蛙と蝸牛

本の感想。ときどき競艇の話。

愛にイナズマ

2023年12月28日 | 映画の感想
愛にイナズマ

折村花子(松岡茉優)は映画監督志望で、最初の商業作品の製作にとりかかっていた。しかし、プロデューサー(MEGUMI)と助監督(三浦貴大)に裏切られ、すべてフイになってしまう。
失意の中、バーで知り合った正夫(窪田正孝)と実家に帰り、父(佐藤浩市)や兄弟たち(池松壮亮、若葉竜也)をネタに映画を作ろうと思いつく・・・という話。

冒頭の、飛び降り自殺しそうな人を花子が手持ちカメラで撮影するシーンがよくて、その後の展開も石井監督の作品の中で私が最も好きな「川の底からこんにちは」に似た感じになって期待が高まった。
しかし、正夫と知り合うあたりから、妙な雰囲気になってきて、実家に帰ってからの展開は、ちょっと・・・という残念な感じになってしまった。
松岡茉優、窪田正孝、佐藤浩市、池松壮亮と豪華で芸達者なキャスティングなのになぜ。。。(個人の感想です)

ということで、主筋は正直イマイチだったけど、脇役がよかった。
父の親友役の益岡徹さん、ずいぶん久しぶりに見たような気がした。良い意味で昔と変わらない演技ぶりでなつかしさがあった。
携帯ショップの店員役の趣里さんもヘンテコなキャラがとても似合っていた。
何と言ってもよかったのはセクハラ助監督の三浦さんで、「あーいるよね、こういう人」と何度も首肯してしまいそうだった。
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ラウリ・クースクを探して

2023年12月26日 | 本の感想
ラウリ・クースクを探して(宮内悠介 朝日新聞出版)

ラウリはエストニアのタリン近郊の村で1977年に生まれる。プログラミングに興味をもち、低機能の8ビットPC KyBT(日本メーカがMSXをベースに開発したものでソ連時代の学校に配備された)で、幼なじみのイヴァンを競い合うようにゲームを開発する。やがてソ連は崩壊し、ラウリはエストニアの紡績工場で働くが・・・という話。

埋もれてしまった天才プログラマを評伝風に描く話なのかな、と思って読んでいると、終盤にドンデン返し的なタネあかしが2つあって、「やられた」と思わせてくれる。

しかし、そういう仕掛けはケレンな味付けであって、本作のテーマは電子立国エストニアをラウリとイヴァンの人生を通して描くことにあると思う。

国家や国民のデータが国外の安全なサーバ(本作ではこれを「データ大使館」と表現している)に保全されていれば、例え領地が失われても国家は滅ぶことはない、という考え方が面白かった。確かに他国に全領土を占拠され、全国民が世界中に散り散りになったとしても、データが保全されていれば、全国民が非居住者であると考えれるなら、国家運営は、非現実的とはいえないかもしれない。
というか、今、隣の大国の侵略を受けている国も(エストニアのすぐそばで、かつ)IT先進国なので、似たようなことを構想しているかもしれない。
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胡蝶の夢

2023年12月22日 | 本の感想
胡蝶の夢(司馬遼太郎 新潮文庫)

将軍の御典医の養子になった松本良順は、漢方医学に見切りをつけて長崎の医学校でオランダ人のポンべに学び、蘭方医となる。その後、近藤勇らと知り合い、戊辰戦争に軍医として従軍する。
佐渡ヶ島出身で良順の弟子となった島倉伊之助は、語学の天才で、オランダ語の他、英語、ドイツ語なども流暢に操ることができたが、対人関係を築くことが極端に苦手で、能力を活かしきれない。
やはり長崎でポンベに学んだ関寛斎は、徳島藩の藩医となり、藩主蜂須賀斉裕の信頼を得るが、斉裕は亡くなってしまう。その後、薩長側の軍医となるが、晩年は北海道開拓に取り組む。
三人を中心に、江戸政権下の身分制、幕末の医学や語学の状況や政治情勢を描く。

「種痘伝来」を読んで、ずいぶん昔に読んだことがある本書を再読したくなった。めまぐるしいストーリー展開や派手なキャラ設定がないので、若い頃はさほど面白く感じられなかった。
しかし、時を経て今読むと、この地味な物語やこまごまとしたエピソードがしみじみとしみてくるのが感じられた。
天才なのにチグハグなふるまいしかできない伊之助、
学問的衝動にとりつかれて江戸での安定した地位を捨て、長崎でオランダ人に学ぼうとするほどの学究肌なのに芸者遊びが大好きな良順、
聖人のような生涯をおくり、当時としてはとても長生きしたのに、自殺してしまう寛斎。

中盤くらいまでは端役程度だった寛斎が、最後の方で大きく取り上げられている。描いているうちに作者もその人格に見せられていったのではないか、と思わせた。
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ゴヤの名画と優しい泥棒

2023年12月20日 | 本の感想
ゴヤの名画と優しい泥棒

1961年、年金暮らしのケンプトン・バントン(ジム・ブロードベント)は、妻ドロシー、次男ジャッキーと暮らしていた。貧しい年寄の楽しみであるBBCの受信料を無料化すべき、という活動をしているが、本人が未払に問われて短期間収監されてしまう。
ゴヤ作品のウエリントン公爵の肖像画を国が14万ポンドで買い取ったことを知ったケンプトンは・・・という話。

ナショナル・ギャラリーに展示されていたゴヤ作品を盗み出す手口は、ルパン並の鮮やかさ。
というか美術館の警備が甘すぎ。他の展示物も実はけっこう盗難されているのでは?と思えるくらい。
そういえば、素人目で見ると、昼間のナショナル・ギャラリーとかテートは見物客にかなり寛容だったような・・・日本の美術館に比べて見張りの人がとても少ない。

これが、フィクションだったら、「もう少し、凝った手口にしろよ」と言いたくなるところだが、実話なのでどうしようもない。

さらに、大団円の裁判シーンの結末は、いかにもイギリス的?ウイットに富んでいて、さらに実話とは思えないのだった。もちろん、演出でよりステキに見せてはいるのだろうけど。
長さもほどよく短くて、見終わった後、人生はいいものだ、と愉快にさせてくれる。
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カード・カウンター

2023年12月19日 | 映画の感想
カード・カウンター

ウイリアム・テル(オスカー・アイザック)は、かつてアブグレイブ収容所で尋問の担当者だった。苛烈な体験で精神的な傷を負ったウイリアムは、カードカウントの技術を持っていて、カジノで目をつけられない程度に小さく勝つことで生計を立てていた。
カジノで知りあったカーク(タイ・シェリダン)はウイリアムの上司であったゴードを父の仇として狙っていることがわかり・・・という話。

監督・脚本のポール・シュナイダーは、「タクシー・ドライバー」の脚本を書いた人だそうで、自省的な主人公の葛藤を暗いムードで描く点はよく似ているなあ、と思ってみていた。さらにラストシーンで急転直下(悪くいうと、とってつけたように)ハッピーエンディングになる(だよね?)所も同じだった。

タイトルからして、カードゲームでの丁々発止の戦いを描く内容かと期待してみたので、そういうストーリー展開がなかったのは残念。ただ、カジノでのカードゲームのシーンはスタイリッシュで香り高いものがあった。
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