萬屋錦之介主演によるテレビ時代劇『子連れ狼』。昭和48年に第一部が放送され、昭和49年に第二部、昭和51年に第三部が製作され、その壮大な物語は、テレビ時代劇としては破格のものがありました。
幕府のCIAともいうべき「裏柳生」と、元公儀介錯人・拝一刀、大五郎親子との壮絶な死闘。まさに時代劇の歴史に残る名作だと断言しておきましょう。
裏柳生総帥・柳生烈堂(第一部高橋幸治、第二部西村晃、第三部佐藤慶)との対決も見どころですが、子連れ狼第三部には、テレビ時代劇市場最大の悪役が登場します。
その名は阿部頼母。通称を阿部怪異(かいい)といいます。
将軍の日々の食事の毒見をする御役、「将軍家御口唇(おくち)役」を代々務める旗本、阿部家の当主です。
その母親は頼母を出産する前から発狂しており、座敷牢の閉じ込められておりましたが、ある日牢を脱走し、連れ戻されたときに何者か分からぬ者の子を身ごもっていました。
頼母の父阿部監物(高品格)は世間体を思い、頼母を実子として育てますがそこに愛情はなく、頼母は幼少時より虐待を受け続けます。
その父からあらゆる毒の調合法を教え込まれた頼母は、その技を生かして両親を毒殺、阿部家の家督を継いだのです。
この阿部頼母を演じた方こそ、名脇役中の名脇役、金田龍之介さんでした。
原作に近づけるため、出っ歯の入れ歯をはめ、その恰幅の良い身体を生かしつつ、坊主頭に三白眼と、まさに「怪異」ぶりを熱演されており、金田さんの役者生涯で、最大の当たり役だったといっていいでしょう。
毒を調合するときに、なんか変な歌を歌うんですよね。♪こおろりこうろ~毒とろろ~♪とかなんとか(笑)、これが妙に可笑しかった。
侍としての誇りもなにもなく、ただ己の欲望のままに生きる。このエネルギッシュでどこか憎めない、ある種の哀れさすら感じされる、史上最高の悪役でした。
金田さんを見るたびに、阿部怪異を思い出したものです。あれほどの名悪役は、今後も出てくることはないんじゃないかな。
平成21年、満80歳で逝去。時代劇史上最大の悪役を演じられた、その役者人生に惜しみない拍手を送ります。
楽しませていただきました。ありがとうございました。
時代劇史上最大の悪役、阿部頼母。通称阿部怪異。
忘れないよ。