思想家ハラミッタの面白ブログ

主客合一の音楽体験をもとに世界を語ってます。

2009-01-03 13:35:47 | Weblog
電子には陽電子,陽子には反陽子というように,すべての粒子には電気的性質が逆でそれ以外の性質が
ほとんど同一な「反粒子」が存在する。電気を帯びていないエネルギーから始まった原始宇宙には,粒子と
反粒子が同数ずつあったはずである。しかし,誕生から約137億年たった現在の宇宙は,粒子だけからできて
おり,反粒子でできた反宇宙は存在しない。宇宙の進化の過程で,反粒子は消滅したことになる。
すべての物理法則が粒子と反粒子の入れ替え(CP変換)で不変(CP対称)であるならば,宇宙の進化を
説明できない。つまり,CP対称性は破れていなければならない。

素粒子に働く4種の力のうちのひとつ「弱い力」がわずかにCP対称性を破ることは1964年発見されていた。
弱い力は,粒子がより軽い複数の粒子に崩壊する原因となる力であり,宇宙の進化に不可欠な力である。
なぜ,弱い力だけがCP対称性を破るのか謎であったが,1973年に小林誠と益川敏英は,陽子や中性子を
構成する素粒子クォークは2種でひとつの世代をつくり,2種類×3世代=6種類のクォークが存在すれば
CP対称性が破れるとする理論を発表した。素粒子研究者のほとんどが,クォークは,実在の素粒子ではなく
単なる数学的モデルで,しかも3種類あれば十分であると思っていた頃の話である。

その後,高エネルギー加速器を使った実験によって,クォークは実在し,しかも6種類あることが明らかに
なった。6種類目のクォークが発見されたのは1995年である。小林・益川理論のエッセンスは,3世代の
クォークがあって初めてCP 対称性が破れるという点にあるから,第3世代に属するクォークからなる粒子
B中間子を使って,予言どおりCP対称性が破れるかどうかを測れば検証できる。高エネルギー加速器研究機構
(KEK)の実験グループは,B中間子ファクトリー加速器を使って2001年夏,小林・益川の予想が正しいことを
示す実験結果を得ることに成功し,クォークのCP対称性の破れの起源の解明に終止符を打った(図)。
現在,小林・益川理論は,南部の示したゲージ対称性の自発的破れのメカニズムときわめて整合性がとれた形
で,素粒子理論の骨格をなしている。自然のもつ対称性には深淵な意味がある。が,対称性の破れには,
さらに深淵で根源的な意味があるのである。