入笠牧場その日その時

入笠牧場の花.星.動物

     ’20年「秋」(60)

2020年10月31日 | キャンプ場および宿泊施設の案内など


 この独り言の題名である「秋」は、きょうで最後にしようと思う。60日、長い秋を望んでいた者にとって決して長かったとは思えないが、だからといって人の一生と同じく、過ぎていく時や季節に対して抗う術もない。夕暮れの山道を里へ帰り、そしてまた翌日には同じ経路を上り返す、その片道1時間15分が今秋はなかったから、そのせいもあって季節は余計に短命であったような気が、今になってしている。

 昨日、陣中見舞いに来てくれたTDS君が帰ってから再度残留牛の様子を見に行くと、つるべ落としの薄暮の中、27番が単独で沢を越えた放牧地にいた。27番のように縄に繋がれているわけではないから、腹が減ればそうした行動をとっても当然だとは思っていたが、実際に目にしたのはあの時の捕縛失敗以来初めてだった。
 遠くからでも見知った人間だと分かったのだろうか、最初は少し緊張した態度を見せたが、呼んだら沢を渡り老牛27番のいるいつもの根城に戻ってきた。大きな身体をしているが4歳かそこら、人間の子だってまだ親の保護下にあるのだから、もっと知能の遅れた牛の行動としてはそれで合格と言って褒めてやりたい。
 ところが、長幼の序を守る25番に対して、老牛27番の態度には呆れた。自分だけが餌を食べられればいいとばかりに、鼻先に置いてやった餌のみならず、あれほどいつも一緒にいる25番を押しのけて、彼女の分の配合飼料までも自分の物にしようとした。思わず引きづっているロープをつかみ元の場所に戻そうとしたら、暴れも反抗もせずに素直に従った。ただ後ろ足2本は25番の餌場であるロープの輪の中だったので、後ろから尻を押してやったら、とりたてて反抗もせず、さりとて動こうともしなかった。
 最近のこの牛27番の態度はどう見ても図に乗り過ぎの気がした。こっちが気を遣う分だけ相手はさらにより太々しい態度になってくるようで、長年連れ添った夫婦ならある話だろうが、相手が牛とあればいつまでのさばらせていられるか、そろそろ限界である。それにしてもこの老牛、ロープに繋がれていることをあまり気にしているようには見えないところが不思議で、可笑しい。
 他の牛が里に下りてからもうすぐ1ヶ月になる。こんな山の中の牧場で、老いた人間と2頭の牛との奇妙な関係は、そろそろ終わりにする時が来た。終わりにしなければ。

 Mさん、あの牛たち1頭の重量は大型力士の4倍も5倍もあります。1斗樽ぐらいを持って行かなければ、とても効果は期待できないでしょう。クク。本日はこの辺で。明日は沈黙します。
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     ’20年「秋」(59)

2020年10月30日 | キャンプ場および宿泊施設の案内など


 午前6時半、今朝は霜が降りている。気温マイナス2度、快晴。入笠山と権兵衛山の鞍部、「仏平」の少し右の辺りから日が昇り始めた。里にいても、真冬になればマイナス4度くらいの部屋で寝起きしているから、この程度ではどうということはない、と言いたいところだが、寒さには強くない。
 
 昨日は予定通り、第4牧区の電牧を一部の急な斜面はアルミ線を地面に落としを縫い付け、支柱を抜いた。こうしないと雪で支柱が折られてしまう。また、それ以外の箇所は下段のアルミ線を上段に上げ、鹿に切られないよう通り抜けできるようにしてやる。
 撤去した支柱は幾本かづつにまとめて残置し、来年のことを考えて支柱を打ち込んであった穴には杭などを差し込み目印にしておく。かなり手のかかる面倒な作業だが、毎年の牧を閉じる前の仕事である。牛の入牧が多かったころはこの作業を第1、第4に加えて、第3牧区もやらなければならず、距離にしたら何キロぐらいになるだろうか。6㌔とかもっと長いかも知れない。
 電気牧柵であるがゆえに保守には手がかかり、断線の補修も頻繁にやらねばならないが、その最大の仕事は電牧下の草刈りだろう。もしもこれらが通常の有刺鉄線の牧柵であり、ここまでの数の鹿がいなければ、牧場管理の仕事は格段に楽になるはずだ。



 下と打ち合わせた結果、来月の2日、もう一度牛の捕縛を試みることにした。それまでは、2頭の牛には給水、給餌を続け、ひたすら手なずけておくことにした。面白いことに、木の枝に長いロープで繋がれた老牛27番はそこを牛舎とでも思っているのか、現状を受け入れているように見える。また25番の方は、自由にどこへでも行けるのに、まるで見えないロープで繋がれているように、いくら老牛に邪険にされてもその傍から離れない。
 写真のようにロープの輪の中に給餌しているのは、捕縛に際してこの結び目を持って、頭から被せるという算段なのだ。最初は怪しみ警戒したが、もちろん、4歳の牛にはその意味など分からない。今でもその好機だと思う時はあるが、後のことを考えればとても一人で2頭は手に負えない。我慢して、9回最大のピンチで登板した抑えのピッチャーの心境さながら、逆点大ホームランにならないよう、頭の中だけで練習を重ねている。
 2頭の暴れ牛である、冬はもうそこまで来ているのに、まだまだ楽観するわけにはいかない。
 本日はこの辺で。
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     ’20年「秋」(58)

2020年10月29日 | キャンプ場および宿泊施設の案内など


 午前5時半、気温1度。ようやく夜が明けだした。今朝は霜が降りていないようだ。わずか1度か2度ほどの気温の違いに過ぎないというのに、これでも今朝はいつもよりか暖かいということになるのか。
 凍結防止のため水道の水はすでに流しっぱなしにしている。この先さらに寒くなるという予報で、予約のある11月の3日までは何とか水道を維持するが(その後も営業は続ける)、いよいよ取水は屋外となり、例年のことながらここでの暮らしはかなりの不便を覚悟しなければならない。
 
 2頭の残留牛にかまけているわけではないが、きょうは第4牧区の小入笠までの電気柵の電気を切って、冬対策に切り換える。放っておけば発情期でもあり、興奮した鹿による電牧の被害がさらに増えてしまうからだ。
 それにしてもこの時季、雌鹿の群れを従えた雄鹿がやたらと目立つ。第3牧区のある大沢山へ行けば何十頭の数ではなく、百頭を超える鹿の群れと出くわすこともある。牧草が食べられるのも問題だが、通常の有刺鉄線が切られてしまうこと、それにあの数の雌鹿の大半が来年には子を産むのかと思えば、空恐ろしくなる。雄鹿が憎い。
 大型の囲い罠を後約半月、猟期が始まる11月の15日までは仕掛けておくが、それで幾頭か捕獲できたとしても、また3か月の猟期にどれほどの鹿が捕獲されたとしても、まず鹿の繁殖力の前には高が知れている。ライフル銃も鹿の頭数削減という点においては水鉄砲のようなもの、かも知れない。行政も猟師も鹿の頭数が減ったと言うが、実態を知らないのだろう。
 鹿の避妊薬を早く開発して、塩による誘引効果の高い夏から今ごろに限ってでも、塩、避妊薬を混ぜた土の塚を設け、それで出生数を抑制するしかないと、相も変わらずここで空しく呟くだけだ。因みに当牧場なら、そういう塚を5乃至10も作れば、その効果はかなり期待できる。
 クマの人里への出没が目下問題になっているが、ドングリの実が不作だからだと・・・、ムー。クヌギの林など減っていくいくばかりでも、西山のクマの数は増えている。「『クマが近付かないような対策を』呼びかけている(NHK)」と、そんなおざなりなことを言われても、ハテ?どうしたらいいのか。「落石注意」、「雪崩に注意」ほどの効果しかないだろう。
 本日はこの辺で。
 

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     ’20年「秋」(57)

2020年10月28日 | キャンプ場および宿泊施設の案内など

Photo by Ume氏






     強化した檻と残留牛
 ここまで接近できていながら、なぜロープを掛けられないのかと思うかも知れない。しかし、ロープの輪を帽子のように頭に載せることはできても、長い鼻先をくぐらせなければ、牛の確保にはつながらない。以前にも似たようなことがあったが、下を向いている牛には無理だった。また暴れた場合、27番を確保しているロープともつれたり、足場の悪い現場ではロープの支点を即座に得ることが困難なことも予想される。そればかりか、さらにこの試みは一度限り最後のチャンスで、失敗できない。
 昨日、思い立って里へ下った。捕獲用のロープに登攀用のロープを使ってみたらどうかと考えたのだ。9ミリX40㍍と11ミリX40㍍があるが、あらかじめ支点となりそうな木にロープの一端を縛り付けておいて、好機到来を待つというやり方である。くくり罠の場合は足を痛める可能性が高い分、この方が牛にはより安全な方策だと思う。今回は扱いやすい9ミリを選んだ。
 仮に上手く行ったとしても、次には待機しているトラックまで連れていくことは至難なことで、その際に、他にもロープは掛けるが、この40㍍のロープを主にして支点を移しながら進めば、いくら暴れても前回のように逃がすことはないだろうと思っている。

 たった2頭の牛の為に、これだけの労力を強いられる。牧場の冬支度もままならないでいるし、対して鹿の跳梁が目に余る。早く電牧を落とし、その支柱を抜く作業を始めたり、できれば追い上げの坂に刈り置いたススキは燃やせるだけ燃やしたい。
 他の牧場もそうだが、牛が来なくなれば放牧地はススキの原と化し、ここの牧場の場合はそれに加え実生の落葉松が繁茂、群生する。一挙に今の景観は失われるだろう。観光がどうだとか高説をたれるあの人たちは、そういうことがどこまで分かっているのやら。
 先日に降った雪は根雪となったようで、今朝来る時見頃を過ぎた紅葉の間から、北アルプスの峰々が冬の衣装をまとい見えていた。本日はこの辺で。

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     ’20年「秋」(56)

2020年10月27日 | キャンプ場および宿泊施設の案内など

Photo by Ume氏

 あれほど苦労と危険を犯して捕らえた老牛27番までを逃がし、誰もが疲れ果てて帰ってきた。どうやら、捕縛していた綱の持ち主を次々に襲い、ひるんだすきにまんまと逃げおおせたようで、牛に勝負あり、と言うしかない。
 そうした最中に現場を離れ、待機していたトラックまでの往復の間でも、25番1頭だけを残した場合、事態はさらに困難になりはしないかということを考えていた。老牛27番をロープで繋いで、水と食料を運び、25番を近くに留めておくようにした方がまだ、その先の手立てが生まれるような気がしないでもなかった。だから、2頭を逃し、残留という結果には、25番を捉え損ねたときほどに落胆をしないで済んだ。

 一昨日と昨日、再度使う機会が訪れるのか分からない檻を、単管の間に牛が首を突っ込めないよう周囲をネットで巡らし、8本の支柱を使い檻全体を強化した。その間にも、檻から数百㍍離れた落葉松林の大岩の傍に、2頭の牛たちが根城のようにしている場所を突き止めておいた。
 一昨日は遠くから場所の確認だけで済まし、昨日はさらに接近し、20㍍くらいの距離から沢を挟んで「Autumn Leaves」を聞かせてやった。長いロープを3本も引き摺った27番は、それがどこかに引っ掛かり、動けない可能性もあった。
 牛たちが美声に酔うはずもなかったが、少しも逃げようとする態度を見せないので、注意しながら接近を試みた。5歩、10歩・・・、牛はそのまま動かない。25番はそうしようとすればいつでも逃げることができるはずなのに老牛の傍らから離れようとしない。ついに2頭の牛に手を伸ばせば届く距離まで接近した。抱えていた配合飼料をそれぞれの目の前にある手ごろな大きさの石の上に置いてやると、牛たちはそれを素直に食べ出した。
 その間に、27番が引き摺っていた気になる一番長いロープを、近くの太い木の枝にブーリン結びで繋いだ。取り敢えず27番はそれで確保できたが、以後、水や食料を自由に得ることはできなくなる。これが正しい処置かどうかは分からなかった。当の牛は食べる方に夢中でそのことに気付かなかったと思う。きょう、状況次第では、27番の自由を奪っているロープを含め安全の為、全てを切ってやることも考えている。
 まだそれほど楽観はしていないがもう一度、2頭の牛たちとのの関係改善、信頼関係を取り戻すことができるかも知れない。ただ、そう思いつつも27番を自由にする前に、25番をくくり罠で捕まえることができないかという考えも、頭の端にはあるのだが。(つづく)
 本日はこの辺で。
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