蛙と蝸牛

本の感想。ときどき競艇の話。

野の医者は笑う

2021年01月24日 | 本の感想
野の医者は笑う(東畑 開人 誠信書房)

沖縄で臨床心理士をしていた著者は、トヨタ財団からの援助を得て沖縄の民間療法(野の医者)の研究をはじめる。沖縄には多種多様なヒーラーたちがいた・・・という話。

著者を知ったのは、週刊文春の連載「心はつらいよ」。
ジャニーズの話題など、ちょっとふざけているのでは?というような内容が、自身のカウンセリング体験などに基づく心の話に変容していくのが面白い。
本作でも、とてもいいかげんそうな取材ぶりの描写が多い。しかし、最後にたどり着く結論は(トヨタ財団から選ばれるのにふさわしい?)研究の成果のようにも思えるのだった。

心の治療者は、自分自身がかつては心の病者であったことがあり、自身の治療経験に他者を巻き込んでいくことで、自分自身を治療者たらしめている、というのが研究の要約、ということになるのではないかと思うが、本書や「心はつらいよ」を読むと、このパターンは著者自身にも当てはまっているように思える。
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パロの暗黒

2021年01月24日 | 本の感想
パロの暗黒(五代 ゆう ハヤカワ文庫)

10年ちょっと前に栗本薫さんが亡くなられて、それまで130巻を読み続けていたグインサーガを読むことはなくなった。続編が出ていることは知っていたが、栗本さんでない人が書いたものを読む気はしなかった。
しかし、多分ゲームオブスローンズを(今頃やっと)見始めた影響で、グインサーガがなつかしく思えてきて、続編を読んでみることにした。

続編プロジェクトの第一弾である本書は、リンダに求婚するためクリスタル宮を訪れていたイシュトヴァーンがヤガへ向かうあたりから始まる。
読んでみて、懐かしいだけでなく、予想外に面白かった。リギアとマリウスの掛け合い、わがまま放題のイシュト、魔道士のくせに常人以上に俗っぽいヴァレリウス、強気なリンダ・・・10年を経ても誰がどんなキャラだったのか忘れることはなかったし、彼らが物語上で躍動するだけで(狂言回しが変わったとしても)ワクワクしてくるのだった。

そういった点を抜きにしたとしても、あるいは本書を単独の作品としてみても、本作は水準を超える出来栄えでとても楽しめた。
主人公たちが絶体絶命の危機に陥ると予定調和的に救世主が現れて救いだす、という王道のストーリー展開がよくて、栗本さんに比べるとテンポもとても速く(栗本さんなら本書の内容で少なくとも5巻は要したと思う。思えば、30巻くらいまでは香り高いヒロイックファンタジーだったグインサーガも、ある時期からはナリスをめぐる男たちの恋物語に化していたからなあ。へたすると登場人物たった一人の感情描写で1冊近く費やされたこともあったような・・・)て小気味よかった。
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ブルックリン・フォリーズ

2021年01月10日 | 本の感想
ブルックリン・フォリーズ(ポール・オースター 新潮文庫)

主人公ネイサンは長年勤めた保険会社を退職し、妻とは離婚して、ガンの進行を怖れている。老い先短い人生をブルックリンで過ごすことにしてアパートを借りる。ハリーという同性愛者が経営する近所の古本屋に、甥のトムが働いていることを知る。トムは学者になることができず、タクシーの運転手を経て書店員になったのだが・・・という話。

これといった事件が起こるわけではないのだけど、素早いストーリー展開で平凡な男の平凡な話がとても面白く読める。解説によるとポール・オースターの作品の中では、本書は「ユル」くて、喜劇的要素が強いものらしい。なので読みやすいのだろうか。
ジェットコースターのような書店主:ハリーの人生と、(主人公とトムが自動車旅行する途中で立ち寄る宿屋の主人で卓球とポーカーの達人で、一日中芝刈りをしている)スタンリーのキャラがよかった。
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ボニン浄土

2021年01月10日 | 本の感想
ボニン浄土(宇佐美まこと 小学館)

江戸末期、商船の船員:吉之助は嵐のために漂流して小笠原の島に流れ着く。
田中恒一郎はふとしたこと手に入れた祖父の遺品と思われる木工製品が小笠原原産の材料で作られていることを知り、由来を求めて島を訪れる。
中塚賢人はチェロ演奏の天分を持つが、交通事故に巻き込まれてチェロの音が聞こえなくなってしまう。リハビリのために風来坊の父に誘われて小笠原におもむく。
小笠原にまつわる三人の話が交互に語られる。

江戸期の小笠原には漂流した外国人が相応の数住んでいて、捕鯨船などの補給基地の役割を果たしており、そうした外国人の血筋の人は、戦中戦後の混乱を経ていまでも小川原にいるというのを初めて知った。吉之助の話もある程度史実に基づいているようだ。

小笠原は海産物はもちろん(昔は海亀が無数にいて食糧になっていたそうである)、果物も豊富で気候は温暖でたいそう住みやすく、時折訪れる捕鯨船から薬などを(ヤシ酒や海亀などと交換に)手に入れることもでき、江戸期においては地上の楽園みたいなところだったようだ。
そういう、吉之助の話の部分は(人魚姫みたいなマリアの悲劇もからんで)とてもよくて、この部分だけの方がよかったかなあ、とも思えた。最後の方の種明かしもないほうが良くて「やはりXXは呪い殺されたのだった」でよかったような・・・
ただし、賢人がクジラの歌を聞いたことで、再びチェロを演奏する意欲をとりもどすシーンはとてもよかった。
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悲嘆の門

2021年01月10日 | 本の感想
悲嘆の門(宮部みゆき 新潮文庫)

三島孝太郎は、ホームページやSNSの監視会社でバイトする大学生。近所のビルの屋上にあるガーゴイルのオブジェが動くという噂を確かめるために退職刑事の都築とともに閉鎖されているビルの屋上に潜入する。そこで異世界の戦士ガラと巡り合い、孝太郎は他人の思考が読み取れる能力を身に着ける。やがてバイト先の女性社長(孝太郎が惚れていた)が殺害され・・・という話。

「英雄の書」シリーズだとは知らずにミステリだと思って読み始めた。そのうちSFになって、そのうちミステリにもどるのかと思ったら、最後はちゃんと?ヒロイックファンタジーになっていた。

宮部さんの作品は、現代ミステリ、時代ミステリはどれも面白くよめるのだけど、どうもファンタジーものは肌が合わないなあ・・・そうかといって、もろSFだったデビュー作や「レベル7」とか「龍は眠る」、最近だと「さよならの儀式」なんかはまたとてもよかったのだけど・・・
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