蛙と蝸牛

本の感想。ときどき競艇の話。

リーダーシップの旅

2007年03月31日 | 本の感想
リーダーシップの旅(野田智義 金井壽宏 光文社新書)

日経新聞の夕刊の書評欄でベタボメだったので、読んで見ました。

著者がいいたいことは、
「リーダーシップとは、私たち一人一人が自分自身と対峙し、「見えないもの」を見ようとして一歩を踏み出し、旅を歩む中で人からの共感を得て、結果としてリーダーになる現象だ。」(181ページ)

上記の主題が何度も繰り返されるのですが、具体的な方法論はなく、全体的なムードとしては新興宗教の教本のサイドリーダーみたいな感じです。
また、なぜ我々が苦難を伴うリーダーシップの旅に出なければならないか、については何もかかれていません。まるでそれは「リーダーシップ教」では自明の事実であるかのように。

著者は別に怪しげな人ではなくて、リーダーシップを学問的、実践的に研究している人のようですが、目にみえない、手につかむこともできないモノをつきつめると、外見は宗教っぽくなるのはいたしかたないことなのでしょうか。
日本のカリスマ的企業創業オーナーが、晩年妙に宗教がかった言動が目立つようになるのと通底するものがあるような気もします。
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マネーロンダリング入門

2007年03月29日 | 本の感想
マネーロンダリング入門(橘玲 幻冬舎新書)

タイトルが「マネーロンダリング入門」で著者が橘玲さんなので、合法的あるいは法律スレスレのノウハウが書いてある本かと思ったのですが、大半は実際に発生したマネロン絡みのいくつかの犯罪の概略を紹介した本です。

私が橘さんの著書が好きなのは、そのクールで多少アイロニカルな語り口にあるのですが、この本では、先に述べたように、過去の事件の紹介が多く、そのせいか平板で説明的な文章になりがちで、ちょっと興ざめでした。

読んでよかったと思えたことは、北朝鮮への金融制裁がどのように行われたのかがわかったことでした。なぜ、マカオにある小さな銀行の口座をアメリカが効果的に凍結できたのかがよく理解できました(銀行の外為業務の知識がある人なら誰でも知っていることだとは思いますが・・・)。

ところで、日本では政府、法人、個人問わず相当の米ドル預金(もしくはドル建て資産)を持っています。それらのドル預金等を凍結することは(北朝鮮への金融制裁と同じ方法で)アメリカ政府にはとても容易なことです。
本当はその事実の方が、物騒な近隣国の存在よりやっかいなことであるとも言えるような気がします。
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明日の記憶

2007年03月27日 | 映画の感想
広告会社のヤリ手営業部長は、激しいモノ忘れにみまわれるようになって診療を受ける。診断は若年性アルツハイマー。自暴自棄になりそうになるところを、妻の献身的な努力により一時的には救われるが・・・という話。

主人公役が渡辺謙さんで妻役が樋口可南子さんという配役なので、病気との闘いを通して、夫婦の対立とか家族の不和みたいなのを激しく描き、そこから救済が昇華される、というストーリーだと勝手に想像していたのだが、一場面を除いて二人が対立することはなく、恵まれた高級サラリーマンの優雅な闘病記みたいな感じの映画になっていた。

ただし、主役二人のみならずその他の登場人物役の俳優も演技がとても良く、私にとってはやや期待はずれの筋書きを補って余りある満足感が得られた。
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コンクールでお会いしましょう

2007年03月25日 | 本の感想
コンクールでお会いしましょう(中村紘子 中公文庫)

「チャイコフスキー・コンクール」を読んで、中村さんのエッセイの素晴らしさを知り、以後、出版されたほとんどのエッセイを読んでいたのですが、本書はまだ読んでいませんでした。文庫で発売されたので、呼んでみることにしました。

短い文章で音楽界のエピソードや音楽コンクールのエピソードを紹介する語りのうまさはあいかわらずで、特にフランツ・リストを描いた部分のまとまりの良さには感心しました。数ページの短い文章で、リストのスーパースターぶりがとても上手に描写されています。文章については夫君の助言もあるのだろうか?と思うほどです。

美貌とピアニストとしての天凛と文才と・・・天は三物も与えたもうたのでしょうか。
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経済論戦は甦る

2007年03月23日 | 本の感想
経済論戦は甦る(竹森俊平 日経ビジネス人文庫)

この本のハードカバー版が出版されたのは2002年で、日本経済の不透明感がいぜん強かった頃。
対処法として正しいのは、構造改革+財政再建(小泉政権が標榜)なのか、財政拡大+リフレ政策なのかを、検討しています。
かつて同じ論争は、大恐慌時にもあった(創造的破壊派のシュムペーターVSリフレ派のフィッシャー)とのことで、リフレ政策をとるべき、という結論はすでにその時に出ている、と著者はいいます。

この本で創造的破壊派の最右翼として挙げられているのは、野口悠紀雄さんです(「野口教授のエッセイ」でも書いたように、私は野口さんのエッセイの大ファンなのですが、一方「日本経済改造論」(の感想)に書いたように、経済に関する意見に対しては賛同できないと思っています)。
野口さんは小泉政権の政策を支持しているわけではなく、構造改革はかけ声倒れで、実効性が全くなく、このままでは日本経済はやがて衰退の一途をたどるであろう、と主張されています。その論理展開が明確で首尾一貫していることは、(リフレ側である)竹森さんも感心するほどです。

現実の世界では、構造改革派が勝ったように思えます。しかし、著者は文庫版のあとがきで、現在の景気回復は外需に恵まれたものであり、日銀の多額の円売り介入は事実上のリフレ政策であった、と、負け惜しみ気味に主張しています。

余談ですが、文庫版の128ページあたりで、あるエコノミストを辛辣に名指しで批判している箇所があります(批判というより、無知であることをあざ笑うような調子。論旨とは全く関係なく、悪口をいうためだけに書いたとしか思えない)。
このエコノミストは今でもよく新聞などでコメントをしている人。学者しか読まないような論文ならともかく、広く一般書店で販売されているような本で「ここまでいうか~?」というほどの手厳しさです。
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