カワセミ側溝から(旧続・中岳龍頭望)

好きな言葉は「のこのこ」。好きなラジオ中継「相撲」。ちょっと苦手「煮た南瓜」。影響受けやすいけど、すぐ忘れます。

金の為だが恋の為だか   腕くらべ

2017-03-08 | 読書

腕くらべ/永井荷風著(岩波文庫)

 荷風が大正時代に発表した、花柳界の女を主人公に、新橋花柳界そのものの世界を描いた作品。芸者の駒代は、昔なじみのあった吉岡という旦那から身請けさせてもらえそうになりながら、同時に役者と恋に落ち、付き合いで馴染まざるを得なくなった別の旦那などの絡みがありながら、花柳界で生きていく。他の芸者も出てくるが、この駒代を中心において物語が展開していく。したたかにふるまいながらも裏切られ、義理も立てながら、逆恨みも食らう。花柳界の風俗もふんだんに描かれていて、恐らく当時の風俗的に貴重な資料にもなるんじゃなかろうか。恋の駆け引きは義理や人情を中心とするやり取りで、周りにいる女や男たちとの影響も大きい。綱渡りのようなことを平気そうにやりながら、しかし事は思うようには運ばない。芸者で生きていく女の悲しさもありながら、華やかさでプライドの高い見栄もある。しかし女としての恋心もちゃんとあって、恋のためにはみじめな思いもしなければならない。
 しかしまあ、モデルのようなものがちゃんとあるんだろうけど、よくもまあ当時の女心のようなものを見事に描き出したものである。男の視点で女をいやらしくも描いているのは、娯楽としてだろうけれど、心理描写の葛藤などは、まさに女の鬼気迫るものが伝わってくる。性を売りながら心の葛藤があるのは当然であろうけれど、このような世界に昔の男が当然のように遊んでいた時代というのを垣間見ることができた。もっとも現代においてもこのような世界が皆無であるとは言えないが、むしろシロウトの方が、昔の花柳界のようなことになっているような気もする。それはまあ、読んでみたらわかるだろうけど、恋愛というのは昔も今もそんなに変わるものでは無く、むしろ制約の多かった、自由の無かった芸者の身であるからこそ、その恋に懸けるような思いに切実なものがあったのかもしれない。
 大正時代だからといってもそんなに昔のことでは無い。多少男が我儘なように見えなくもないが、その分お金も使っている遊びなのだろう。そういう意味では、ちょっと平民では分かり得ない、華麗な世界だったかもしれない。
コメント
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