蛙と蝸牛

本の感想。ときどき競艇の話。

アンモナイトの目覚め

2021年12月21日 | 映画の感想
アンモナイトの目覚め

1840年代、メアリー・アニング(ケイト・ウインスレット)は、イギリス南部の海沿いの田舎町で、観光客用の化石発掘と販売を細々と営んでいた。かつては恐竜の全身骨格化石を発掘するなどの画期的業績をあげていたが、女性であるがゆえに学界では評価されていなかった。
著名な学者のロデリックが訪れ、メアリーの手腕を称賛する。彼は妻のシャーロット(シアーシャ・ローナン)の気鬱を晴らすためにシャーロットをメアリーに預けるが・・・という話。

メアリーもシャーロットも実在の人物とのことだが、本作では大胆な?解釈を行って、二人はレズビアンだった、という設定になっている。
著名な役者二人がこれまた大胆なベッドシーンを演じるところにどうしても目が行ってしまうのだが、
学問的情熱とか社会的評価とか金銭的報酬とかのためというより、純粋に化石発掘やクリーニングが好きで生きがいとなっていて、それがゆえに母親や世間とうまく折り合えない偏屈者にしか見えないメアリーの姿を、ケイト・ウインスレットがとても上手に演じていたように見えた。(なぜだかわからないが、冒頭のメアリーと母親の貧相な食事風景が特に印象に残っている)
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チョンキンマンションのボスは知っている

2021年12月17日 | 本の感想
チョンキンマンションのボスは知っている(小川さやか 春秋社)

研究(アングラ経済)のために、著者は香港のタンザニア商人のたまり場であるチョンキンマンションに滞在する。マンションといっても木賃宿と食堂などが同居する建物なのだが、そこで長年暮らすタンザニア人のカマラは、商人たちのリーダー格だった。カマラと仲良くなった著者は商人たちの実態に迫ろうとする・・・という論文っぽい?ノンフィクション。

著者は若くして有名私大の教授なのだが、専攻はタンザニア人のアングラ貿易?という(素人から見ると)激狭な分野。禁句と思いつつも、「それって何の役にたつの?」と言いたくなってしまう。

香港のタンザニア人たちは、SNSでタンザニア現地の顧客と中古車やその部品の情報をやりとりして、買付が決まれば輸出の手続きなどをして手数料(場合によってはマージンも)を取る、という商いをしている。SNSを通して販売金融的な行為をすることもある。

彼らの商売の真髄?を著者は次のように要約する(以下、246Pから引用)
***
他者の事情に踏み込まず、メンバー相互の厳密なる互酬性や義務と責任を問わず、無数に増殖拡大するネットワーク間の人々がそれぞれの「ついで」にできることをする「開かれた互酬性」を基礎とすることで、気軽な助けあいを促進し、香港・中国、マカオ、タイ、ドゥバイ、アフリカ諸国にまたがる巨大なセーフティネットをつくりあげているのである。
***
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RAGE(怒り)

2021年12月15日 | 本の感想
RAGE(怒り)(ボブ・ウッドワード 日本経済新聞社)

トランプ大統領の就任時の人事決定過程から2020年選挙の直前までの経緯についてトランプへの17回のインタビュウを中心にまとめたもの。

前半はマティス元国防長官の話が中心で、彼がいかに有能で勤勉かをトランプとの対比で際立たせている。
特に自分の指揮下で戦死した兵士の家族を訪ね歩く場面がよかった。
北朝鮮のミサイル危機においては自宅のバスルームにまで連絡装置をつけて万一に備えたという。

部下に不利益な扱いをする(例えばクビにする)時に「これだけはやってはいけない」こと(例えば本人にクビを知らせる前にSNSで公表してしまう)をトランプは平気でしてしまう。それでクビになる本人および関係者は怒り狂うわけだが、トランプ自身もそうした反応があることは十分承知のうえでやっているのだからタチが悪い。

SNSでの発信をふくめて色々なパフォーマンスも、(中には感情にまかせてやっているものもあるのかもしれないが)ある程度は計算づくだったのかもしれない。
実際、新しい戦争を始めなかった大統領は珍しいそうだし、さんざん批判された貿易交渉も成果を残し、コロナがなければ経済は絶好調だった。そのコロナも”オペレーションワープスピード”でワクチンを開発させた。
たまたまうまくいっただけ、あるいは、周囲の人たちががんばっただけ、なのかもしれないが、結果論で言えば稀にみる業績を残した大統領といえなくもない。

この本を読んだのは半年くらい前なのだが、本書の続編とも言える「PERIL」(ウッドワード共著)の邦訳がもうすぐ出版されると今日の日経に載っていた。
その記事によると、同書は、今年1月に起きた米連邦議会選挙事件を描いていて、トランプサイドは、マジで選挙結果の転覆?を狙っていたらしい。うーんやっぱりトランプってヤバい人に過ぎないのだろうか??
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猫を棄てる

2021年12月14日 | 本の感想
猫を棄てる(村上春樹 文藝春秋)

著者の父:村上千秋の思い出を綴ったエッセイ。
父の記憶で鮮明なものが2つあるという。
一つは、著者が幼い頃に飼い猫を父といっしょに捨てに行った後、家に帰ってみるとその猫がすでに戻っていたこと。
もうひとつは、毎朝、朝食前に父が長時間仏壇に向かってお経を唱えていたこと。

父は京都の大きなお寺に生まれて六人兄弟の次男。寺は長男が継ぎ、父は2回招集されて、1回目は北支戦線で1年すごし、2回目は招集直後に除隊になった。その後京大に入学し国文学を修めた。頭がよく勉強も好きだったようだったようで、あまり勉強しない著者を見て歯がゆかったようだ。(以下引用)
***
そしてそのことは、父親を少なからず落胆させたようだった。自らの若い時代と比べて「こんな平和な時代に生まれて、何にも邪魔されず、好きな勉強ができるというのに、どうしてもっと熱心に勉学に励まないのか」と、僕の勤勉とは言いがたい生活態度を見て、おそらくは口惜しく思っていたことだろう。
***
著者が結婚して文筆業に専念する頃から、父とは不和となり、20年くらいも顔をあわせなかったそうだが、その経緯は語られていない。
昔の私小説作家ならそのあたりをこそ作品にしそうなものだが、父を語るエッセイにおいてもドロドロしそうなところは敢えて避けるところは、著者らしいスタイルにも思える。

そうした覗き見趣味?的な内容がなくても(いやないからこそ?)本作は味わい深い。短いので2回読み返してしまった。個人的には、長編より短編、短編よりエッセイの方が、いつ読んでも、いいなあ、と思えてしまう。
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ストーリー・オブ・マイ・ライフ(わたしの若草物語)

2021年12月14日 | 映画の感想
ストーリー・オブ・マイ・ライフ(わたしの若草物語)

1860年頃、マサチューセッツ州に住むメグ(エマ・ワトソン)、ジョー(シアーシャ・ローナン)、ベス、エイミーの四姉妹は、父が南北戦争に従軍牧師として出征している中、母を助けて暮している。近所の幼なじみのローリー(ティモシー・シャラメ)はジョーにプロポーズするが、すげなく断れる・・・という話

姦しい、という言葉の語源は、女性が3人集まると賑やかで騒がしい、という説を聞いたような気がするが、四姉妹が実家でワイワイやっている場面がうまく表現されていて幸福感が漂っていた。

ジョーがLITTLE WOMENの草稿を出版社に持ち込む時期(実家で四姉妹が揃って姦しかった頃の7年後)との間を、いったりきたりする上に、2つの時期で登場人物の見かけがほとんど変わらないし、2つの時期を行き交う境目も明示されないので、現場面がどちらの時系列がとてもわかりにくい。
しかし、四姉妹の母やローリーなどの外見も変わらないので、もしかすると、時系列を意識的に混然とさせるような演出をしているのかもしれない。
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