Neurology 興味を持った「脳神経内科」論文

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ギランバレー症候群とフィッシャー症候群の分かれ道

2005年11月10日 | 末梢神経疾患
カンピロバクター(C. jejuni)感染を契機としてギランバレー症候群(GBS)やフィッシャー症候群(FS)を発症することは有名であるが,なぜ同じC. jejuni感染であっても,ある人はGBSになり,別の人はFSになるか,またある人は腸炎で済むのか,その機序は分かっていない.今回,この謎を解く非常に興味深い研究が本邦より報告された.
まずおさらいであるが,C. jejuni感染後のGBSの機序としては,交叉抗原説とか,分子相同性というキーワードが提唱されている.具体的にはC. jejuni菌体成分であるリポ多糖がGM1ガングリオシド様構造を有することが明らかになり,そのエピトープ(リポ多糖)に対し自己抗体が産生され,自己抗体が血液神経関門の脆弱な脊髄前根で軸索膜上のエピトープに結合し,伝導障害もしくは軸索損傷を来たすと考えられている(すなわち菌体と神経構成成分との間に分子相同性があるという説).となるとC. jejuniが持つエピトープの種類によって産生される抗体が変わってくる可能性が考えられるわけである.
ガングリオシドはシアル酸を有する酸性糖脂質であるが,それを決定する酵素がsyalyltransferaseである.C. jejuniでは,Cst-IIとかIIIという遺伝子がこの酵素をコードしていて,Cst-IIには51番目のアミノ酸をAsnないしThrのいずれかにコードする遺伝子多型が存在する.となればこの遺伝子の種類や多型によって産生される抗体や臨床症状に違いが生じないか調べてみたくなる.
対象は105名のGBS(FSなどvariantを含む)と65 名のC. jejuni腸炎患者(神経症状なし).結果としては,GBSを引き起こした菌株は,腸炎のみ起こした菌株よりCst-II遺伝子を有する率が高く(85% vs 51%),とくにcst-II (Thr51)を持つ傾向が見られた.cst-II (Asn51)を持つ菌株のエピトープを調べたところ,GQ1bを高率に発現しており(83%),他方cst-II (Thr51)をもつ菌株はGM1ないしGD1aを高率に発現していた(それぞれ,92%,91%).さらにこの菌株のエピトープは患者の自己抗体の種類と関連があって,cst-II (Asn51)株に感染した場合,抗GQ1b IgG 陽性率は56%(この遺伝子を持たない場合8%; p <0.001),眼筋麻痺は前者で64%,後者で13%(p < 0.001) ,失調も前者で42%,後者で11%であった(p = 0.001).cst-II (Thr51)株に感染した患者では抗GM1抗体が高率に陽性で(88%;この遺伝子を持たない場合35%; p < 0.001),抗GD1a IgGも前者で52%,後者で24%(p = 0.006),四肢麻痺は前者で98%,後者で71%(p < 0.001)という結果になった. ただし,データを良く見るとこの遺伝子の多型のみで,自己抗体の産生の種類や臨床症状がすべて決定されるというわけではないようで,他の遺伝子の関与や宿主側の要因も関与している可能性も残される.しかし本研究は先行感染後の自己免疫を介した免疫疾患において,分子相同性仮説をきちんと示した最初の疾患ということになり,その意義はきわめて大きいものと言えよう.

Neurology 65; 1376-1381, 2005

追伸;週末から学会にいってきますので,しばらく更新はお休みします.
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