演劇企画集団THE・ガジラ
3月2日~14日 ザ・スズナリ
原作:武田泰淳
構成・脚本・演出:鐘下辰男
出演:若松武史 千葉哲也 松田洋治 小高仁 品川徹
”スズナリ”のこの空間、なんと久しい~。
下北沢にある小さな劇場なんだよ~。
飲み屋横丁にくっついてるの。2階に上る階段は古いアパートみたい。
大劇場しか知らない人は、眉をしかめてしまうかも…。
でも、最近は御近所にスープカレー屋『マジック・スパイス』(美味しい!)も出来たから、
知名度は上がってるかな?(…微妙)
今回の公演は、中央に舞台を設置。
役者たちが歩き回る舞台の向こう側に、私の席はあった。
だから、舞台踏んじゃったぁ。ってカーペット敷いてあるんだけどね。
150に満たないその客席が徐徐に埋まってゆく。
実年男性の顔が多い反面、若い女性もいるなぁ。
昔からの言い伝えにあるこった。
人の肉さ食ったもんには、首のうしろに光の輪が出るだよ。
緑色のな。うッすい、うッすい光の輪が出るだよ。
何でもその光はな、”ひかりごけ”つうもんの光に似てるだと。
第1次戦後派作家・武田泰淳が、1954年に発表した小説『ひかりごけ』
実はノンフィクション。
事件はS18年冬。知床半島沖で軍徴用の輸送船団1隻が座礁して遭難。
厳冬の60日間、人肉を食してたった1人生還した船長。
世界史上唯一『食人』により有罪判決を受けた事件。
過去に劇団四季も上演。歌劇化もされている。
舞台端に設けられた切戸口が唯一の出入り口。
演じるのは5人の男達。
北海道にひかりごけを見に来た作家と案内する校長が、
洞窟に入ってくる所から始まる。
暗い穴の中は、いつしか旅館となった。
鍋を囲み、熊の肉を食べながら、その物語は語られる。
”食”を実感させるリアリティー。
蝋燭と落とした照明…。
気がつくと、褌姿の男が4人。難破した船員たちのようだ。
”人肉を食す”って、他にも事件あったでしょ。
留学先のフランスで恋人の肉を食べた佐川君なんて、
唐十郎の本ともどもセンセーショナルだったし。
南米だったか、飛行機の墜落事故で
乗客の肉を食べたってのが映画化されたし。
カニバリズムって言葉もあるし。
今更ショッキングなことじゃない。…はずだった。
けど、同僚が死んで行くのを待ち、その肉を食らう。
じんじょーじゃぁねぇ~わ。やっぱ。
「死にたくない!」「俺の肉を食べるんだろ!」
狂人となるのではなく、理性あるまま息を引きとった者。
その肉を食べられるのか?…。
”約束したから”食べずに、死んで行く男。
食したことを恥じて泣き崩れる男。
「食べることが何故悪い!」怒る船長。
出演者の役は、いつのまにか様々に変わる。
この人達皆が私で、私がこの人達なんだ…。
ドサッッとかぶさってくる倫理観の境界線。
船長の審判へと場面は移る。
「肉を食べた者として、あの船員達に裁かれないと裁かれた気がしない」
彼の深く暗い心を人々は理解するだろうか…。
奇しくも「網走・紋別、海明け 過去2番目の早さ」
小さく載った新聞記事。
「海明け」は視界内の流氷量が半分以下となり、
沿岸で船舶が航行できるようになった最初の日。
流氷は春が近くなると、海岸から遠ざかったり近づいたりを繰り返すが、
もはや接近しないと判断されると「海明け」の発表となる。
「人の肉を食べる」
人生の中で、遭遇する確率はほとんどない。
でもね、「へ~」では終わらない。
鉛の海から生還するのに時間がかかった。はぁ…。
HPはこちら → オフィスコットーネ(舞台写真あり)
演劇企画集団THE・ガジラオフィシャルブログ → THE・ガジラ党(舞台写真あり)
出演者のブログ →品川徹の役者日記
「ひかりごけ」 武田泰淳/著 新潮文庫
「佐川君からの手紙」 唐十郎/著
「霧の中」ほか 佐川一政/著
前回公演のルポレポはこちら → 「ヒカルヒト」
もっと演劇の世界へ!
私も見たあとに、かなり色々なことを考えてしまい、この日の眠りは浅かったです。
風邪は治ったのですね。ヨカッタです。
微熱なんてある身体で、あの舞台観たら、「夢だ~!」って叫んじゃってたかも…。
今回の公演も終演後、一皮向けた気分と、心に鉛を飲み込んだ気分が混ざり合って大変でした。
そ~なんです。そのままの気持で帰ると眠れなくなったりする。
ドーンと騒いでから帰りたいですが…。こういう芝居は一緒に行く人いないです~(笑)
逆に、私も1人で行きたい気分ですね。やっぱり。