「紙の里」工房室内 Photo Y.Kuwahara
このところ小さな旅が続く。中秋のある日、とある縁で越前市(武生)に出かける。折しも「こしの都1500年大祭」と銘打った大きなイヴェントが開催されていた。今から1500年ほど前、男大迹皇子(後の継体天皇)が、この地におられたとのこと。継体大王潜竜(しばらく帝位に上らず、避けている人の意)の地と称されている。
さらに、この地は百済の頃から朝鮮半島との交流も大変盛んであったようだ。かの国から移され、受け継がれたさまざまな文化遺産が蓄積されている。残念ながら、その事実はこれまであまり地域の外では知られていない。というのも、こうした継承遺産の多くは、山里深く埋もれてきたからだ。
そのひとつを訪れる。JR武生の駅から車で30分くらい、2005 年の市町村合併で越前市になった今立町に、越前和紙の製法を今に伝える「和紙の里」と名付けられた一角がある。ここには、1500年くらい前のころ、村人に紙漉きの技術を教えた女神、川上御前を紙祖神として祀る全国唯一の神社岡太神社、大瀧神社がある。神社自体が深く美しい山里の中に抱かれている。
この大瀧神社で伝統文化交流祭と題して、漆黒の闇があたりを支配する中で、ひとつのイヴェントがあった。都会と違い、この地までくると、夜は闇なのだという実感がする。
説明によると、大瀧神社は推古天皇の頃にはじまり、養老3年(719)越の大徳として知られた泰澄大師が大滝寺を建立し、国常立尊と伊弉諾尊の2座を祭神とし、十一面観音をその本地仏とする神仏習合の歴史を持っている。現在の社殿は天保14年に建てられたものだが、昭和59年(1984)重要文化財に指定されていいる。
この社殿を舞台として、主として日韓の舞踊、聖楽、雅楽、越前万歳、韓国芸能などが演じられた。素晴らしかったのは、その背景である美しい木々と社殿をいわばスクリーンとして「デジタル掛け軸」なる絶妙な現代の映像技術(デジタル・アート)*が披露されたことであった。幸い晴天に恵まれ、観客はこの幻想的で、しかもきわめて未来的でもある演出に魅了され尽くした。この素晴らしさは、実際に体験していただく以外にはないだろう。
さらに感動を付け加えてくれたのは、この里の人々の心の温かさであった。昼間の交流でも、地域に生きている人たちの連帯や人間らしさに触れた。イヴェントの観客や運営に当たる人々は、ほとんどが地域の人たちであった。それぞれの役割を通して、自分が日々暮らす場所を愛する熱い思いが伝わってくる。
夜も更けて、街灯も少なく、足下が見えないほどの山道の参道には、地元の小学生などがひとつひとつ絵を描いて作り、蝋燭を灯した灯篭が置かれていた。それでも都会の光で弱くなった目にはほとんど闇の中を、おぼつかない足で行事のために迂回路に設置されたバス停まで戻ろうとしたところ、道を教えてくれた町の職員の人が、わざわざ数百メートルを先導して、尋ねた場所まで案内してくれ、最終バスの時間まで調べてくれた。そして、この人はまた急ぎ足で先ほどの神社へと闇の彼方へ戻っていった。
* D-K DEGITAL-KAKEJIKU (長谷川 章氏作品)