銀河夜想曲   ~Fantastic Ballades~

月が蒼く囁くと、人はいつしか海に浮かぶ舟に揺られ、
そして彼方、海原ワインのコルクに触れるを夢見、また、眠りにつく……

友達

2017年06月29日 22時59分00秒 | 散文(覚書)
急き立てられるように
自分の不安を消したいがために
あなたたちに救いを求めました

あなたたちは確かに僕の大切な友達です
だけど
病院の見舞いじゃあないけど
1度は義理で見舞いに行っても
2度、3度と見舞いに行く人がなかなかいないように
その後のことも気にかけて連絡してくれる人はそうそういない



どこかに自分の確証を見つけたくて
自分は間違っていなかったんだという拠り所が欲しくて
あなたたちの胸にすがりました

あなたたちは確かに僕の大切な友達です
だけど
あなたたちにとって僕はとても弱い
情けないくらいにひ弱い人間で
今の僕がどれだけ揺らいでいるか
この瞬間にでも
心に過ぎらせてくれる人はそうそういない



それでも
それでも僕は恵まれている

恵まれているんだと信じたい







もしも本を浮かべられたら

2015年10月11日 22時59分44秒 | 散文(覚書)
もしも宙に本を浮かべることができたなら
自分が寝っ転がって読むためじゃなくって
そこやあそこ あちらやこちら
そここにいる影たちに
たくさんの本を読ませてあげたい
影たちはきっと本を読みたがっているはずだから
本の表紙を太陽に向けてやれば
風がぱらぱらとページを繰ってくれるだろう
本を読み終えた影たちは
つまらない黒一色なんかじゃなくって
きっと色々な色に生まれ変わるんだと思うんだ

もしも宙に本を浮かべることができたなら
影の隣で僕も横になって
次の風が吹くまでじっくりと
そのページを読み続けるんだ



翻る秋の羽

2015年09月28日 10時51分27秒 | 散文(覚書)
九月も終わりの屋根の上
陽を受けた蝶と蝶とが
音なく けれどひらひらと
仲睦まじそうに飛び交っていた

同じように陽を受けた植物の
緑色から黄緑色へと深呼吸する姿に目配せして
どこか知らず飛んでった
色の具合はよくわからなかったけれど
太陽に向かって命を伸ばしていた

どこか光のあふれる方へ向かったのだろう
二匹結ばれたら蝶々という名になり
天に光を受け返すのだろう

黄緑に呼吸する葉の群が静かに揺れている
幾重にも重なって
蝶の夢にそよいでいる



焦がれても

2015年08月14日 21時21分25秒 | 散文(覚書)
せっかく会えたというのに
あの時どうして僕は
あなたとろくすっぽ話さなかったのだろう

気恥ずかしさなんかじゃなく
会えて嬉しい気持ちが強すぎて
あの場にいらっしゃった驚きが強すぎて
今こうして風邪を引いてしまっているように
なんだか自分の体温が変わってしまったんです

変なプライドだと笑ってください
自分でもおかしくって
あれからずっと
情けない気持ちでいっぱいなんです

次に会える時が来ても
あなたの目をもっとよく見て
あなたの笑顔をもっとよく見て
ずっと想っていましたとは告げられないでしょう
あなたに会えるだけで
海に溺れたように慌ててしまうのですから
ひまわりの笑顔に焦がれる
小さく臆病な海なのですから




こずえちゃんへ

2015年07月30日 20時32分30秒 | 散文(覚書)
こずえちゃんへ
こずえちゃんへ

僕は叶うことなら今すぐにでもお会いして
こずえちゃんに謝りたい
こずえちゃんの頭を殴ってしまったことを謝りたい
遊びの流れの中だったとは思うけど
バットで頭を殴ってしまったことを謝りたい

同じ団地の同じ階に住んでいたこずえちゃん
僕はこずえちゃんという名前を忘れていて
今ではもうその顔さえ霞のまた霞になってしまっているけれど
母親からようやく名前を引き出せた

幼い僕より小さかったこずえちゃん
幸せでいますか
元気でいますか
どこで暮らしていますか
僕はこずえちゃんに会いたい
会ってあの日のことを謝りたい

どうしてあんな残酷なことをしてしまったのか
どうしてもっと楽しく遊べなかったのか
ごめんね
本当にごめんね

あの日のこずえちゃんへ
今の日のこずえちゃんへ

会いたいよ
トゲが刺さったように
会いたいよ
ずっとずっと
心の深い深いところで
こずえちゃんのことが刺さっているよ




しずかな雨

2015年07月16日 23時41分47秒 | 散文(覚書)
雨が降ったり嵐が来たとき
虫たちはどうしてるの?

黒い毛布をかぶって寝ているのさ

鳥たちも?

眠れない人の心の中を飛んでいるのさ

そこは雨?

鳥が静かに鳴いている
世界のはしっこだよ

虫たちは起きないのかな?

大丈夫
夢がまた夢を呼ぶから

花壇の隅っこにも
雨は降るものね



そう簡単に

2015年07月14日 02時31分38秒 | 散文(覚書)
でもさぁ
何があったって諦めるわけにはいかないんだよ

ひとりぼっちのような気はするけど
絶望に囲まれている気配はするけど
生きている限りは
崖の高さとでさえ背比べができるじゃないか
無力感で流す涙でさえ熱をもっているじゃないか

だから
そう簡単に項垂れるわけにはいかないんだよ
そう簡単に行き倒れるわけにはいかないんだよ



期待

2015年06月18日 00時19分51秒 | 散文(覚書)
人に期待しすぎていると
お前は一笑に付してしまったけれど
期待なんかしてやしない
それが当たり前だと思っているだけだ
しかしお前が言うのには
どうやらこの世にいる限り
自分の行っていること
思い巡らせていることを当たり前の基準にしては駄目なんだと
そういうことなんだろう
そういうことなんだろう

馬鹿みたいだ
そういうことなんだろう


私の会いたい人たち

2015年06月16日 18時08分03秒 | 散文(覚書)
夢の中や葬儀の場なんかじゃなく

私の会いたい人たちが

豊かな水と静かな樹木の生える

秘密の木漏れ日のような所で一堂に会せたら

どんなにいいだろう

その人たちが生きてきた背景を

目をつむって一緒にかみしめ合えたら

どんなに胸が一杯になるだろう

そうしてそこで

未来を共に縫い合わせていけたら

こんなに幸せなことはない

こんなに涙が喜ぶことはない

細い絹糸のような雨が泉に小さな円を描くように

こんなに尊いことはない




腹の立つこと

2015年06月14日 01時31分46秒 | 雑感・徒然なる想い
具合が悪いと伝えて
「大丈夫ですか」と心配されるのは紋切型で
その言われ方次第によっては腹の立つ場合もある
しかし
あっさり受け流されて
具合の程度さえ聞いてこない
伺おうとしない者が一番腹が立つ
そういう者に限って
自分の状況や状態の悪い場合に
声高に叫ぶ



子どもたちは

2015年06月05日 23時25分18秒 | 散文(覚書)
子どもたちは毎日鬼ごっこをしている
子どもたちは毎日おままごとをしている
子どもたちは毎日かくれんぼをしている
子どもたちは毎日お絵描きをしている
子どもたちは毎日ブランコをこいでいる
子どもたちは毎日積み木を積んでいる
子どもたちは毎日誕生日ごっこをしている

ため息をつくことはあっても
子どもたちは絶望しない
ケンカをすることはあっても
子どもたちは素直に泣いてまた遊ぶ

大人も一日だけ
子どもになれる日というのがあったらいい
いや
一年に一日だけじゃあなくって
24時間のうち一時間だけでも
毎日
子どもに帰れる時間があったら本当にいい

きっと
世界は今より面白く
楽しく平和になれる

そのとき
みんなの宿題が
ひとつの輪っかになる



移ろう月に寄せて

2015年06月04日 03時19分42秒 | 散文(覚書)
昔よく祖母が教えてくれたお手玉を
すっかり中年になったこの夜に
この静かな一人だけの夜中に
ふと思ったのです

星もない黒い空
月だけが
私の心の中の小さな宇宙を見ているようで
私も
部屋の窓をゆっくり渡る月を見ているのです

お手玉をしたくても
祖母のおにぎりを食べたくても
月は静かに移ろうだけ

あの時のお手玉は
あの時の丸いおにぎりは
今この月の
移ろいだったのかもしれません

満月のように見えて
どこか欠けている
照り輝いているようで
儚き行く末を湛えている
月もお手玉おにぎりも

月が黒い雲に隠れるのは
誰かがその瞳に
墨汁を落としたからでしょうか
忘れたくない思い出を
忘れてしまった悔しさ故でしょうか



部屋の窓からは
すっかり月が消えてなくなりました

心のどこかで
今も祖母に教えてもらっているお手玉を
時折部屋へ吹き込む風たちが
邪魔をするのです

お手玉をしたくても
祖母のおにぎりを食べたくても
月は静かに移ろうだけ



きっと私達は

2015年05月28日 22時44分34秒 | 散文(覚書)
きっと私達は
少しずつの苦しみをもって
世界を知っていく
少しずつの苦しみをもってして
生きていくしかない



今日も一人の俳優が逝った
どんなに無念だったことだろう
どんなに腹が立ったことだろう
どれほど辛く
どれほど悔しかったことだろう
直接の知り合いでなくとも
私は彼の死が居た堪れず
何をどうしていいのかも分からない



昔 彼の芝居を生で観た
非常に男気のある
熱のこもった筋立てと演技
心の片隅のまた片隅で
静かに
時に熱を帯びるように覚えておきたい俳優だった
だから尚更
トゲで刺されたような痛みが走る
メスで温かな包布を切り裂かれたような嘆きが走る



きっと私達は
少しずつの苦しみをもって
生きていくしかない
哀しみの最中にいない時でさえも
決して
憎しみの感情に支配されていない場合であっても
少しずつ叫んで
何かに耐えながらも少しずつ
また
小さく叫びながら
生きていかねばならない



だから
だからこそ
自由闊達な体躯であるくせして
簡単に
生意気に
死にたいなどと口走る奴は
殴りたいほど許せない
この世の何をお前は知り尽くしたのだと
殴り倒したいほど許せない



日の暮れた山のように人知れず叫んで
日の暮れた山の向こうに取り残されたように泣くのだ
それが哀しみの本質なのだ
だからこそ
簡単に死にたいなどとほざくな



世界よ
こんな夜こそ
世界よ黙っていろ





知っていますか

2015年05月26日 23時40分41秒 | 散文(覚書)
涙もろい不思議な夜です
ぽろぽろあふれるハンカチで
何度も拭いてあげましょう
絵本のページをめくるように
そっと小指に乗せてあげましょう

きっとあなたの心の中で
水平線が満ちたのでしょう

もうすぐ梅雨がやってきます
知っていますか
涙もろい人の足元で
妖精は傘を差してくれています
その爪先まで濡れないようにと

もうすぐ梅雨がやってきます
知っていますか
紫陽花の葉っぱの垂れた先に
小さな木琴があることを
ぽろぽろ涙が花びらへ返り咲くようにと



ショパン:ピアノ協奏曲第1番&第2番

2015年05月23日 01時01分02秒 | クラシック音楽
ショパンの2曲のピアノ協奏曲を、独奏ピアノを1843年製プレイエル・ピアノで、オーケストラを1838年製プレイエル・ピアニーノで演奏。この形での録音は世界初!! 両作品とも総じて悠然としたテンポで弾かれているものの、盛り上がりを見せる箇所と沈着してゆく箇所とのコントラストの描き方に長けていて、聴いていて心地良いです。どちらの曲においても、第一楽章の独奏ピアノの出だしは堰を切ったかのように感情が溢れ出し、低音域へと下降してゆく速いパッセージでも力強い打鍵を披露していて、その演奏が胸に沁みます。また、どちらも第二楽章が特に素晴らしく、第2番は燃え立つ慕情と憂い、やるせなさといったものが音色に織り込まれていて、第1番は白いレースのカーテンが風にそよぐような、愛らしく清らかな詩情が匂い立っています。伴奏のピアニーノの音色は、決して音量がある訳でもなく派手さもありませんが、切々と訴えかけてくる奥ゆかしいもので、独奏ピアノの艶ある音色を引き立てている、謂わば内助の功といったところ。故に、オーケストラの音色に埋もれて聴こえにくいソロ・ピアノの旋律が、手に取るように伝わってきます。ショパン好きには堪らない、愛聴盤必至の一枚!!

スー・パク&マチュー・デュピュイ
Herisson
LH11