日々・from an architect

歩き、撮り、読み、創り、聴き、飲み、食い、語り合い、考えたことを書き留めてみます。

美しい東京女子大学の存在

2006-12-07 15:00:04 | 建築・風景

武蔵野の森に映える東京女子大は、日本で一番美しいキャンパスかもしれない。
私は何度かその素晴らしいキャンパスを見学させてもらった。校門を入った正面に、背の高い樹木の中に旧図書館(現在の本館)の姿が表れるといつも心が震える。右手のチャペルに敬意を表して前に踏み出すと、芝生に彩られたキャンパスの全貌が現れる。更にその奥には、樹木の中に佇むライシャワー館や外国人教師館などと共に、チェコキュービズムのデザインを漂わせる東寮の整然と並んだ窓が現れ、建築の品格とはこういう建築のことを言うのだと身の引き締まる思いがする。

東京女子大はアジアや日本のクリスチャンの教派を越えた人々の日本に女子大を設置すべきだという検討結果をうけて、アメリカの超教派による組織(協力委員会といわれた)の寄付によって創設された。東、西寮からこのキャンバス計画が実施されたのは、全寮制を目指した建学の精神によるもので、この寮を見ると当時の人々のこの大学への想いが浮かび上がる。

又私が好きなのは旧体育館だ。社交ダンス部や、フォークダンスの稽古をやっている有様が垣間見え、何か華やかでこれが女子大なのだと若き日に憧れた女子大生の姿が眼前に顕われるのだ。この体育館は周辺の校舎との調和を取るために高さを押さえ、床面を地面にもぐらせて階段で降りるようになっている。その階段が見学席の役割を果していることを見ると、なんとなく微笑ましくなる。当時のよき女子大を表現している証でもあり他に類のない空間だ。其れが今に生きている。

そのキャンパスを構成する上で欠かせない東寮と旧体育館を壊すのだという。

数年前になるが、建築家の私はレーモンドの建築を見たいという想いでここを訪れた。このキャンパスは帝国ホテルの設計のために来日したフランク・ロイド・ライトや、ライトに同行したA・レーモンドの生まれたチェコの建築様式の影響を漂わせていて、建築家レーモンドの初期の貴重な作品として知られている。日本の建築の歴史を考えるとき、いや世界の建築界にとっても欠かせない作品として評価されているが、何度か訪れるたびに次第にレーモンドと言う名前の為ではなく、キャンパスを構成するその建築自体の魅力の虜になった。

現在の社会構造の中でどの大学でも将来のあり方に腐心している。でもこの東京女子大にはこの9棟の建築が残っているのがうれしい。登録文化財にした7棟だけでなく、壊すと言う2棟と共に奥深い魅力を秘めた東京女子大を生かしていくことが出来るからだ。其れが東女(トンジョと親しみと敬意を表して言いたい)のかけがえのない財産になる。

学校ではその2棟は老朽化が酷く安全上に問題があるという。東寮につながっていた西寮は残念ながら既にないが、同じ時期に建てられた他の7棟と安全の上で何処が違うのだろう。
学校では様々な問題があると表明しているが耐震診断をしたのだろうか。いや耐震診断をするまでもなくこの時期のレーモンドが設計し、日本の建築界の叡智を傾けて創った2階建ての建築の安全に不安があるとは言い難い。それではチャペルや講堂や本館はどうだと言うのだろか。勿論お金を掛けてメンテナンスはしなくてはいけない。どの建築に取ってもそれは当たり前のことだ。
又時代、つまり社会の様相の変化にも対応しなくてはいけないだろう。まずこれらの建築を残してどのような計画が出来るかというところからスタートすべきなのだ。

私はいつも不思議だと思うのだが、学生時代のたったの4年間が人生のあり方を決めてしまう。多感な青春の一時、そこで培った教師や友人との出会い、そしてそれを育んだ空間、つまり建築の存在を抜きにしての人生はないのだ。普段は考えもしないことだが。
女子大、それにクリスチャンコードの掛かった経営陣を占める男性は残念ながら卒業生ではない。しかし自身の学生時代を振りかえってみれば思い当たることがあるのではないだろうか。先達、OGのこのキャンパスに対する想いを受け止めたいものだ。

六本木にある国際文化会館では、一旦改築すると表明した嘗ての三菱銀行頭取を勤めた理事長が、その建築に思いを馳せる人々の気持ちを汲んで残して改修する道を選んだ。そして理事会決議を変更したその決断は各界に高く評価されている。東女でも経営陣の英断に期待したい。卒業生でもない私だが、建築家として、いや一人の社会人としてこの魅力的なキャンパス風景を壊したくないのだ。
守衛さんの学生や訪問者に対するにこやかな対応にも心が和み、とても良い大学だと想ってきた私たちの気持ちも受け取って欲しい。いつまでも良い大学であって欲しいのだ。

 

<この一文は、「東京女子大学レーモンド建築 東寮・体育館を活かす会」(通称:東女レーモンドの会)のHP記載のために寄稿したものですが、大勢の人にお伝えしたいと思い、このブログにも掲載します。12月4日日本外国特派員協会のホールで、この問題ついてのシンポジウムを行いました。私は司会(コーディネーター)役を担いましたが、その様子は機会を見て報告します>



最新の画像もっと見る

2 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
司会ご苦労様でした (xwing)
2006-12-11 21:13:20
いつまでも大切に使用される方向に動くことを願います。
本日写真を頂きました。本当に有難うございます。卒業設計の方は今回は製本するつもりです。完成しましたらお送りさせていただきます。卒業設計集として原稿を全員が書き下ろしいたします。どうか楽しみにしていてください。
返信する
楽しみにしています (penkou)
2006-12-13 14:01:20
MOROさん
シンポジウムは有意義でしたし好評だったのですが私たちの気持ちがなかなか先方に伝わりません。
卒業設計も具体化しているのでしょうね。学生さんの試行錯誤しながらしかし形になるのを楽しみにトライしている姿が目に浮かんできます。冊子を楽しみにしています。
返信する

コメントを投稿