いじめられている子どもの多くは、いじめられている事実を教師や肉親に告げないという。先生や親が様子を不審に思って「いじめられているのではないか?」と尋ねても、大抵は否定するものらしい。
自分のプライドを守るため、というのが大きいと思うが、あるいじめられている人へのインタビューによると、「親にばれたら、学校での辛さが(唯一の息抜きの場である)家庭にまで侵入してしまう」からでもあるという。
こう言える人はまだましで、家庭でも学校とは別の辛さがあると自分の内面に閉じこもってしまうことになるのだろう。
本作品の登場人物の一人は学校でいじめられ、カツアゲにあって悩んでいる。先生にも親にも相談できず、困りはてている。簡素でドライな記述になっているが、その辛さが鮮明に伝わってきた。
このいじめられている子は、「首折り男」に似た大男に偶然助けられて、立ち直るきっかけをつかむ。このプロセスもありがちなのだが、伊坂さんの筆にかかると、読んでいる方がほっとできるようなストーリーになってしまう。
それは、いじめられる辛さの描写がリアルであることの裏返しのせいであるが、助けられた方だけではなくて、助けた「首折り男」に似た大男の方も、この行為によって救われることになったという、ひとひねりした筋立てのためでもあるだろう。
一見何の関係もなさそうな3つの話が最後に収斂するという、著者お得意の構成。最終行の小さなオチもなかなかしゃれている。