尾形修一の紫陽花(あじさい)通信

教員免許更新制に反対して2011年3月、都立高教員を退職。教育や政治、映画や本を中心に思うことを発信していきます。

「現代秀歌」から①-「恋・愛」と「青春」

2015年07月03日 23時32分05秒 | 本 (日本文学)
 2014年10月に出た永田和弘「現代秀歌」(岩波新書)を最近になって読んだ。短歌についてあまり知らない僕にとって、大変ためになる面白い本だった。著者はさきに「近代秀歌」を出したが、そっちは有名な歌が多かったからブログには書かなかった。今度の本は現代をうたった100人の歌人を取り上げていて、その大部分はよく知らない。(歌人一人に一首のみ選んでいるので、100人が取り上げられている。)このまま忘れてしまうのはもったいないので、ここで紹介しようと思う。全部一度に書いても読みにくいから、全10章を5回に分けて、チョコチョコと書いて行きたい。

 なお、知っていいる人も多いと思うが、永田和弘氏は京都大学名誉教授で、現在は京都産業大学教授の細胞生物学者。岩波新書に「タンパク質の一生」という本を書いている。これも面白い本だったけれど、なかなか難しかった。岩波新書で、理系と文系の両方の本を書いた最初の人だそうである。と同時に、若い時から歌人として知られ、夫人も有名な歌人、故・河野裕子。河野裕子の死後に著した闘病記「歌に私は泣くだらう」が2013年の講談社エッセイ賞を受賞して、話題となった。まず、第一章「恋・愛」から気になった歌を選んでみたい。 

  あの夏の數かぎりなきそしてまたたつた一つの表情をせよ  
                                       小野茂樹
 小野茂樹という人は、1936年生まれだが、1970年にタクシーの交通事故で突然亡くなって衝撃を与えたという。でも全然知らなかった。

 夫人の河野裕子(1946~2010)の歌も選ばれている。
  たとへば君 ガサッと落葉すくふやうに私をさらつて行つてはくれぬか  
                                       河野裕子
 中で触れられている歌も忘れがたい。
 逆立ちしておまへが俺を眺めてた たつた一度きりのあの夏のこと  河野裕子

 名前だけ聞いたことのある春日井建(1938~2004)の歌
 太陽が欲しくて父を怒らせし日よりむなしきものばかり恋ふ  春日井建

 折口信夫の弟子として有名な岡野弘彦(1924~)も名前しか知らなかったけど…。
 うなじ清き少女ときたり仰ぐなり阿修羅の像の若きまなざし  岡野弘彦
 これはものすごくよく判る。だけど、永田氏が100首に選んだ歌は別の歌。これにはビックリした。「ごろすけ」というのは、フクロウのことだそうである。
 ごろすけほう心ほほけてごろすけほうしんじついとしいごろすけほう  岡野弘彦
 俵万智や美智子皇后の歌もここで選ばれているのだが、もういいだろう。

 次は第二章「青春」から。キリンの歌が二つ入っている。
 あきかぜの中のきりんを見て立てばああ我といふ暗きかたまり  
                                       高野公彦

 夏の風キリンの首を降りてきて誰からも遠くいたき昼なり  
                                       梅内美香子
 高野公彦は1941年生まれ、梅内美香子は1970年生まれの歌人。青春とは「自分」と格闘する時間なんだなと思う。別に僕はここで「評釈」をする気はなくて、歌の中身の話はぜひ本書を読んで欲しい。僕が選ばなかった歌が5倍ぐらいあるので。
 寺山修司(1935~1983)や佐々木幸綱(1938~)もここで選ばれている。一応紹介しておきたい。
 海を知らぬ少女の前に麦藁帽のわれは両手をひろげていたり  寺山修司

 さらば象さらば抹香鯨たち酔いて歌えど日は高きかも  佐々木幸綱
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