見もの・読みもの日記

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伝法灌頂の実態/密教相承(神奈川県立金沢文庫)

2022-01-23 21:47:11 | 行ったもの(美術館・見仏)

神奈川県立金沢文庫 特別展『密教相承-称名寺長老の法脈-』(2021年12月3日~2022年1月23日)

 称名寺の僧侶達が伝授した密教典籍をもとに、称名寺が執行してきた密教修法の様子を仏像、仏画、仏具を交えて再現し、密教寺院・称名寺の中世の姿を紹介する。と聞いても、展示のイメージがつかめなくて、迷っていたら最終日になってしまった。難しかったが、中世の寺院の運営実態について、いろいろ新しい知識も得た。

 称名寺の開基は、北条氏の一族である金沢(かねさわ)北条氏の祖、北条実時(義時の孫)である。今年は大河ドラマで北条氏が脚光を浴びているので、金沢文庫も集客の好機かもしれない。下野薬師寺の僧だった審海を招いて真言律宗の寺となり、二世長老・釼阿、三世長老・湛睿に受け継がれた。展示には、『両界種子曼荼羅』(鎌倉時代)や『弘法大師像』(室町時代)『十二天像』(12幅・室町時代)など、真言宗らしさを感じる仏画・仏具が出ていた。しかし、色鮮やかな『真言八租図』(南北朝時代)は龍華寺の所蔵で、称名寺には真言八租図は伝わっていないのだそうだ。また、称名寺の不動明王幷二童子像(鎌倉時代)は、長い前髪を額に垂らす髪型で天台宗タイプに思われた。

 密教では、阿闍梨(指導者)の位を授ける際に伝法灌頂という儀式を行う。これは真言宗(東密)にも天台宗(台密)にもあり、さらにそれぞれ多様な流派があった。流派によって十二天図の並べ方が違ったというのも興味深い(だから屏風だと対応できない)。称名寺では、複数の流派の伝法灌頂が行われており、二世釼阿は三世湛睿に複数の阿闍梨位を伝えている。称名寺では、仁和寺御流が特に重要だったと見られるが、仁和寺御流の阿闍梨位を持っていたにもかかわらず、長老(住職)に任ぜられなかった僧侶もいるらしい。詳しい事情は分からないが、本泉坊素叡という名前、ここにメモしておこう。

 金沢北条氏の滅亡後、保護者を失った称名寺は、寺内で決定した住持を対外的に認めてもらうために、安堵状を必要とするようになった。本展には、鎌倉公方であった足利直義による御教書などが展示されていた。

 伝法灌頂は大規模な儀式で、基本的に灌頂を受ける者の負担で行われた。造花600本の経費が絹〇疋とか、赤裸々な会計文書も残っていて面白かった。五宝・五香・五薬・五穀などを揃えるのも大変そうだ(調べたら、現在は仏具店でセット販売されていた)。導師等には謝金が支払われるので、寺の収入源でもあった。また、伝法灌頂というと「儀式」の面に関心が集まるが、受者は師匠である阿闍梨の所持する文献を借り受け、書写し、自分のものとする習いだった。奥書には、いつどこで(有力者の邸宅など)誰の所持本を書写したかが書かれている。現在に伝わる「〇〇抄」という多くの写本は、こうして制作されたことを理解した。

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