入笠牧場その日その時

入笠牧場の花.星.動物

     ’22年「春」(56)

2022年05月16日 | キャンプ場および宿泊施設の案内など
 午前5時、気温4度、曇天。鹿たちの姿をすっかり目にしなくなったと思っていたら今朝、外を歩く人の気配に驚いて小屋の裏側の落葉松林から20頭ほどの群れが逃げていった。出産期に入る前にできるだけ多くの鹿を捕獲したかったのだが、大型の囲い罠は未だその役を果たしてくれてない。
 今年の冬はいつになく雪が多くて、鹿も大分その被害に遭ったらしく無残な姿をあちこちで目にしたが、頭数の大幅な減少はあまり期待できないだろう。


                                   Photo by Ume氏

 また山の暮らしに戻った。久しぶりに里に帰れば、約束してあったことや、やらなければならないことが色々とありながら、それらのことをどれも諦めてまたここに帰ってきた。
 
 もう牛がくるまでに1ヶ月を切り、今年は第2牧区へも牛を出すつもりでいるから、その区画を変更、整備しなければならず気が急く。初の沢まで落ちていく牧柵を途中で中断し、放牧に適さない渓や湿地へ牛が行かないようにこれまでの牧区を狭めようとしている。これは結構手のかかる仕事になる。牧柵はいつもながら放置せずに使い回す予定で、支柱は抜いて新たな場所に運び、それらを1本づつ打ち込み、有刺鉄線は回収しそれを再利用することになる。
 今年は乳牛よりも和牛が多いと聞いている。そうなると、乳牛は塩場などではいつも気性の強い和牛に負け、遠慮しなければならないから、場合によっては放牧地を別々にすることも考えている。これにも手がかかる。


 
 ヤマナシの花が咲き出した。写真のこの木が一番早いと思っていたら昨日、北門と貴婦人の丘の間の西斜面でも何本かのヤマナシと思しき白い花を目にした。コナシはまだ赤い蕾がそれほど目立たないからもう少し先、開花は今月末頃からになるだろうか。年によって、その咲き方には違いがあるが、そう言いつつもすでに期待している。
 山桜はひっそりと花の季節を終えた。代わってその葉が赤い色を濃くし、白い樹幹と新緑が目を惹く白樺の林の中で孤高を守っている。花の時季、葉が赤く染まる今、そして秋の紅葉と年に3度も人の目を楽しませてくれる。それも控え目に、この木が「一番エライ!」と褒めてやりたいほどだ。

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     ’22年「春」(55)

2022年05月16日 | キャンプ場および宿泊施設の案内など


 里へ帰ってみると、もっと進んでいると思った開田の田植えはそれほどでもなかった。それよりも、冬の間に続けていた夜の散歩道がそこに見えていて、過ぎた時間を思い出させてくれ懐かしかった。
 醒めかけた酔いの中を冬の星座を眺め、それらが日毎に天球を少しづつ移動していくのを確認し、留まることのない時間、季節を意識した。今になってみれば、あれも自分の人生の一部だったのだと、終わった旅を思い返すように冬ごもりの5か月を思った。

 予想通り、陋屋の庭は雑草がほしいままになっていて、モミジの古木が茂り、いつも家の前で待っていたHALの代わりに、ミヤコワスレの花がその役を買ってくれた。オオウチワはすっかり成長し、先月庭木屋に容赦なく切られてしまった黒竹の憤懣を示しているかのように、幾本もの細いタケノコが所かまわず草叢の中に生えていた。
 驚いたことに、あれほど気にしていたカタクリは跡形もなく、折よくウドを持って訪ねてくれた友人のMに話すと、あの花はそういう性質なのだと教えてくれた。深く首を折るような謙虚な姿で紫色の可憐な花を咲かせ、やがてその時季が終われば葉も一緒に何もなかったかのように姿を消してしまう。そして翌年の春を、次の世代に譲るのだという。彼はこの野草のそんな潔さが好きのようだった。
 この友人MとTDS君と三人で、カタクリ峠と勝手に名付けた西山へ行った時にはまだ林道には雪が残っていた。あれから約1ヶ月が過ぎ、今ごろは誰にも知られずに花も葉もあの山野で短い命を終え、その姿も消してしまっているのだろうか。偶然に見付け、それからこの花と、この峠の雰囲気と、清流が流れる谷へ下る山道の風景が気に入って、毎春訪れるようになって何年にもなる。
 秘かに幾株かを持ち帰り、その生育を楽しみにしてきたものの地質が合わなかったのか、片葉が生え出すだけで精一杯のようだった。ようやく昨春、今春と一株だけ花を咲かせたが、その後間もなく山の暮らしが始まり、この野草のその後のことは知らないでいた。Mに、そんな花の一生を教えて貰えて良かったし、そのお蔭でこの花への愛着がさらに強まった。

 里へ帰ったのはFMZ君宅で開かれた「五兵衛餅の会」に参加するためだったが、盛況でいい会だった。

 かんとさん、有難う。「沢」でも「澤」でも構いません。2番目は既読ですが、対象にされていることを教えて貰えず、内容も大いに不満です。1番目は初めて読みました。

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     ’22年「春」(54)

2022年05月13日 | キャンプ場および宿泊施設の案内など


 カーテンの隙間から薄日が射しこんでいる。午前7時、いつもよりか遅くまで眠った。気温は13度、窓を開けっ放しにしていても寒くない。今朝も遠くの林から小鳥の声がよく聞こえてきて、いつもの静かないい朝だ。
 権兵衛山の山頂も見えている。入笠山と権兵衛山の鞍部になる「仏平(ほとけだいら)」を抜けてくる気流によって権兵衛山の山腹に霧が生まれ、時にはアラスカの森も覆いつくす。今朝はそこまでのことはない。しかも時々雲の間から鋭い朝日がこの部屋の中にまで入ってくるくらいだから、大雨の予報は出ていても、午前中は保つだろう。
 一夜の雨で靄のような緑の衣が落葉松の樹幹を少しづつ隠し始め、白樺はどの木も黄緑の葉をさらに磨き、その中に山桜だけが薄桃色の衣を替えずに見えている。

 きょうは里に下る。小屋の登り段は昨日の中に修理できたし、雨の来る前にもう少し第2牧区の草刈りをしたら、何日ぶりになるのだろう、放ったらかしのままになっているわが陋屋へ帰るつもりだ。
 ただ、それも切ない話ながら、ここに落ち着いてしまえば、誰もいない家は親しみの薄れた無機的な家になり、雑草に紛れた幾種類かの山野草の様子を見る、その程度のことぐらいしかひと冬、5か月を過ごしたはずの家に用はない。待ち続けてくれた人に冷淡な対応しかできないような、そんな思いがあの家に対してもして、不人情さを責められている気がしないでもない。



 今、この牧場で最も早く咲くヤマナシの花の様子を見にいってきた。多くの蕾がここまで膨らんで、よく見るとすでに咲き始めた花もある。数日で満開になり、それから10日ぐらいか、いやもっとか、コナシの花が白い幾つもの縞状の帯となって放牧地を飾るはずだ。
 昨夜、9日入牧は早過ぎないかと畜産課長が心配して電話してきた。調べたらもっと早い入牧の日もあったし、大丈夫。ホルスでも和牛でもたくさん上げてこい、だ。

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     ’22年「春」(53)

2022年05月12日 | キャンプ場および宿泊施設の案内など


 牧場に平穏が還ってきた。午前7時の気温はすでに14度と、昨日の朝と比べ過ごしやすく、鳥の鳴く声もよく聞こえてくる。まだせっかちながらもウグイスの声も、多数のそれらに混ざっているようだ。薄曇りの天気ながら太陽の位置は分かるし、少なくも午前中はこんな天気が続くだろう。本当に静かないい朝だ。山の暮らしの中ではこういう時間こそが何にも代えがたく、有難い。
 もう朝早く起きる必要などないのだが今朝も5時半には起きてしまい、目覚ましついでに落葉松の木を1本伐り倒した。小屋へ上がる道を撮影隊の大勢の人が上り下りしたせいで、木で作った段々が壊れてしまい、その修理に使うためだ。
 皮を剝いた後、段々作りの作業をすれば半日は過ぎてしまうかも知れないが、それで少しも構わない。来月になればここへやって来る牛たち、気の向くまま、急ぐふうも見せず、ただ黙々と草を食むだけだが、きょうはそういう彼女たちを真似ることによう。

 と、そんなことを言いながらも、試しに先程伐ったばかりの落葉松の木の皮を剝いてみた。すると芽吹きが盛んになりつつあり、それに合わせるようにどんどんと水揚げが進んでいるらしく、前回と違って実に具合よく皮が剥ける。そして、その下からは赤ん坊の肌さながらの滑らかで無垢な木の芯が現れた。予想外のあまりに素直と言える表皮と芯の分離は落葉松の木には気の毒なくらいで、苦もなく済んで呆気ないほどだった。
 この皮剝きは懐かしい。テイ沢の丸太橋を架けるため、協力してくれたみんなが賑やかに面白がって皮むきの速さ、技術をを競いあったものだ。あれから何年が過ぎたのか、架け替えの時期を迎えたが、彼ら彼女らの多くはきっともう、そんなことを忘れてしまっているだろう。
 
 そこまでは良かった。ところが一昨日、昨日と行った抜根の際、難しい根はチェーンソーを使い地表すれすれを強引に伐根(これも「ばっこん」)したため、すっかり切れ味が鈍くなっていた。仕方なくその研磨を始めたところで電話が入った。
 漏水が止まらなかった露天風呂の状況を見に来てくれるというのだ。もちろんそっちの方が大事だからときょうの予定した作業は中止とし、取り敢えず友人でもある彼の到着を待つ間だけチェーソーの手入れを続けることにした。

 丹念に養生しておいた露天風呂にはまだ一部に湿気が残っていた。しっかりと乾燥させた段階で、水漏れの作業をやってもらうことにした。まだ1週間くらい先の話になりそうだ。

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     ’22年「春」(52)

2022年05月11日 | キャンプ場および宿泊施設の案内など


 幾つかの予定を忘れたり、混乱しないようノートに記しておく。そしてまだ先のことだと思っていれば、忽ちのうちにその日が来てしまう。この調子で日が経っていけば、入牧の日どころかあの日もすぐ来てしまうだろうと、少し焦りを感じている。
 昨日も、撮影が行われている間に、第2牧区の急な斜面で以前に伐り倒しておいた落葉松を整備したり、牛の足を傷めないよう根株を抜根したり切ったりの作業を繰り返し、昨日の歩数は1万歩に及んだ。ついでに言えば、今週の平均歩行距離は5,7キロだとか。
 確かにTKJ君が言ったように頭がおかしくなければこの年齢で、あんな場所を上ったり下りたりしないかも知れない。それでも、しばらくの間牛を出さなかったこの牧区はかなりの放牧面積があり、ここを使うことができれば、入牧頭数が仮に20や30増えても安心していられる。
 この作業はしばらく続くが、落葉松というのは針のような細い繊維が混ざっていて、それが作業中にズボンに付着して、こうしていてもチクチクとして不快だ。替えズボンは只今洗濯機の中。

 昨日、この独り言を読んで予約して来てくれたらしい人が、思いもしない状況に驚き、結局、こちらも勧めて他の場所に行ってもらった。申し訳ないことをした。来る途中までは、牧場の期待以上の風景に喜んそうだが、それも束の間、静穏のはずのキャンプ場には撮影関係の人や車が行き交い、すっかりキャンプをする意気が阻喪してしまったらしい。
 撮影は、牧場の存続には貢献してくれている。それは間違いのないことだ。しかし、ここは本来は牧場の一隅にある静かな山小屋であり、キャンプ場であって、それを気に入ってくれて長年来てくれる人もいる。この人たちのことを忘れるわけにはいかない。
 今年はcovid-19の諸々の制限が解除されつつあり、控えていた撮影計画が幾つか実行されるという事情もある。そこら辺の調整も慎重にする必要があり、難しい問題だと思う。そんなことを考えていたら、昨夜はおかしな夢まで見た。年甲斐もないと嘲われるだけだから、黙っていよう。
 
 もうひとついい話題を呟いておくと、テイ沢の丸太橋に使う木材の入手が確実になった。それも従来の落葉松ではなくヒノキだという。ヒノキなら落葉松よりも強靭で、しかも幾分だとしても軽い。複雑な地形の渓の中、搬入作業にも助かる。後は協力者だが、まあ、駄目なら駄目で何とかする。
 とにかく、牛が来るまでは、牧場優先でいく。早咲きのヤマナシの花がそろそろ咲き出しそうだ。

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