蛙と蝸牛

本の感想。ときどき競艇の話。

王とサーカス

2021年03月27日 | 本の感想
王とサーカス(米澤穂信 東京創元社)

太刀洗万智は新聞社をやめてフリーの記者になる。海外旅行雑誌の取材の準備のためネパールのカトマンズの小さなホテルに滞在している最中に王宮で皇太子が国王をはじめとする王族を殺害するという事件がおきる。チャンス到来と取材を始めた万智はホテルのオーナーの知り合いの(王宮を警護していた)ラジェスワル准尉にインタビューするが、全く成果は得られない。その翌日そのラジェスワルは街中で死体で発見される・・・という話。

ジャーナリズムの意義をテーマとしている。「王とサーカス」というタイトルは章名の一つになっていて、その章ではラジェスワルが万智の取材の意味を問いかける。万智は、真相を世界にむけて報道すればネパールのためになるとか、真実を歴史に残す、みたいなことを訴えるが簡単に論破されてしまう。

ラジェスワルはいう。
「自分に降りかかることのない惨劇は、この上もなく刺激的な娯楽だ。意表を衝くようなものであれば、なお申し分ない。恐ろしい映像を見たり、記事を読んだりした者は言うだろう。考えされた、と。そういう娯楽なのだ。それがわかっていたのに、私は既に過ちを犯した。繰り返しはしない」

「たとえば私が王族たちの死体の写真を提供すれば、お前の読者はショックを受ける。『恐ろしいことだ』と言い、次のページをめくる。もっと衝撃的な写真が載っていないかを確かめるために」

「あるいは、映画が作られるかもしれない。上々の出来なら、二時間後に彼らは涙を流して我々の悲劇に同情を寄せるだろう。だがそれは本当に悲しんでいるのではなく、悲劇を消費しているのだと考えたことはないか?飽きられる間に次の悲劇を供給しなければならないと考えたことは?」

ミステリとしては、ラジェスワルの死体に刻まれた「INFORMER」という文字の意味がカギになるのだが、その真相もかなり苦いもので、ちょっと後味が悪かった。

蛇足だが、本作では「INFORMER」というのは、「内通者」として辞書には載っているが、普通は使われない用語だとされているが、最近みたDVDの邦題に(「内通者」という意味で)なっていた。ネイティブではない日本人がつけたから??
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パラ・スター<Side百花・宝良>

2021年03月27日 | 本の感想
パラ・スター<Side百花・宝良>(阿部暁子 集英社文庫)

テニスプロを目指す君島宝良は事故で下半身不随となり車いすでの生活を余儀なくされる。生きる目標を見失っていたが、車いすメーカーに勤める親友の山路百花に連れられて見に行った車いすテニスに魅了され、車いすテニスを始める。めきめきと頭角を現し日本で開催されるメジャーな大会で絶対王者と対決する・・・という話。

「本の雑誌」で絶賛(文庫解説の北上次郎さんも絶賛。まあ、同じソースですが)されていたので、読んでみた。ホントはSide百花→宝良の順で読むべきらしいのだが、逆に読んだせいか、Side宝良の方はとても面白かったし、車いすプレーヤーの生活・練習の描写も興味深かったのだが、より評価が高かったSide百花の方は、ちょっといい話すぎて?
そうでもなかった。
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騎士団長殺し

2021年03月27日 | 本の感想
騎士団長殺し(村上春樹 新潮社)

肖像画家の「私」は妻に浮気されて離婚する。傷ついた私は車で放浪した後、友人の雨田の父(高名な日本画家:具彦)が暮らしていた山奥の家を借りて暮らすことにする。その家の屋根裏に具彦が残した未発表の絵が隠されていた。その絵はオペラの騎士団長殺しを日本古代風に?表現したものだった。「私」は近所にする免色から肖像画を依頼され・・・という話。

村上さんの長編というと、正体のわからない悪意に満ちた敵が出現して・・・というパターンが多いような気がするが、本作ではそういう存在は登場せず、愛する妻に裏切られてちょっとおかしくなった?「私」が立ち直っていこうとするプロセスが延々と(というと失礼だが、題材のわりに長すぎるのでなかろうか?)続いていく感じだった。
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寝ても覚めても

2021年03月27日 | 映画の感想
寝ても覚めても

「役作り」なんていってキャスティングされた役になりきるようなことをする役者さんがいるそうで、演技していない時も役の人格のまま、憑依されたようになりきることができる人が素晴らしい、なんて聞く。
真面目にそういうことをやる人ほど、恋愛映画だと相手を(現実世界でも)好きになってしまいそうな気がする。

著名な映画賞を獲得したというのに濱口監督って全く知らなかったので、ミーハーにも作品を探して観てみた。なので、ヒロインが、世間を騒がせた?(主人公である東出さんの)浮気相手だとは知らずに見ていた。

東出さんは二役で、ヒロイン(唐田えりか)が最初に惚れる野生的な麦と、麦が行方不明になった後で恋人になる亮平を演じる。つまり、同じ女の人に二回惚れられるという役回りで、かつ、気まぐれなヒロインに振り回されるという筋なので、真面目そうな?東出さんがそういう気になってしまうのも仕方ないかな??などと思ってしまった。

蛇足だが、普通のサラリーマンである亮平を演じている時の東出さんは、いつも通りセリフ回しが?なイマイチなムードの役者さんなんだが、麦の場面ではとても魅力的に見えた。浮気事件?を契機としてワイルドな方面にイメチェンしてみてはどうだろうか。
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THE INFORMER 三秒間の死角

2021年03月27日 | 映画の感想
THE INFORMER 三秒間の死角

主人公のコズローは、FBIと取引して刑期の繰り上げと引き換えに内通者となる。麻薬のコネクションを支配するポーランドマフィアに潜入し、一網打尽の手前まで迫るが、事情をしらないニューヨーク市警の横やりがはいってFBIの一斉捜査は中止されてしまう。マフィアのボスはコズローに刑務所内での麻薬の取り仕切りを依頼し、断り切れずにコズローはわざと刑務所に戻るが・・・という話。

ありがちな話で、かつ、複雑な筋の説明が不足気味だし、ラストは「そんなうまくいくわけないだろ」的な展開なのだが、「これからどうなるの?」感を醸し出す演出がうまくて最後まで一気に見通すことができた。
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