ごっとさんのブログ

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有機化学は何をやっているのか その8

2017-07-23 10:41:30 | 化学
ここまで7回にわたり「有機化学とは」ということについて書いてきました。

正確には私がやってきた有機化学ということで、一般の物とは若干違っていますが、30年以上やってきた研究で思いつくことを書いてきました。思い出的なことはたくさんありますが、このシリーズは今回で終わりにして、ここでは私がやってしまった失敗の事項を最後に述べてみます。

どうも研究者仲間では、有機合成というと危険がつきもののような印象を持っているようです。確かに反応が暴走してしまい爆発するとか、可燃性の溶媒を大量に使っていますので、何かあると大事故になる可能性はありますし、有毒な試薬類も使用しています。それでも機器類の進歩や実験環境の整備が進んでいますので、最近はまず事故が起こることは有りません。

私が経験した最大の事故は、研究生として大学に行っていたころですので40年以上も前の話です。当時は溶媒を完全に脱水するために、金属ナトリウムという物質を使っていました。これは水と瞬時に反応し、水素を発生して苛性ソーダになるもので、非常に危険なものでしたが、当時は普通の脱水剤として扱っていました。

これは使用後に処理する必要があり、土に穴を掘ってそこに入れ水をかけて燃やしてしまうという乱暴なものでした。その処理の時、少し量が多いからと若手の助手の先生2人と私と穴掘り用に学生2人連れて、研究棟の裏の広場(ソフトボールをよくやっていました)の片隅に穴を掘ってそこに入れたのです。

そこに助手の先生がかなり離れた位置からバケツの水をかけたのです。私もこの処置は何回か見ていたのですが、その時は偶然かなり離れた位置まで下がり、学生に性質など説明していた記憶があります。

その水をかけた瞬間大爆発が起こり、火柱が横にある研究棟(4階建て)の屋上より高く燃え上がったのでした。幸い水をかけた助手の先生もその他の我々も全く怪我をしなかったのは不幸中の幸いと言えます。

その他にも全く被害は出なかったのですが、辺り一面溶けたナトリウムが水銀のように散らばってしまいました。これを長い棒でつっつき、ポンと爆発させて燃やすという作業がかなり大変でした。

通常は1メートルほどの炎が出て燃えるだけのものが、この回はなぜ大爆発になったか一応結論は出たのですが、ここでは省略します。この後教授が謝り、助手の先生方が始末書を書いて治まりました。当然その後はナトリウムの処理もやや面倒ですが安全な方法に変わり、このような乱暴な方法は終わりになりました。

この事故は私の失敗というより、身近な事件でしたが今でも忘れられない事故と言えます。