Neurology 興味を持った「脳神経内科」論文

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レカネマブは標準治療と比較し費用対効果が優れているとは言えず,価格が年間5100ドル未満とならなければ費用対効果は低い

2024年04月17日 | 認知症
アルツハイマー病(AD)の疾患修飾薬であるレカネマブは高額であるもののその効果が強力とまでは言えないことから,その費用対効果について関心が高まっていました.Neurology誌の最新号に,米国・カナダの研究チームから,レカネマブの費用対効果が,治療前の検査法,各患者のApoE遺伝子ε4の状態(副作用ARIAの出現のしやすさが分かる)によってどのように変わるかを検討した研究がいよいよ報告されました.
検査法は3つ(PET,脳脊髄液アッセイ,血漿アッセイ),治療法は2つ(ドネペジル・メマンチンによる標準治療,または標準治療+レカネマブ),ApoE遺伝子で患者の標的を絞るか(=標的戦略)は2つ(ε4ノンキャリアまたはヘテロ接合体患者を標的とするか否か)で,これらの組み合わせによって定義される7つのパターンを比較しています.有効性は質調整生存年(QALYs:クオーリーズ)を用いて評価し,費用対効果の分析は増分費用効果比(incremental cost-effectiveness ratio: ICER)を算出しています.設定したコホートのモデルは,平均年齢71歳,31%がApoEε4非保因者,53%がヘテロ接合,16%がホモ接合で,61%がMCI,39%が軽度認知症としています.分かった結果は以下のとおりです.

◆7つのパターンのうち,ドネペジル・メマンチンによる標準治療が費用対効果は最適であった!
◆レカネマブ治療は標準治療と比較して費用対効果が不良で,この結果は検査法やApoE遺伝子型による治療対象の選択に関わらず認められた.
◆ただしApoE遺伝子で患者選択をすると,選択をしない場合よりも6,870~8,780ドル安価となり,かつ0.03~0.05QALYsの追加がもたらされた.
◆脳脊髄液アッセイが,PETや血漿アッセイよりも費用対効果の高い検査であった.血漿アッセイは最も安価であったが,感度が低いため費用対効果は低くなった.
レカネマブの薬剤費が年間5,100米国ドル(78.1万円)未満であれば,脳脊髄液アッセイで検査し,ApoE遺伝子型により治療対象を選択すれば標準治療より費用対効果が高くなった(注:米国での価格は年間26,500ドル).ApoE遺伝子検査を行わない場合は年間2,700ドル(41.6万円)未満であれば標準治療より費用対効果が高くなった.
◆これらの結果は,検査法の精度,レカネマブの中止および有害事象の発生率に対しても堅固であった.
◆研究の限界はレカネマブ治療18ヶ月以降のデータがないことである(18ヶ月以降効果の差が拡大すれば費用対効果が大きくなる一方,有害事象が18ヶ月を超えて持続すると小さくなる).



以上より,レカネマブ治療は標準治療と比較し,費用対効果が優れているとは言えず,価格が年間78万円未満(遺伝子診断をしていない日本の場合41.6万円未満)とならなければ費用対効果は低いという結果となりました.ショッキングなデータですので,それぞれの立場でいろいろな意見があるのではないかと思います.十分な議論がなされることが望まれます.
Nguyen HV, et al. Cost-Effectiveness of Lecanemab for Individuals With Early-Stage Alzheimer Disease. Neurology. 2024 Apr 9;102(7):e209218.(doi.org/10.1212/WNL.0000000000209218)

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