銀ぶら(ぎん――)
「銀」は銀座、「ブラ」はブラリブラリと歩くこと。乃ち銀座を漫歩することである。独りポッチなんかで歩いたら肩身が狭くて仕方がない。女房でも妹でも善いから連れて歩くべしだ。女房も妹も無い人には?ステッキ・ガール。
ステッキ・ガール(Stick・girl)
国産奨励の現内閣からカップでも戴けさうな純国産語。ウインクと笑顏、それだけで立派に契約は成立して、装飾兼同伴者として宛然恋人の如く、散歩のお伴もお茶の相手もすると云ふモダン職業ガールのこと。然し其の実在性は極めて薄弱であるさうな。遮莫「ステッキ代り」と語呂の似てゐる点、及びステッキ(正しくはスティック)には「囓(かじ)りつく」と云ふ意味がある点などを考へると、自から微笑が込み上げてくる。猶ほ此種のガールと一緒に歩くことを「ステくる」と云ふ。
トッチャンボーイ
家にあれば「アナタ!」と甘へるワイフあり、「パパ」と絡みつく子供あつて、ダンゼンとつちやんであるべき紳士が、何事ぞ勤め先の会社では思ふ存分若返り嬉々として女事務員と談笑を交換し、一旦緩急あつてカフェへコースを転ぜんか、嫌に目尻を下げ、娘のやうな女給を抱擁しては、ガゼン「わたしや夜咲く酒場の花よ」と、声もあへかに唄ひ出す。おとつちやん兼モダン・ボーイといふ、世にも珍らしからぬ二重人格者に捧げ奉る称号である。
見 た(みた)
これは主として女学生の間に用ひられる語で「あの情景は拝見させて頂きましたワ。」で、一寸いみしんな言葉だ。人をからかふ時に用ひられる。試合の時など「見たぞ、見たぞ」とやるのは、「失策を見た」と云ふ意味である。鴛鴦の夢醒めやらぬ新夫人なんかに用ひると、其の効果驚くべきものがあるさうだ。
(「モダン語漫画辞典」 中山由五郎著ほか)