蛙と蝸牛

本の感想。ときどき競艇の話。

あの本は読まれているか

2021年05月27日 | 本の感想
あの本は読まれているか(ラーラ・プレスコット 東京創元社)

1950年代後半の冷戦時代、ソ連の反体制作家ボリス・パステルナークが書いた「ドクトル・ジバゴ」はソ連国内では出版できなかったが、密かに原稿が持ち出されてイタリアで出版される。CIAは「ドクトル・ジバゴ」をソ連国内で流通させることで体制を動揺させようとする・・・という実話に基づく話。

上記のようなエスピオナージュとは別にCIAのタイピスト(兼工作員)であるサリーとイリーナ(ソ連からの亡命者)の隠された友情物語が展開される。原題は「THE SECRETS WE KEPT」なので実はこちらが主筋だと思う。
邦題は日本で売れそうなものを付けたのだと想像するが、原題と全くなんの関連もないタイトルにしてしまうのはどうだろう。

さらに、ソ連におけるパステルナークと愛人のオリガとの愛憎の物語が挿入されるのだが、この部分が抜群にいい。
オリガを心から愛しながらも、(書き続ければ当局から睨まれることを恐れてオリガは反対するが)小説の執筆をやめることができないパステルナーク。パステルナークと付き合い続けると再び矯正収容所行きになると知りつつも別れられないオリガ。
二人の葛藤が鮮やかに描かれていて感動的だった。

余談だが、訳者あとがきによると、著者のファーストネーム(ラーラ)は実名だそうである。「ドクトル・ジバゴ」(ヒロインの名はラーラ)のファンだった著者の母親が命名したとのことで、素敵なエピソードだと思った。
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タイタン

2021年05月18日 | 本の感想
タイタン (野崎まど 講談社)

2250年、世界のあらゆる事象は、巨大AIタイタンにより支援・管理され、国家はなくなり、人類は「仕事」を行う必要はなくなった。心理学を趣味として研究する内匠成果は、タイタンをコントロールする組織から「仕事」を依頼される。北海道にあるタイタンの一部(地域ごとに担当がわかれていて全世界で12パーツのタイタンがある)であるコイオスが機能不全に陥っており、心理学を応用してコイオスのカウンセリング?を行うことになる。

実体化?したAI(高さ1,000メートルの人型構造物?)が別のAIパーツに人生相談をするために北海道からシリコンバレーまで海岸沿いに歩行して行くという大ボラぶりがSFっぽくてよかった。

「仕事」という概念が消滅した世界において「仕事」の意義を問うというテーマ自体は、SFといっても「SPECULATIVE FICTION」(思弁小説?)に近いような気もした。
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