ごっとさんのブログ

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運動療法を妨げるホルモンを発見

2017-03-10 10:39:03 | 健康・医療
金沢大学、同志社大学等の研究グループが、中高年に多い2型糖尿病や脂肪肝などの患者が、運動療法を行っても効果が上がらない原因の一つが肝臓から分泌されるホルモンであることを突き止めました。

これは研究グループが2010年に見出した「セレノプロテインP」という、高齢者や2型糖尿病患者、脂肪肝患者で増える傾向があり、血糖値を上げる働きがあるものです。このセレノプロテインはホルモンということは知りませんでしたが、昔から興味を持っていました。

もともとは私の隣の臨床検査薬の研究室で、肝臓だけで合成される物質であることから、肝機能のマーカーにならないかを調査していました。つまり肝臓の機能が低下すると、セレノプロテインの血中濃度が下がることを期待したのですが、この記事にあるように上がってしまうこともありあきらめたようです。

私はこのセレノプロテインの構造に興味がありました。このタンパク質は名前のように、分子中にセレノシステインというアミノ酸を含んでいます。システインは末端にSHつまり硫黄を含んでいるのですが、セレノシステインはこれがセレン(Se)に置き換わっているものです。

硫黄とセレンは同じ属ですので、似たような性質を持っていますが、生体物質中にセレンが含まれるのは非常にまれなことのようです。セレンは有機化学でも使うことのある金属ですが、かなり毒性が高く扱うのに注意しなければいけないものでした。しかしこの金属はヒトにとって必須金属の一つで、脳や精巣などで重要な役割を果たしているようです。

このセレノプロテインの役割はわかっておらず、セレンを末端臓器に運ぶ作用かといわれていました。

余談が長くなりましたが今回の研究では、マウスを1日30分走らせる実験を1か月続けたところ、セレノプロテインを生成できないようにした遺伝子操作したマウスは、通常のマウスに比較して走行限界距離が約2倍長くなり、インスリンの血糖低下作用が大きかったとしています。

健康な女性に運動してもらう実験でも、セレノプロテインの血中濃度が高い場合は、最大酸素摂取量が低く効果が上がらなかったようです。この結果から患者のセレノプロテインの血中濃度を調べれば、運動療法の効果を事前に予測することができます。またセレノプロテインの生成を抑えたり、筋肉への取り込みを防いだりする薬があれば、運動効果の増強薬となるとしています。

今回の研究結果からもこのセレノプロテインの役割はよく分かりませんが、単なるセレン分子の運び手だけでなく、何らかの生理的役割を果たしていそうですので、今後の展開に注目したいと思います。