入笠牧場その日その時

入笠牧場の花.星.動物

     ’22年「春」(61)

2022年05月24日 | キャンプ場および宿泊施設の案内など

Photo by Ume氏

 昨夜降った雨のせいだろう、緑の鮮やかさが際立つ。中でも落葉松の葉の新鮮な緑の色、風に光る白樺の若葉が目を惹き、よく見ればクヌギ、ナラ、カエデなども、それらの色を表わす適切な言葉を持たないが、それぞれが独特の緑の色を主張しているのが分かる。ダケカンバとミズナラはやっと新芽を見せ始めたばかりで、これは今年に限ったことではなく例年のことだが、遅い。

 朝起きて、きょう一日の予定を考えながら茶を飲む。ここでの習慣になっているが、今朝はそれもせずに7時に山を下り、まだ始業時間前の東部支所で用事を済ませ、とんぼ返りをしてきた。
 そんなに急いだわけは、何としてもきょうで第2牧区に新しく設置する牧柵の目途を付けたかったからで、ここ2,3日はそのことが一番気になっていた。昨日で撮影が終わり、ようやくきょうより本来の牧場の管理人に戻れる。

 軽トラを使って、放牧地の端ギリギリまで行く。それから5本の支柱を持って渓まで下る。再度同じことを繰り返し、さらにもう一度途中まで戻り、湿地帯に突き刺しておいただけの支柱を、ランマーを使って次から次と一定の深さまで打ち込んでいく。湿地帯が意外と手強く、7本かそこら打ち込んだだけで早くも前途が思いやられてきた。
 
 渓の流れを眺めながらしばし茫然として、きょうは最低限あそこまではと決めていた目標の位置を少しづつ下げたくなってきた。そして、もう口癖になってしまった「あんな所へ牛が行くか」を繰り返す。
 結局、気を取り直し、2往復して支柱を運び上げさらに仮打ちの距離を伸ばして渓に降りてきたら、もう何もする気がなくなってしまった。
 こういう仕事は先を急がず、流れの音に混じる鳥の声に耳を傾け、緑陰の心地よさを味わい、悲観と楽観を楽しむくらいでいいのだと、無理して自分に言い聞かせてみるのだがあまり効果はない。(5月23日記)



 この第2牧区は地形が複雑で、牧柵は林や渓の中に設置されていたため管理も難しく、長いこと使っていなかった。そこを、かねてより放牧できるように区画変更しようと考えていたのだが、只今苦戦中。

 キャンプ場を含む「入笠牧場の宿泊施設のご案内」は下線部をクリックしてご覧ください。
 本日はこの辺で。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

     ’22年「春」(60)

2022年05月21日 | キャンプ場および宿泊施設の案内など

   Photo by Ume氏

 3本の古い鉄の支柱を右の肩に担ぎ、左手にもう2本を持ち、急な斜面を下りていく。初の沢の源流には湿地帯が待っていて、そこに次々と支柱を打ち込む。渓を渡ると、落葉松やダケカンバの林はさらにもっと急峻な登りとなり、滑る。この斜面には30本ほどの支柱を打ち込む予定だが、いくら抑えても同じ疑問が頭をもたげる。
 沢は美しい。流れの音も気持ちを和らげてくれる。しかしこんな所にまでも牛の群れが来るのだろうかと自問する。時には声にまで出す。昨年と同じくらいの入牧頭数なら第1と第4の牧区で対応できるのではないかとの思いを抱きながら、それでもこれまで幾日か続けてきた作業をきょうもした。
 誰が見ているわけでもない。誰かに指示されているわけでもない。もしそうなら、絶対にこんなことはしない、そういう類の仕事だ。何故そんなことをするかといえば、あくまでも牛たちのためであり、結果、自己満足を得て精神衛生の良薬となる。この薬は、自律神経失調気味の者に最大の報酬だと言えるだろう。
 夕暮れ、小屋に戻って酒を飲みながらきょうの歩行数を見る。それが仕事に対する自己評価の全てではないが、参考にはしている。「斜面を平地のように歩くオジイ」を自称している手前、あまり活動していないと思っていても意外な数字が出れば単純に喜ぶ。そしてその歩数に導かれて一日を振り返り、去っていった時間をゆっくりとアルコールに溶かすのだ。(5月21日記)

 今朝は霧が深い。好天の予兆であればいいがと眺めている。6時にUme氏に起こされた。9時前後には囲い罠の中にいる4頭の鹿を殺処分するために鉄砲撃ちが来る。そして10時ごろから100人近い撮影関係者が多数の車に分乗して上がってきて、また長い一日となる。




 
 昨日、露天風呂に水を張った。気になっていたボイラーはちゃんと作動したし、漏水の心配もこれで完全になくなった。撮影関係者がいようといまいと構わないが慌てることはない、入浴は夜まで待とう。(5月22日記)

 キャンプ場を含む「入笠牧場の宿泊施設のご案内」は下線部をクリックしてご覧ください。
 本日はこの辺で。
 
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

     ’22年「春」(59)

2022年05月20日 | キャンプ場および宿泊施設の案内など

   Photo by Ume氏

 午前5時半、気温5度、曇天。別に決めてはいないが、ここでの毎日は大体この時間に目が覚めて始まる。この間の5日間続いた撮影のせいだろう。まだそれがもう1日残っている。
 
 夜は酒が入るし、それで疲れも出るから、夢遊病者とあまり変わらないような気分で時の過ぎるに任せ、寝たい時に寝てしまう。それも大体自分の意志というよりか身体の命令に従って布団を引き、そうすれば、あまり時間をかけずに眠りに入り、一日は終わる。
 もちろん、食事の支度や、入浴などもすれば、洗濯もして、夢遊病者なりに山の暮らしに遺漏のないよう努力はしているつもりだ。

 やはりこの時季は、朝がいい。春宵一刻値千金などと言っても、牧の夕暮れはもう少し季節が進んでからの方が良く、今はゆっくりと日が昇ってくるのを待ちながら茶など喫しつつ最愛の人・牧の目覚めを待つ。クク。
 古来稀なる年齢を過ぎた者が「最愛の人」などと呟けばさぞかし滑稽だろうが、幾つになってもそういう気持ちはどこかにある。現実にではないにしても、またその資格のない者でも、おとぎ話のようなもので、これは心のビタミン剤とでもいうことにしておこう。
 小入笠の上に雲を透かして日がようやく顔を出した。幾種もの鳥の声が聞こえてきて、その声がいっそう静寂を深める。囚われの鹿たちはまだ眠っているのか姿を見せない。

 きょうは、昨日40本以上打ち込んだグラスファイバーの支柱に、リボンワイヤーと呼んでいる通電用の電線を取り付ける作業が待っている。第1牧区を囲む電気柵の一部300㍍くらいの距離に張られていたそれを撤去して、新たな場所に設置する。
 この電気柵は鹿対策用に県が実験的に設置した。以来、その効果は不明ながらも、保守にはどれほどの手間をかけたか分からない。夏は漏電対策のためキロメートルを越える下草刈り、冬は雪による折損の恐れがある場所を撤去し、春になればまたそれを立ち上げる・・・、電圧が落ちれば点検、修理、こういうことを何年もずっと繰り返してもきたのだ。
 意外なことに、ふと、そのままそこに残しておきたいという気持ちが湧いてきたのには自分でも驚いた。長年愛用した軽トラを廃車にするようなもので、この場所に電牧はなくなるし、もう再び張られることはない。
 
 しかしそういうふうに、ここに存在するものは自然だけでなく、この電気柵や小屋のような人工的な物も含め、様々なものに愛着を持っていることを改めて識った、識らされた。

 キャンプ場を含む「入笠牧場の宿泊施設のご案内」は下線部をクリックしてご覧ください。
 本日はこの辺で。
 
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

     ’22年「春」(58)

2022年05月19日 | キャンプ場および宿泊施設の案内など


 牧場の本来の仕事に専念できないまま、ここでの暮らしが1ヶ月になった。早かったかと言えばそこは微妙で、そのことに気付いた時は、まだそんなものかと感じたほどだった。思い返せばいろいろとあったから、正直なところ過ぎたこの1ヶ月は結構長かった、そう言ってもいい気がする。
 1年の始まりも最初の月はゆっくりと過ぎ、そして次第に時の経つのが早まる。そんな気がするように、これからまた牧の7か月が同じような経過をたどるのだと思う。しかしそれでも、何かこの先に格別新たに期待することも、求めることもあるわけではないから、今のままで不足はない。

 今、キャンプの人気が高まっていると聞いている。それにもかかわらず、この広さでも最大10組しか受け付けないなどとするから、申し込みをしても断られると懸念する人がいるらしい。さにあらずで、ここは日々平穏、人気(ひとけ)はあまりない。いや、ここだけでなく、covid-19の制限が緩和されつつありながら、入笠山の周辺も例年に比べていつになく今年は静かな気がしている。
 昨日から露天風呂の修理が始まった。2,3日かかるらしいが、これで昨年ずっと頭を悩まし続けた漏水の問題は解決する。「延命 星見の湯」なんて名前も付けたけれど、湯につかりながら頭上に横たう天の川銀河を気の済むまで眺めて欲しい。もうすぐクリンソウも咲き出すから、湯船からその花の咲く湿地帯を目にすることもできるだろう。

 そんなことを呟いて外に出てみたら、罠の中に鹿が入っている。ようやく捕獲できたものの、しかしその数たったの4頭、これでは有害動物駆除には何の効果もない。そういう意味で彼女たちは哀れな生贄として殺処分されることになる。
 可哀想だと思うことを否定しない。そういう感情は誰にでもある。しかし、昨日の夕方に第3牧区のある大沢山に行ってみれば幾つもの鹿の群れが、わが物顔で折角生え出した牧草の一番芽を食んでいた。その群れ、ざっと6群、頭数にしたら200はいただろう。目にした数がそれだけだから、あそこにはもっといると考えて間違いない。
 何度も同じことを呟くが、鹿がいてもいい。問題はその程度で、適切な頭数管理ができるなら、むしろいて欲しいくらいだ。何と言ったらいいのか、あの動物の繁殖力には人工的な手を加えるしかないと、再三ここでも言ってきたが、対策はどうなっているのか分からない。

 きょうもいい天気だ。ようやく、牧場の仕事に専念できている。
 キャンプ場を含む「入笠牧場の宿泊施設のご案内」は下線部をクリックしてご覧ください。
 本日はこの辺で。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

     ’22年「春」(57)

2022年05月18日 | キャンプ場および宿泊施設の案内など

Photo by Ume氏
 
 一体どうしたというのだろう、午前5時半、気温零度、霜まで降りた。天気は良くなるだろうが日はまだ山の向こうで曇天、高曇りの朝だ。森はこの寒さで沈黙していると思って外に出てみたら、いつもの朝と変わらず鳥たちの元気な声がして、鹿の鋭い警戒音も聞こえてきた。鹿は害獣に指定され、この牧場もその被害に手を焼かされているが、それでも出産期を迎えた親鹿を少しは気遣う気がないわけではない。
 
「山桜の花の季節はひっそりと終わった」という昨日の呟きを訂正しなければならなくなった。昨日、撮影の下見に来た人たちを案内していたら、粉雪のような白い花がまだ若葉と混ざり合いながら咲き残っている木を何本も見付けた。驚いた。
 ここで毎春、山桜の咲くのを待ち、それらを眺めながら過ごしてきたが、花の寿命がこれほど長いとは気付かなかった。もう、半月にもなるだろう。それとも、今年はこういう寒暖の激しさの影響で、いつもの年とは違うのだろうか。

 きょうは露天風呂の修理、撮影の下見、それに加えて開山祭を控え年1回の林道の整備に参加する東部支所の人たちが昼食に立ち寄ることになっている。こういうことも大事だが、本当は牧場の仕事だけに今は専念していたい。
 ざっと見て400㍍、もしかするとそれ以上の距離の牧柵を張らなければならない。昨日はそのための支柱を25本ばかり抜いた。それではまだとても足りないが、きょうはその間の有刺鉄線を回収しようと思っていたが、予定通りに行くか分からない。
 昨日の歩数も1万3000歩、「急な斜面を平地のように歩く」と吹聴してきたが、やはり年には勝てそうもない。尻の周りに鈍い痛みが残り、腕が妙にしびれて昨夜は寝付くまでに何度となく寝返りを打った。有難いことに、膝には何の問題もなく、そのお蔭でこの仕事ができている。
 自分の思うように計画し、思うように仕事を進めていく。誰に言われたわけではない。気は急くこともあるが、みんな自分で決めてしていることだ。
 周囲のこの自然、この季節、最愛の人と一緒に仕事をしているような気がしている、と言ったら嗤われるだろうか。

 キャンプ場を含む「入笠牧場の宿泊施設のご案内」は下線部をクリックしてご覧ください。
 本日はこの辺で。
 
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする