蛙と蝸牛

本の感想。ときどき競艇の話。

死刑にいたる病

2018年09月29日 | 本の感想

死刑にいたる病(櫛木理宇 ハヤカワ文庫)

主人公の筧井雅也は、子供の頃は成績がよかったが、高校生になると落ちこぼれて今はいわゆるFラン大学へ通っている。
起訴されただけでも9人の子供を監禁・拷問の上、殺害したシリアルキラー:榛村大和は、獄中から筧井を呼び出し、9人目だけは自分の犯行ではないから、それを証明してほしいと依頼する。榛村は筧井が幼い頃通っていたパン屋の主人だったが、関係といえばそれくらいのはず、なぜ自分に?と戸惑う・・・という話。

各種ランキングでかなり高く評価されていた作品だったが、いわゆるサイコパスの解説本みたいな感じで、ミステリ、あるいは普通の小説としても、イマイチかな、と思えた。

主人公をあえて凡庸でつまらない人間と描くことで、サイコパスである榛村の異常性や抗いがたい魅力を際立たせようとしているように思えたが、まあ、よくあるパターンのような・・・

この手の話は、レクター博士はじめ、有名人?があまりにたくさんいるので、破天荒なまでのキャラ立ちで描かれていないと二番煎じになってしまうと思う。(けなしてばかりですみません)

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カメラを止めるな

2018年09月27日 | 映画の感想
カメラを止めるな

ゾンビ映画のロケ中に、リアルな恐怖を追求する監督は、本物のゾンビを登場させようとして、撮影現場に伝わる恐怖伝説通りのふるまいをする。そうしたら、出演者やスタッフが本当にゾンビになってしまい、他の出演者たちは脱出しようとする。しかし、監督はここを先途と自らカメラを握って撮影を続ける・・・という話(ですが、ホラー映画ではありません)。

公開当時、日経新聞夕刊の映画評で絶賛されていたので、見てみたかったのだが、上映館が極小数だったので、あきらめて忘れていた。公開してみると爆発的な人気になったらしく、近所のシネコンでも上映されることになり、ちょうど時期外れの夏休み(有休)になったので見に行った。

平日の真つ昼間にもかかわらず、そこそこ席はうまっていて、後半では館内が大笑い(というのは大げさだが、私を含めてクスクス笑いが止まらない人が多かった)。

三重構造のストーリー、伏線の見事な回収、映画製作者の悲哀と歓喜・・・などなど、今ブームになっている作品ということを差し引いても、見た後にまだ見ていない人に薦めたくなる、とても面白い、多分映画館で見たからこそ面白さがさらに増した作品だった。

蛇足:作品中で映画監督役の人が、この作品の監督本人だったりしたら、もっと楽しいんだけどなあ、と思ったが、残念ながらそうではなかった。

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オーケストラ!

2018年09月17日 | 映画の感想
オーケストラ!

ロシアで政治的理由から音楽界から追放されてしまった天才指揮者が、かつての同僚を引き連れ、ボリショイ交響楽団になりすましてパリでコンサートを催すという映画。

そういう筋や、中盤までのコメディっぽい味付け部分はどうでもよくて(そのへんが退屈で見るのをやめようとおもったくらい)、ラスト20分くらいの、なりすまし楽団がチャイコフスキーの「バイオリン協奏曲」を演奏する場面が抜群にいいです。
なぜ、なりすまし楽団は奇跡的な名演奏ができたのか、
なぜ、ソリストのバイオリン奏者の人生の秘密が演奏中に明らかになったのか、
といったことが、(セリフがほとんどないのに)映像からビビットに伝わってきました。

(蛇足)原題は「Le Concert」。邦題は悲しいくらいセンスないな~そのまま「コンサート」の方が全然いいのに。
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gifted

2018年09月17日 | 映画の感想
gifted

メアリーは数学の天才で、小学生にして大学院レベルの数学を理解する。その母(ダイアン)も数学の天才だったが、メアリーを産んだ後自殺していた。ダイアンの弟フランクは、元天才の准教授だったが、今はフロリダで気ままな生活を送っている。ダイアンから頼まれたメアリーを育てていたが、ダイアンの母(イブリン。こちらも有能な数学者)が養育権を主張して裁判を起こす・・・という話。

高校野球の、出場校が多い地方予選のトーナメント表をみると、そのチーム数の多さは目がくらむほどだ。甲子園で試合ができる生徒はほんの一握りで、多分東大に入るよりはるかに難しいだろう。しかし、そこからさらにプロになれるのは数人程度、さらにプロで活躍できるのは・・・と考えていくと、本当の天才でない人が、才能があると誤解されて人生の前半を捧げてしまうというのがいかにリスキーかよくわかる。

英才教育を受けたために普通の子供の生活ができなかった姉を見てきたフランクは、あえてメアリーを普通の小学生に通わせる。
そこに祖母が介入してきて(高等教育を受けさせようと)メアリーを奪おうとする。
普通の映画なら、やがてメアリーが祖母の方針に嫌気がさしてフランクのもとに戻ってきてハッピーエンド、となるところだ(実際、筋だけ追うと本作もそうなるのだが)。
しかし、本作は、そのような疑似親子の愛情物語と見せかけておいて、後半には別のテーマ(才能に恵まれている(gifted)ことは幸福なのか?)を色濃く浮かび上がらせる。

そして、姉(ダイアン)が生前に弟(フランク)に託した秘密は、ダイアンに英才教育を強制してきたイブリンへの残酷な復讐であったことが、終盤になって明かされる。
それがあまりに痛烈で、見ている方も(そこまでやりますか、という)ショックを受けるほどだった。
(フランクがイブリン(母)に対して(姉との約束をやぶって)秘密を明かすのは、どうなのよ?、とおもってしまう。普通、こんなことを娘にされたら、人間として立ち直れないよね。もっとも、映画の中では、イブリンは素早く、あっさりと立ち直ってしまうのだけど。。。)

フランクの世捨て人的な暮らし方、アメリカ映画らしい裁判シーン、も良くて、日本ではほとんど話題になってないけど、もっと多くの人に見てもらいたい作品だった。
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荒神

2018年09月08日 | 本の感想
荒神(宮部みゆき 朝日新聞出版)

元禄時代、現在の福島県中部にある永津野藩とその隣の香山藩は、名産品などをめぐって対立していて、武力にすぐれる永津野側は藩境を侵して香山藩の住民を拉致していたりした。藩境に近い香山藩側の村から逃散が相次ぎ、香山藩の番方が視察に赴くと、村は何者かに襲われて全滅状態だった・・・という話。

宮部版ゴジラというべき内容で、村を襲う恐竜のような怪物が主役。
怪物が暴れまわるシーンは迫力満点でページターナーの面目躍如。
話を長くしようとすればいくらでも長くできそうな内容なのだが、(宮部さんの作品としては)かなりコンパクトな長さに調整されているのもいい。
ミステリ的な伏線と回収もあって、まさに上級のエンタテイメントに仕上がっている。

コメント (1)
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