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sigh of relief

くたくたな1日を今日も生き延びて
冷たいシャンパンとチーズと生ハム、
届いた本と手紙に気持ちが緩む、
感じ。

映画:浮雲

2013-03-12 | 映画
成瀬巳喜男監督の「浮雲」。
これはもうなんというか。
ああダメ恋愛経験者に見せたら
あれこれと身につまされるところの多そうな映画です。
林芙美子はホントに人間の嫌なとこをイヤァな感じに見せますねぇ。
うまいけどねぇ。しかもやるせなさ、半端ない。
彼女の小説のすごさは若い頃より
多分今の方がよくわかると思う。

戦後の暗い時代の、どうしようもないダメな男と
何も持たない女の物語です。
ふたりは戦時中の東南アジアで出会い
妻子ある男と知りつつ恋仲になる。
そして定番ですが戦争が終わって帰国したら
妻と別れて一緒になろうと言った約束は守られない。
女は都会で一人生きるためにアメリカ兵の情婦になったりしながら
訪ねてくる男ときっぱり別れることができない。
仕事のない男と温泉に旅行に行くと
男はそこの若い人妻に手を出し、
それでも二人は縁を切ることができない・・・。

もうね、これぞ「ザ・腐れ縁」です。
恋愛映画の次元ではないですね。
恋愛と言う言葉の持つ甘やかさはどこにもなく
愛情もあるのかないのかわからない、それでも
どんなにダメでも、もうどこか家族のようになっちゃって、
行くところもないのに、つい一緒に歩いちゃうとか。
どうにもならない腐れ縁の行き着く先までを描いた映画です。

ののしり合ってけんかして別れたのに、
なんでそんなにうきうきと呼び出されて出て行くのだ、高峰秀子。
2度も3度も捨てられて、なんでほいほいお金貸すのだ、高峰秀子。
なんでそんなに心配してやるのだ?
この、どうしようもないダメでだらしなくていい加減な男が、
水虫で足がちょっと痛いんだなんていうのをさえ、
なんであんなに愛おしそうな顔をして聞くのだ、高峰秀子。
投げやりで、全然儚げでなく図太さもあって、
愛情むき出しで甘えることもなく、気も強そうなのに、
それでも別れられずに、突き放せずにいる女の
寄る辺ない様が切なく身にしみます。すばらしい演技。

そしてこのダメ男。
ものもらいで眼帯をして現れるなど、ダメなくせに
つい、ちょっと同情させてしまうとか、
もうダメな男は無自覚にずるいしダメ。

ただ、とことんダメなんだけど、
嘘はつかないしモラハラもセクハラもしない。
女たらしだけど、特に甘いことを言うわけでもなく、女が寄ってくる。
ふーらふーらとしている。
お金に困っているけど、女のお金もあてにしてないし、
利用する気もない。
つまり無自覚だし、悪気はないのよねぇ、こういう男は。
だから、とことん憎めないのかな。

あと、やっぱり戦後のこういう時期に、
何も持たない都会の人間、特に女の大変さ、
見通しの全く立たない暗い生活、
そこから結局抜けだせずダメになったり、
死んで行く人たちの出てくる映画を何本か見て、
やっぱり、昔はよかったなんて言えないやろ~と改めて思う。
映画がフィクションなのはわかってるけど、
昔は昔で本当に大変だったのよねぇと。

暗い終わり方で、
まあ中盤からずーっと暗いけど(笑)、
この暗い時代の暗い生活の中から抜けて、死ぬことは、
案外この時代には簡単なことだったのかもとも思う。
終盤、仕方なくにせよ、優しく世話してくれる男の元で死ねた彼女は、
そんなに不幸だったようにも見えない。
男はみじめなもんだけどね。

ああ、こんなに皮膚の内側にまでしみわたるような
切ない男と女の話は、久しぶりでした。

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2 コメント(10/1 コメント投稿終了予定)

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Unknown (marie)
2013-03-13 13:04:05
記事とは直接関係の無いコメントで申し訳ないのですが、息子さん、おめでとうございます!

sighさんにも息子さんにもお会いしたことのない人間からの言葉で不気味だと思いますが(申し訳ありません)、おめでとうの気持ちは本物です♪

4月からは一人暮らしをされるのかな。
これからの息子さんの生活が、より一層素晴らしいものとなりますように!
返信する
>marieさん (sigh)
2013-03-13 18:16:03
ありがとうございます~!
今回は、実際に会ったことのない方からも
たくさん応援してもらって、お祝い言ってもらって
本当にありがたいです。
息子の一人暮らしは、かなり心配ですが
(甘やかしてはないと思うけど、
あまり生活技術を仕込んでなかったので)
若いし元気だし、そんなに遠くではないので
(ラクに日帰りできる距離)
きっと大丈夫でしょう。羽目を外しすぎないように
ちょっと注意は必要かも。(笑)

ありごうございます!
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