時空を超えて Beyond Time and Space

人生の断片から Fragmentary Notes in My Life 
   桑原靖夫のブログ

富と幸せの間(1)

2005年12月26日 | グローバル化の断面

「貧しさ」について

  およそクリスマス・シーズンには、似合わない話題かもしれない。しかし、これは世界的に著名な経済誌 The Economist のクリスマス特集テーマ*である。実は、この雑誌は昨年の年末にもこのテーマを別の観点から取り上げている**

  ブログにもふさわしくない長く、重い内容をもった話である。 しかし、とりあげてみたいきっかけがあった。これもクリスマス・カードに関わる話題である***


アメリカとアフリカで
  今年の特集テーマでは、次のような二人が比較されている。短く述べると、バンクスさんはアメリカ、ケンタッキー州の東、アパラチアン山中に住んでいる。彼はかつては近くの鉱山会社で運転手として働いていた。しかし、25年ほど前に心臓病で会社を辞め、60歳代になった今は、貧困で身体障害のある高齢者に与えられる特別な社会保障給付を月521ドルもらって生活している。住んでいるのは古いトレラーの中である。アメリカ人が「貧乏な白人」と聞くと思い浮かべるのは、バンクスさんのような人である。なにしろアメリカの男子の中位(median)収入は月3400ドルくらいといわれるからだ。それでも、ぼろ車でも自動車がないと暮らせない社会である。自動車保険の料率は、大変生活に響く。

  他方、カバンバさんは、アフリカ、コンゴの首都キンシャシャで大きな公立病院の救急部長をしている外科医である。これまで28年間、医師として過ごしてきたが、今の給料は月250ドルにしかすぎない。しかし、時間外に私的に患者を診察するなどで、なんとか600~700ドルくらいを稼ぎ出している。カバンバさんの収入に頼って同じ屋根の下で生きる家族は12人である。実はこの他に、彼の別居した妻と3人の息子が、公的扶助を申請して生きている。別居した方が公的扶助をもらえる可能性が高いと思うからであり、実際、彼女は隣のトレーラーに住んでいる。

  これでも、カバンバさんはコンゴでは恵まれた地位にあると考えられている。カマンバ医師の600ドルの収入は、多くの人が食料を自給自足で暮らし、銀行の通帳などみたことがない人がほとんどの社会ではあこがれの水準である。といっても、カマンバ医師は、家にはなくとも、病院に水道があるのが仕事にとって大きな助けになると思っている。

富と幸せの間
  バンクスさんとカマンバさんとどちらが幸せなのだろうか。わざわざ特集テーマにしておきながら、そこに答はない。当然なのかもしれない。「富める国の貧しい人」と「貧しい国の幸せな人」の違いはどこにあるのか。そう簡単には答は出ない。日本は富んでいるかもしれないが、幸せなのだろうか。


References
'The mountain man and the surgeon', The Economist December 24 th 2005-January 6th 2006.
**  'Making poverty history', The Economist December 18th 2004.

***
貧困撲滅に働く人たち
  カナダ、オンタリオに住む友人からのクリスマス・カードに、三人の子供全部がどういう巡り合わせか(それもアメリカのあり方に批判的なのに)、二人はアフリカで貧困解消、HIV/AIDS撲滅のため、一人はインドネシアの津波被害の復興のために、アメリカとカナダ政府の国際機関の下で働いているという手紙がつけられていた。 アフリカで働く長女は、かつて日本で英語を教えていたこともあった。その後、ベトナムで活動しているのは知っていたが、アフリカに行っているとは、その行動力に脱帽した(ちなみに、このブログ写真の花々は、この子供たちの父親が仕事の傍ら身につけたノウハウで、丹誠込めて咲かせたものである)。

コメント (2)
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