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火力発電(石炭ガス化複合発電)

2012年03月05日 | カ行
 原子力発電所の停止に伴う電力不足を当面補うのは、天然ガス火力発電に加え、石炭火力発電になりそうだ。石炭による発電は環境への負荷が大きいが、二酸化炭素(CO2)の排出を抑えられ、発電効率も高い石炭ガス化複合発電(IGCC)の実証試験が進んでいる。

 石炭火力発電のCO2排出の大幅削減に有効なのは、海底下の地層などにCO2を封じ込める回収・貯留(CCS)技術。だが岩盤のすき間から漏れ出す可能性などがあり、実用化は早くても2020年以降になりそうだ。一方、石炭を細かく砕いて約1800度に熱し、ガス化したあと燃やすIGCCは実用化が有望視されている。

 電力各社が出資するクリーンコールパワー研究所(福島県いわき市)の実証試験は25万㌔ワット(約8万世帯分)を東北電力に供給している。

 基本的に、天然ガスのコンパインドサイクルと同じで、ガス化した石炭を燃やしてタービンを回し、さらに燃焼熱で水を蒸気にして蒸気タービンも回す2段階発電。発電効率は43%だが、将来的に50%が可能だという。燃料の生産から輸送、そして廃棄物処分に至るまでのCO2排出量は従来の石炭火力より2割減り、石油火力並みになる。

 タービンに送る前のガスからの不純物除去で、窒素・硫黄酸化物、煤塵(ばいじん)も天然ガス火力並みに抑えられるという。

 課題は、コストだ。IGCCはガス化の設備があるため、コストは従来の石炭より2割高い。渡辺勉社長は「効率が上がっても全体のコストは若干高め」と話す。

 資源エネルギー庁によると、2009年度の発電全体に占める石炭火力の割合は約16%。資源量が多く、世界各地で産出されるので供給が安定している。

 世界では2度の石油危機以降、国際エネルギー機関(IEA)の閣僚理事会の合意で、新規石油火力の建設が凍結され、石炭火力が増えた。電気事業連合会によると、日本の石炭火力は、1984年度の923万㌔ワットから、2009年度は3795万㌔ワットに増えている。

 電力中央研究所の原三郎・上席研究員は比較的古い石炭火力が徐々にIGCCに置き換わるとみる。「効率の低い石炭発電を使う国や電力需要の増加が著しい国への技術移転で、CO2排出抑制に貢献できる」と話す。
 (朝日、2011年11月09日。杉本宗)

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