〇日本民藝館 特別展『美の標準-柳宗悦の眼による創作』(2022年1月10日~3月20日)
いま東京国立近代美術館では『民藝の100年』展が開催されている(まだ見に行けていない)。ということは、同館の名品は近美に出払っているはずだから、こっちはどうなんだろう?と思ったが、そんな心配は全く無用だった。本展は、柳宗悦が「美の標準」として蒐集した多様な品々を展観する。という企画趣旨を事前に読んでもよく分からなかったが、展示を見た上で読み直すと、「時代や産地、用途などが異なりながら同一の美しさで通底」とか「同じ美の源泉から多種多様な姿で顕れた」という表現が、まさに!と実感できる。
今回は、玄関を入ってすぐのしつらえがとても気に入ったので、大階段まわりから見ていくことにした。向かって左の展示ケースには拓本、印章、色紙和讃などの文字資料。壁には巨大な拓本『水牛山般若経』(北斉・山東省)。私は日本民藝館で見る拓本コレクションがとても好きで『漢蕩陰令張遷碑』(漢代・山東省)とか『鉄山匡喆刻経頌』(北周・山東省)『爨寶子(さんぽうし)』(東晋・雲南省)とか、難しい名前を必死でメモしてきて、あとでネットで調べている。
右側の展示ケースには多様な小品。螺鈿の菓子箱や根来の茶入や鉄瓶と、フランスの緑釉皿、ドイツの陶製の乳注などが同居している。壁にはグレゴリオ聖歌の楽譜や西洋の民画、その下に『奈良絵扇面散画帖(扇の草紙)』(室町時代・16世紀)。分厚い折帖の4面だけ開いており、A4くらいの地紙に素朴な人物や動物を描いた扇面が3点ずつ貼られていた。走る馬に乗った貴人、僧侶(仏像?)を寝かせて運ぶ二人など、何の話なのか気になる。鍋のようなものを被った女性二人、扇面の外の文字に「つくまの」だけ読めた。筑摩の鍋かぶり祭だろうか。
階段を上がると踊り場の展示ケースにも小品多数。大きな輪を転がして遊んでいるような『藍絵天使図タイル』がかわいい。左右の壁には筒描(つつがき)の布。右の絵幟、湖畔か川岸の城郭を描いた図かと思ったら『備中高松城水攻図』だった。手前に瓢箪の馬印が揺れている。
大展示室へ向かう順路で目に入った展示ケースには、まるで茶室の床の間のように、小さな面具と口まわりの欠けた大きな壺が取り合わせてあった。どちらもモノクロに近い色味。奉納面(室町時代)には『迦楼羅』と名前がついていたが、鳥のくちばしは持たず、高い鼻が三角形にとがっている。
大展示室は、ちょっと説明不能で、とにかく美しいものに囲まれた幸福感で満たされた。いちおう中程度以上の大きさの品には、時代や産地が簡潔に付記されているのだが、日本の室町時代の漆器の隣りにヨーロッパのガラス器や南米の陶器が並んでいても何の違和感もない。赤・白・緑や、丸・四角・三角という、色やかたちの取り合わせの妙が純粋に楽しい。まさに「時代や産地、用途などが異なりながら同一の美しさで通底」しているのだ。民藝って、日本の伝統回帰のように考えられがちだが、実はグローバルな「美の標準」であることを、あらためて感じた。
産地等の説明なく「動物文様の工芸品」「山水文様の工芸品」みたいに小物を集めた展示ケースもおもしろかった。展示ケースに収まらない大型品を中心に、露出展示の品も多く、インドの吹きガラス瓶や韓国の煙突(磁器?銅製?)は初めて見たように思う。むかしの石油ストーブ?と思って近寄ったら、新羅時代の厨子だったのには苦笑した。
その他の展示室は、1室だけ特別展関連で『伊勢参詣曼荼羅』2幅など、宗教・信仰に関するものを多く集めていた。『築島物語絵巻(つきしま)』もあり。高山寺印を持つ『神泉苑図』(鎌倉時代)は地味な文書絵図を切り取って表装したもの。粋人が茶掛けにでもしたのだろうか。いまホームページを見たら「小田原文化財団蔵」の注記がついていた。
他は、柳宗悦、バーナード・リーチ、浜田庄司、河井寛次郎と棟方志功、芹沢銈介を1室ずつ特集していた。好きな作品もあるけれど、やっぱり時代や場所を超えた民藝の魅力と比べると、しょせん個人の力量は小さいなあと思った。