サード(1978年)

2013-12-31 00:00:44 | 映画・演劇・Video
映画『サード』。日本映画の名作の一つ。不覚にも観ていなかった。原作は軒上泊「九月の町」。寺山修司脚本。監督は東陽一。主演は永島敏行。助演女優は森下愛子。二人ともほぼデビュー作に近い。監督も含め、冒険的組み合わせが、大成功を収める。
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そして、舞台は、少年院。なんとも映画にふさわしくない設定であるが、そこに送られてきた高校生が永島敏行。売春によって稼いだ金ですすけた街から脱出しようとした女子高生(森下愛子)の胴元だったが、ある時に客の筋者を叩き殺してしまう。何しろ野球部でサード(三塁手)を守るスラッガー。体力は余っていた。

その少年院に突如面会に現れた彼の母親を見てびっくりする。ある意味今年の顔の一人だった人。

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島倉千代子。

息子の罪は軽いはずだ、と言い続け、出院後の就職先を探すそうだ。

そして、きびしい少年院生活の描写の中に、彼が同級生の売春の手引を始めたくだりや、殺人に至るプロセスが描かれる。つまり、ヒーローとヒロインといっても、観客からみた時間軸では二人が絡み合うのは過去の時間であって、時制上の現在は少年院の中だ。

そして、彼は夢の中でも、現実の中でもグラウンドをもくもくと走り続け始めるわけだ。それは、「ホームベースのないランナーが、何周も走り続ける」ようである。

映画の終幕に近い部分で、彼は、森下愛子が結婚してしまったことを知る。院での友達だった文学青年は、寺山修司をもじった短歌を残し、脱走後、自殺。永島は、これからの人生を前向きに、しかしホームベースなき道を一人で走り続けることを決意する。

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荒っぽいけど、骨太過ぎる作品だった。

主演の永島敏行は、その後、各方面で活躍。ホームベースを何回も踏んでいるような感じだ。劇中で、早々と人妻になった不良少女森下愛子は、実際には吉田拓郎と結婚し、一時体調を崩し、スクリーンから離れていたが、復活し、クドカンのご愛用女優となる。拓郎の方はご存知のとおりホームベースを踏み忘れて周回中。

脚本の寺山修司は数年後に早世。

しかし、よく考えると、最も「ホームベースなきグラウンドを一人で走り続けてきた」のは、主演の母である島倉千代子だったのは間違いないところだ。人生は、まさにいろいろだ。


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