Wein, Weib und Gesang

ワイン、女 そして歌、此れを愛しまない輩は、一生涯馬鹿者であり続ける。マルティン・ルター(1483-1546)

アトリエのビッグシスター

2007-07-26 | 
バイロイトのヴァーグナー音楽祭の初日の中継を聞いている。大抵は興味がない。しかし、今年は現監督の作曲家の孫ヴォルフガング・ヴァーグナーの後継者とされる下の娘カタリーナが演出デビューとのことで大々的に広報活動をしているからである。

気にかけないでもどうしても耳に入る。バイエルン放送を聞いていなかったのでその前番組は知らないが、開演間近の15時55分に始まり、予定通り進むのには驚いた。確かに、特に初日は少しでも遅れると入れなくなる。

さらに初耳だったのは、五チャンネル放送で中継していることで、そのように録音されていることをはじめて知る。管轄のバイエルン放送のラジオ音源はお馴染みである。そろそろ、制作物は不可能でも、常時廻っている固定カメラの映像ぐらいネットで流しても良いのではないだろうか。

とは言っても、全体の上演の質は、そのラジオから聞こえる雰囲気である程度は判るもので、今回もその前奏曲からどうしようもないなと思わせるのである。稽古における新聞報道等も、29歳のブロンド娘のヴァルキューレを中心にどうも仲良しムードのチームを思わせるもので、鉄のカーテンを敷いたと言う三幕の演出を待つまでも無さそうである。

子供騙しのふにゃふにゃギャグで、屋台骨がぐらぐらする史上最低水準の上演になりそうだと予想されるのである。

兄のヴィーラントの死を受けて、音楽監督となって永く君臨した弟ヴォルフガンクであるが、今回の娘のデビューが上手く行けば、音楽祭閉幕後に引退を表明してこの娘を後継者に指名するとの噂がある。腹違いの長女のエファも兄の娘ニィケも後継者レースに参加するゆえに、父親と疎遠な長女などは既に「父の死を待ってはいないけど、立候補する」と語っている。

追記1:ネットラジオで幕間に楽屋話を聞くと、ヒーローのヴァルターの新感性と旧い古典的規定を、自らの演出やデビューに措ける新旧世代の葛藤に掛けていることが伺い知れた。それなら尚更、子供っぽい散々な結果となりそうである。

追記2:どうも全ては美術学校の美学生物語となっているようだ。二幕は学校中庭のカフェテリアとアトリエ。

追記3:二幕後にカタリーナ自身の、場末の酒場での様な、濁声のインタヴューが流れる。エファとザックスの関係。「死のマイスター」、「生のマイスター」、「変異したマイスター」。肉体的に大きなマイスター。68年の団塊の世代の転向だろうか。

追記4:サルトルを読むザックス。ポストモダーン化するザックス。過激にモダーンを貫くベックメッサー。全くつまらない。

追記5:終演後、流石にブーイングは膨れ上がったが、それよりも拍手に全く精彩が無い。ブラボーも流石に殆どない。カタリーナに選ばれ招聘されたモーツァルト歌いのハンス・ザックスを責めようとは誰も思わない。

追記6:この記事のタイトルを変更。「ブロンドのヴァルキューレ」改めビックブラザーならぬ「アトリエのビッグシスター」。


LIVE: Bayern4

VIDEO: REUTERS

VIDEO: Probe - Katharinan Wagner (Bayern4)



参照:
メジャー音楽祭の黄昏 (クラシックおっかけ日記)
「聖なる朝の夢」の採点簿 [ 文化一般 ] / 2005-06-26
臨場のデジタルステレオ [ 音 ] / 2006-12-02
エルザの夢の無い決断 [ 文化一般 ] / 2006-11-20
追懐の怒りのブーレーズ [ 音 ] / 2006-11-08
福音師の鬼征伐 [ 文学・思想 ] / 2006-10-14
豊かな闇に羽ばたく想像 [ 文化一般 ] / 2006-08-20
ヴァルハラを取巻く現世 [ 文化一般 ] / 2006-08-17
経済成長神話の要塞 [ 文化一般 ] / 2005-10-13
少し振り返って見ると [ 雑感 ] / 2005-10-08
今年の花火は去年より [ 生活 ] / 2005-09-14
バイロイトの打ち水の涼しさ [ マスメディア批評 ] / 2005-07-24
小市民の鈍い感受性 [ 文化一般 ] / 2005-07-10
伝統という古着と素材の肌触り [ 文化一般 ] / 2004-12-03

コメント (4)    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 飼料は遺伝子操作済み | トップ | 襲い掛かる教養の欠落 »
最新の画像もっと見る

4 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
ワタクシも、聴いています。 (YOKO)
2007-07-26 03:09:48
先程から、聴きだしましたので、前奏曲は、残念ながら、逃しました。少しだけ、聴いた感じでは、何か、元気がない感じ。。。拍手は、盛大でしたが、ブ-は
ハッキリと、聞き取れました。まあ、明日の批評が
どうなるか。。。ドイツ語が、ダメなので、よろしくお願いいたします。3幕後の拍手を、聞く元気は、ありません。

大事な公演なので、父親が、つきっきりと、思っていたので、意外でした。彼女の母は、父親の秘書だったとしか、知りませんが、母親の、氏素性を、お知りでしたら、ご教示くださいませ。また、先妻の方は、どんな方だったのか、ご存知でしたら、よろしくお願いいたします。
彼女の母親、お写真では、とても、暖かいお人柄を感じ、ワタクシ、好きなタイプのご婦人ですが、なぜか
ブリューゲルの絵を、連想してしまうんです。
返信する
失敗しても良い?! (pfaelzerwein)
2007-07-26 04:18:32
お聞きですか。ブーイングはなかったですね。お友達を集めたのか知らん。良く考えれば、演出デビューすることが大切なので、失敗しても良いのですよ。

狙い目は、出来るだけ同世代の普通の視線を活かして、本人やその世代を楽劇の中に映し込んで、共感を得る事のようです。更に主要な客層の68年世代までも。

音楽もザックスの選考に拘ったように、出来る限り女性的で現代的な軽妙さを活かしたいのでしょう。これは、批判されてもちっとも痛く無い訳です。

1976年に後妻さんになった母親のグデュルン・マックは、1944年生まれで旧姓はアルマンとなっております。それまでは、音楽祭のプレス秘書のようです。
返信する
やっぱり。。。 (YOKO)
2007-07-26 20:13:32
ご教示、有難うございました!
ビデオを、付けていただきましたので、大体、演出の感じが、つかめました。

失敗してもいいというのは、ホント、目からうろこです。でも、彼女は、まだ、29才ですものね、というと、もう、次は、彼女と、磐石の態勢が、整っているのでしょうか。。。

今日は、タンホイザー、序曲、聴けそうです。タイトルロールに興味ありまして。。。ワタクシ、どうしても、ルイージ、頑張っても、よくないと、逃げた!(笑)と、思っておりますので。。。もちろん、病気は、本当と思っておりますが。。。野心的な指揮者が
好機を、みすみす逃すなんて、考えられません。以前
ラトルが、ウイーンのパルジファル、オオカゼひいても、振ったように。。。なんか、ルイージと、バイロイト側には、主役について、ボタンのかけ違いが、あったんじゃあないかと。。。ルイージは、最初、ザイフェルトを、絶対、念頭においてたと、思います。
ティーレマン自身も、タンホイザー役に、苦労しましたよね。今でも、よく覚えているんですが、日本の雑誌に、現当主が、ザイフェルトに電話で、要請したが、彼は、断ったという、小さい記事がありました。もちろん、ティーレマンが、上演前のことですが。。その頃、ザイフェルトは、声に、不安を、覚えて、自重した判断だったと、私は、理解しています。ローエングリンでは、確か、最後の年だけだったと思います。すべて、歌ったのは。。。

素晴らしい、タンホイザーだったら、グールドに続いて、ニューヒーローの誕生です。(笑)
日本は、今、猛暑、ご自愛してくださいませ。
返信する
必ずしも特別な演出家である必要は無いが (pfaelzerwein)
2007-07-27 05:54:46
ヴィデオみると大体判りましたね。

バイエルン州の発言力が強いですから、あれだけの文化財団を統率するにしては、カタリーナでは知性的秀逸さが欠けるとされてます。必ずしも特別な演出家である必要は無いのですがね。そう言えばヴィーラントとヴォルフガンクの演出家としての差も大きかった。

姉のエファがその点からも若さからも最も期待されているようです。しかし、カタリーナを強く押すヴォルフガング自体がお年ですからね。

ルイージはMDFの時から周りの評判は良かったのですが、私はあまり知りません。

日本は暑いでしょうから、大変でしょうが、お元気にお過ごしください。
返信する

コメントを投稿