恋と友情と裏切りの物語のように思いました。

とはいえ、その悲劇すべてにイスラエルによる占領が
深い影響を与えていることを忘れるわけにはいきません。

前半は、わー、若者の、みずみずしいけど不器用で未熟な恋愛話か?と
ダルダル気分で見てたんだけど(子どもの幼稚な恋愛にうんざりしている)、
後半でどんどん話が絡まっていって、ラストは少し予想できたとはいえ、
十分な重さと深い余韻を持つ終わり方で、大変いい映画でした。

誰かがコメントでスパイ映画の「裏切りのサーカス」を例に出してたけど
確かにそういうところがあります。
スパイ映画・・・裏切るふりをして裏切らないが騙される者や、
裏切ってしまうもの、裏切り者を裁こうとするものや、
全てを操る者。。。
それらがプロフェッショナルな関係ではなく、幼馴染という境遇の若者たちの中で
嘘や裏切りの疑惑が生まれ、やがて友情も分断されていってしまう。

オマールは優しく真面目な若者でおいしいパンを焼く職人でもある。
壁の向こう側に幼馴染と、その妹である愛するナディアがいて
日常的に8メートルの壁を越えて会いに行く。
これは見つかったら射撃されるような危険のある行為のようなのに、
そういう危険ももう日常の一部なんだなぁと思う。
壁の向こうは別の国ではなく、同じパレスチナ人が住んでいるのに、
射撃されずに向こう側に行くにはうんと遠回りをして、
しかも検問を通らないといけないようですが
検問を通過するには、イスラエル政府が発行する通行許可証が必要で、
この許可証の発行要件は、病院や国際機関等の特殊な職業に就いていることや、
30歳以上であることなどのようで、
映画で見る限り、オマールのような若者が検問を通るのは無理です。
それで、元気で身軽な若者は、壁を乗り越える危険を選ぶのでしょう。

イスラエル兵に面白半分に侮辱され銃で殴られたりする自由のない日々に、
幼馴染の3人は、イスラエル兵への反撃を企て、その一人を射殺します。
誰かが情報を漏らしたのか、オマールが捕まり、
拷問を受け、協力者にならないと一生外に出られないと脅されます。
オマールは協力するふりをして、仲間と反撃しようとするけど失敗し、
さらにナディアのことなども脅され、さて、彼は裏切り者になるのか・・・。

でも、映画のラストを見た後に考えていたのは、個人の裏切りではなく
こんな壁などを作って、人々を分断してしまう大きな存在のこと。
そういうことをする権力や力を持つ国や人のこと。
一つの社会を、一つの民族や、家族や友達や恋人たちを、一方的に強制的に、
こんな風に分断するのは、本当にひどいことだ。壁でなく国境でもなんでも。
わたしの父母、祖父母や祖先が生まれ育った朝鮮半島のことも思い浮かべました。

「スタッフは全てパレスチナ人、撮影も全てパレスチナで行われ、
100%パレスチナの資本によって製作された。」と映画の公式サイトに書かれています。
この映画はイスラエルでも公開されたんだろうか・・・。

そういえば→バンクシーはイスラエル批判を込めてこの壁にも絵を描いていますね。
イスラエル兵にの威嚇に負けずに書いたようです。さすが戦うバンクシー。

パレスチナの分離壁(wikiより)
イスラエル政府は分離壁の建設を自爆テロ防止のためと説明している。一方、分離壁のルートは入植地を囲むためにグリーンライン(1949年停戦ライン)より内側に入り込んでおり、入植地を恒久的な領土とするための既成事実化を目論んでいるとも言われている。さらに、分離壁そのものがパレスチナ人の生活を分断して大きな影響を与えていることから、分離壁の建設は国際的に不当な差別であると非難されており、国際連合総会でも建設に対する非難決議がなされている。国際司法裁判所は2004年7月9日にイスラエル政府の分離壁の建設を国際法に反し、パレスチナ人の民族自決を損なうものとして不当な差別に該当し、違法であるという勧告的意見を出している。国連総会での非難決議もこれを踏まえたものである。 

映画館に貼ってあった切り抜き。


さて、ちょびっとだけネタバレ。ラストのシーンについて。

オマールは最後まで心の強いやさしい青年でした。
愛する女性が幸せになるために、自分は身を引く優しさがあり
さらに、何があっても、彼女を守ろうとする強さもあり、いい男だなぁ。
そしてまた、目先の復讐ではなく、
自分を裏切った者より、裏切るように仕向けた者を憎む理性がありました。
ここはいろいろな読み方ができて、最初の方に出た言葉が伏線になってて
すべては最初から仕組まれていたことだったとも読めるし、
単にかけがえのない幼馴染の友情を操り分断したものへの怒りを
見て取ることもできるし、両方かもしれませんね。
テロリストにされたことを憎むあまり、個人を攻撃するのではなく
本当に悪いのは、テロリストを作り出している、もっと上にいて人を操る
そういうやつらなのだと、訴えたいんだろうなと思いました。
目の前で起こったことの復讐ではなく、その根本を正さないと
争いは終わらないということでしょう。

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