蛙と蝸牛

本の感想。ときどき競艇の話。

福田村事件(映画)

2024年04月18日 | 映画の感想
福田村事件(映画)

関東大震災の5日後、1923年9月6日、千葉県の福田村で、村人が讃岐から来た薬の行商人を朝鮮人と誤解して集団虐殺した事件をモデルにした作品。

朝鮮にいたインテリ澤田(井浦新)は妻(田中麗奈)と故郷の福田村に帰ってくる。同級生の田向(豊原功補)はリベラル風の村長になっており、同じく同級生の長谷川(水道橋博士)は在郷軍人として村のガーディアンを自任していた。大震災の後、朝鮮人が暴動を起こしたという流言飛語が広まり、長谷川らは自警団を組織、ちょうど村に滞在していた行商人たちのアクセントから彼らを朝鮮人と誤認して暴行のすえ9人を死に至らしめる・・・という話。

森達也監督ということで、ノンフィクションっぽい内容かと思っていたが、澤田夫妻の葛藤やニヒルで浮気性の船頭(東出昌大)などを絡ませてドラマ仕立ての色合いも強かった。

親方の沼部(永山瑛太)に率いられた行商人集団の描き方が魅力的で、もっと彼らの視点を取り入れたらよかったかな、と思えた。
沼部が「朝鮮人なら殺してもいいのか」と叫ぶシーン、
9人が虐殺された後、残りの6人が村人たちに囲まれて経文?を唱えるシーン、
が特に印象に残る。

扇動者のリーダー格役の水道橋博士は、セリフがぎこちない感じだが、これがむしろ効果的で、その郷土愛には疑いがないものの偏見から逃れられず破滅的な結果を招いてしまう、というある意味不運な男にふさわしく見えた。
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波紋

2024年04月05日 | 映画の感想
波紋

須藤依子(筒井真理子)は、夫修(光石研)が10年前に失踪した後、修の実父を介護して婚家に住み続けていた。依子は、新興宗教にのめり込み、多額のお金を注ぎ込んでいた。
突然修が帰ってきて抗がん剤の治療費を出してくれといいだし、一人息子(磯村勇斗)が連れてきたフィアンセは聴覚に障がいがあった。動揺する依子は・・・という話。

荻上直子監督作品らしい内容で、行き違う(というかまったくフィットしない)家族を多少の諧謔味をこめて描いている。

キャスティングがよくて、夫妻ともに、この人しかないんじゃないか?と思えるようにハマっていたし、新興宗教の幹部?役のキムラ緑子、スイミングプールでの友人役の木野花もその役柄の人格であるとしか思えないほどだった。
イヤな老人役でチラッとしか出ないけど、柄本明もいいなあ。
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落下の解剖学

2024年03月23日 | 映画の感想
落下の解剖学

雪の山荘でサンドラの夫が転落死する。発見者は犬の散歩帰りの息子で、彼は視覚に障がいがあった。当時山荘にはサンドラしかおらず、彼女は殺人の容疑で逮捕されフランスの法廷で裁かれることになった・・・という話。

サンドラはドイツ生まれだが、英語はネイティブ並み、フランス語は苦手、という設定になっている。法廷では、基本的にフランス語での証言を求められるが、通訳がついていて核心に近いところでは英語で証言する。
サンドラの弁護士はフランス人で、打ち合わせする時、サンドラは英語で話すが、弁護士はたどたどしい英語で話す、みたいな異言語文化間の摩擦が本作の見どころの一つだと思うが、字幕ではそのニュアンスが十分には伝わってこなくて残念だった。

サスペンス感はなくて、ミステリとしてみると謎解きに意外性はあるものの、解決があいまいでカタルシスもない。全体としてノンフィクション風で、エンタメとして見ると失望しそうだが、逆にいうとカンヌの審査員にはウケそうな内容なのかもしれない。

検察官や弁護士が特有の衣装をまとったり、裁判官の席に無造作に大量の資料が積み上げられるフランスの法廷シーンが興味深かった。
謎解きのキーとなるシベリアンハスキー?の飼い犬の演技?が見事だった。
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ゴールド・ボーイ

2024年03月13日 | 映画の感想
ゴールド・ボーイ

沖縄の大企業グループのオーナーの女婿の東昇(岡田将生)は周到な計画でオーナー夫妻を崖から突き落とし殺害する。中学生の安室朝陽(羽村仁成)は偶然に突き落とす場面を動画撮影し、継父になじめず家出してきた友人の上間兄妹とともに東昇にこの動画を買い取ってもらおうとするが・・・という話。

いやー、もしかするとエンタメ作品としては、これまでみた映画で最高の出来だったかも。
とにかくテンポがよくて、説明は最小限なのに五転六転?くらいするストーリーを実にわかりやすく、「次、どうなるの」感満載でスピーディーに展開して、文字通り時間の経過を忘れさせてくれる。
まあ、反面、テーマ性とかアート性、あるいはリアリティ(実際にはこんなにうまくいかないよね)は皆無なんだけど、そんなことどうでもいいとも思えてくるほど楽しめる。

主役の朝陽とヒロインの上間夏月(星乃あんな)のセリフ回しは少々苦しいが、岡田将生、黒木華(朝陽の母役)、江口洋介(刑事役)、北村一輝(朝陽の父役)といった芸達者がカバーしてくれている。
特に岡田将生。最近の出演作を見ていると悪役の方が似合っている感じだったが、本作は本当に素晴らしい。表情の変化が特によかった。
悪役が似合いそうな北村一輝が、悪人ばかりの登場人物の中で唯一まともそうなキャラというのもいいなあ。(善人っぽい黒木華や江口洋介も実は・・・という匂わせもいいね)

監督の金子さんってガメラの監督だよね?特撮系に特化した人なのかと思っていたけど、そんなことなかったんだね。監督の編集力が本作の成功要因だと思うし、異国感を強調した沖縄の表現も出色だったと思う。タイトルロールの最後で続編作成を予告していた?ので、とても楽しみだ。あのくらいで朝陽はギブアップしないよ、きっと。

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少女は卒業しない

2024年03月12日 | 映画の感想
少女は卒業しない(映画)

廃校が決まった高校で卒業式の日とその一日前の高校3年生の不安定な心を描く。
山城(河合優実)は式で返辞を読むことを引き受ける。引き受けたのには理由があった。
バスケ部部長の後藤は進学して上京が決まって、地元に残る彼氏と微妙なムードになっていた。
軽音楽部部長の神田は、幼なじみの森崎にボーカルとしての実力を発揮してもらいたがっていた。
クラスになじめなかった作田の居場所は図書室で、そこで司書?の坂口先生(藤原季節)とおしゃべりするのが楽しみだった。

原作は朝井リョウで、そのわりにはキラキラ系の高校生ばかりなのが意外だった。しかし、監督もそこは原作者の真意?を悟って?いたのか、光彩を放っているのは、くすぶり系の森崎と作田だった。
昨今、各方面で評価の高い河合優実は、役柄とマッチしてない感じがしたかな。もっとドライな役回りが似合っていると思う。

作田役の人(中井友望)がとても上手で、孤独で同級生となじめない雰囲気がよく出ていた。

私も高校時代クラスや部活では孤立していて、席に座っていても居心地最悪なので、空いてる時間はいつも図書室にいた。坂口先生のような素敵な司書の人はいなかったが、そこで読む岩波の世界史講座(内容が専門的すぎ、分厚くて、確か10巻以上あって、いつまでたっても読み終えることができない所がよかった)だけがともだちだった。

高校の卒業式には出席したはずだけど、その記憶は100%欠落している。多分、作田のように最後になって何人かのクラスメイトと心通わす、なんてとこも皆無で、一人で自転車にのって田んぼ道を帰ったのだと思う。
だから、高校を卒業したら地元には残りたくなくて、親に無理を言って東京に行った。幸い、大学生の4年間はウソのように楽しく、地の底から天上のパライソにすくい上げてもらった気分だった。

作田と、高校生の頃の自分と、似たような立場にある高校生にいってあげたい。
大丈夫だよ、もう少しのガマンだ。
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