Wein, Weib und Gesang

ワイン、女 そして歌、此れを愛しまない輩は、一生涯馬鹿者であり続ける。マルティン・ルター(1483-1546)

無知蒙昧の大鉈の前に

2012-02-23 | マスメディア批評
SWRのバーデン・バーデン、フライブルクの交響楽団は日本ツアーを成功裏に執り行っているという。その一方、シュツッツガルトの放送交響楽団とともに縮小合併の計画がコンサルタント会社からアドヴァイスされたようで計画に上っている。

もともと二つの放送局であった南ドイツ放送SDRと南西ドイツ放送SWFの二つが合併して南西ドイツ放送SWRとなったときから、各々の放送交響楽団の二つの組織の扱いが問題になっていたことは当然であり、只二つを一つにして仕事の度にヴュルテンブルクのシュツッツガルトへとバーデンのフライブルクへを移動させる経費が大きいので別個に考えられていたに過ぎない。

当然ながら二つの放送交響楽団の個性は全く異なり、歴史も違うので吸収合併などと簡単に考えるような野蛮なことはなされなかった。シュツッツガルトの方は大都市であり経済力もあるが、フライブルクやバーデン・バーデンはそもそも経済基盤が弱いことから様々な方策が練られていたのであった。

特にフライブルクでは立派な近代的なコンサートホールが完成して、そこを本拠とする上の楽団がバーデン・バーデンから本拠地を半分移したことで、将来を見据えることになったのである。

しかし、そもそもドイツの放送交響楽団の存在理由が、戦前から存続するフランクフルトのそれなどを含めて、戦前のクラシックの放送録音の録り直しとナチによって無視された楽曲の紹介、そして最新の現代音楽の演奏が三大柱となっているのである。

その点から、ハンス・ロスバウト、エルネスト・ブール、ミヒャエル・ギーレン、シルヴァン・カムブレランらに率いられて、毎年秋にはシュヴァルツヴァルトの山の上のドナウの源流であるドナウエッシンゲンでの音楽祭にて初演を繰り広げてきたその交響楽団は、上の二つの任務を誰よりも遂行してきたのである。

そもそも上の一つ目の任務は、もはやありとあらゆるクラシックの録音が殆ど無料のような価格で流されている、今日では歴史を終えている。ゆえに寧ろカール・ベームやチェルビダッケ、ショルティ、ジュリーニなどの錚々たる名指揮者が名演奏を残したシュツッツガルトの交響楽団の方が存続意味は小さい。

しかし、同時に交響音楽文化を考えるとこうした統合縮小の動きは、専門性の高い手術にも似ていて決して素人が牛刀で大鉈を振るってはいけないのである。そもそも第三点の現代交響音楽の初演などがどれだけ文化的な意味があるかなども専門的に考察していかなければいけない。

一方こうした公共事業の経費削減の大前提は ― ドイツの公共放送はPCからも徴収される視聴料で運営されていて公共社会性が高い ―、商業的に採算が合うものは自由市場の淘汰に任せ、決して商業的に成立しないものだけに集中して公共資金をつぎ込むことでしかないのである。

現在挙がっている案は、二つを百人以上のフルオーケストラを一つに合弁するのと、二つの八十人規模の二つの中規模のオーケストラに削減する案である。前者では移動経費が嵩み、後者ではマーラーやシュトラウス、メシアンなどはエキストラ無しには演奏できないことになる。

シュトッツガルトの交響楽団も様々な名指揮者で名演を聞いてきたが、弦楽部門を残して小編成にしてもあまり実力には影響しないであろう。そもそも大編成で圧倒的な実力を示す放送交響楽団はドイツには存在しない。

バーデン・バーデン、フライブルクの方もコンサートマイスターをやめた者などにも話を聞いたことがあるが、なるほど独自の伝統を築いてきたがその核さえ存在すればよいのであり、また管楽器などは特殊編成になると優秀なエキストラを招集する方がよい場合も数々あって、そもそも新しいフォーマットで固定メンバーを揃えることなどは無駄なのである。

両方では大きく意味が異なるが、弦楽陣を核とした基本フォーメーションに準メンバーを中心としたエキストラグループを形成することで、その芸術的な格を落とすことなくより自由度に富んだ交響管弦楽団を運営することは不可能ではないだろう。

大阪では二つ目の管弦楽団がジリ貧になっているようだが、文化もなにも分らない無知蒙昧な政治家に大鉈を振り回させる前に、文化的な人種が活発な議論で自己啓蒙と共に革新していかなければいけないのである。聴衆の知識人が楽師さんのユニオンと一緒になって運動しても一向に文化的とはならないのである。



参照:
Rettet eure Rundfunksinfoniker! , Gerhard Rohde, FAZ vom 21.02.2012
袋が香を薫ずる前に 2005-07-14 | 文化一般
近代終焉交響楽 2005-06-17 | 文化一般
綾織の言葉の響き 2005-04-12 | 音
伝統文化と将来展望 2004-11-13 | 文化一般 2005-07-14 | 文化一般
煙に捲かれる地方行政 2006-12-12 | 生活
塀の中に零れる泡銭文化 2008-11-23 | マスメディア批評
四角い大きな子供っぽい男 2009-09-17 | 文化一般
小恥ずかしい音楽劇仕分け法 2010-06-06 | 音
様々な集客法の研究 2011-12-16 | 文化一般
文化的な企業家の歴史 2012-01-03 | 文化一般
頭の悪い人達が集まる業界 2010-02-11 | マスメディア批評
社会性の高い放送文化とは 2009-12-10 | マスメディア批評

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2 コメント

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バーデン地域のですね。 (Saar Weine)
2012-02-24 18:13:54
pfaelzerwein様、こんばんは。やはり震災の復興支援を兼ねての事なのでしょうか。


そういえば(シュヴァルツヴァルトのほうですが)エスリンゲンというところでドイツを代表するジャズのMPSというレーベルのスタジオがあって様々な名演が生まれたのを思い出しました。
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危ないところは避けていると (pfaelzerwein)
2012-02-24 21:38:45
MPSは正月に話したダウナーやクリーゲル、マンゲルスドルフなどが主要アーティストです。場所もシュツッツガルトでドナウエッシンゲンにも関わっているようです。嘗てはBASFが扱っていたり、スタジオの舞台裏は友人知人を通してよく知っています。ですから最も有名なピアニストであるダウナーを知らなかったのは逆に意外でした

交響楽団は全国を回ったようですが、出来る限り危ないところは避けていると思いますよ。こちらで健康や国民保護の問題になりますからね。
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