マキペディア(発行人・牧野紀之)

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シュタイナー(ルドルフ・シュタイナー)

2007年10月06日 | サ行
 1970年代以降、とみに注目されるに至ったルドルフ・シュタイナー(1861~1925)の業績は、「シュタイナー教育」の名で知られる教育の分野だけでなく、ゲーテ研究、人智学、社会三層化運動、芸術、建築、医療、農業、キリスト者共同体など広い分野に及んでいる。

 その中心にあるのは、人智学である。人智学とは、人間及び世界の中心に宿る目に見えない霊性、神性の認識を課題とする学問的方法の体系をいう。

 彼はこの人智学の立場で、科学を尊重しつつも、森羅万象をもっぱら物質で解釈する物質主義的世界観の横行を批判している。

 現代人の多くは物質主義と科学主義に汚染され、本性の欲求である、奥深い充実した生き方をすることができない。

 シュタイナーはこの現実に注目し、人々がその時代風潮と利己心の誘惑にいかに打ち勝ち、充実した生き方を享受できるか、という問題に取組んだ。

 彼のいう充実した生き方とは、学問、芸術、宗教、道徳などによる精神的な生活を主柱に据えつつ、職業的経済的な生活、法的政治的な生活を営み、さらにその中で自己と他者とを高めることであった。そしてこれを享受することは、万人の願いであり権利であるという。

 それはどうすれば実現できるのか。そこで決定的な役割を果たすのが教育である。

 彼によると、学校教育を終えた後、充実した生き方を享受できるかどうかは、幼児期から青年期までの教育によって決まるという。適切な教育を受けるならば、こどもは生きる力を具備し、充実した深い生き方の道を歩むことができる。そうでない場合、その道は閉ざされてしまう。

 シュタイナーは、教育をこのうえなく重視し、1919年、ドイツのシュツットガルトに画期的な学校を設立した。知育偏重の打破のもとに、こどもの発達段階と個性が重視され、みずみずしい知性と心の育成や、豊かな芸術性と国際性が求められた。

 この学校の教育方法はいまや世界の60カ国に広まり、高い評価を受けている。ユネスコはシュタイナーの学校をプロジェクト校に指定し、ドイツのコール前首相もわが子をシュタイナー教育にゆだねた。

 シュタイナーの残した教育と学校は、荒廃した教育の再生を求めて努力する多くの人々を、今も元気づけ鼓舞してやまない。

 (朝日新聞、1999年01月22日、広島大学教授、広瀬 俊雄)